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初めてのクエストを終えてから早くも一ヶ月が経ち、その間にもスズネたちは、荷物の運搬、家や道路の改修作業、薬草類の素材集めなどのEランククエストを精力的にこなしていた。
「ぷはぁ~。今日も疲れたーーー」
「あはは、今日も一日お疲れ様でした」
本日のクエストも無事に終えることができ、報酬も受け取り、ギルドの椅子に腰を掛けるスズネたち。
椅子の背もたれにもたれ掛かりながら疲れた様子を見せるミリア。
それとは対照的に、姿勢良く対面の椅子に座り笑いかけるスズネ。
スズネの隣ではクロノが腕と足を組み、瞳を閉じて沈黙している。
「アタシたちも冒険者になって一ヶ月が過ぎたでしょ。Eランクのクエストにも慣れてきたし、早くランクを上げてDランククエストも受けてみたいな~」
「Dランククエストか~。確か他の街へ行く荷馬車なんかの護衛とかだったよね。道中で魔物との戦闘もあるとか…。クロノはどう思う?」
己の腕に自信があるミリアはもっと大きなクエストに挑戦したい様子。
一方のスズネは、護衛対象を守りながら魔物との戦闘をすることに不安があるようで、クロノに意見を求めた。
そして、そんなスズネからの問い掛けにそれまで沈黙を続けていたクロノが口を開いた。
「実力不足だな」
クロノからの非常なまでのキツい一言を受け、以前のように突っかかっていくかと思いきや、意外にも冷静に受け止めるミリア。
「やっぱりまだ無理か~。この中で圧倒的に強いクロノが言うんだから間違いないんだろうね」
分かってはいたが、いざ言葉にして言われると現実を突き付けられたような感じがして、頭を抱えながら項垂れるミリアであった。
その反応があまりにも意外だったため、スズネとクロノは少し驚いたような表情を見せた。
しかし、ミリアはそんなことお構いなしに話を続ける。
「ねぇねぇクロノ、個人の実力不足は各々鍛錬するとして、他に足りないモノって何がある?」
ミリアは真剣な眼差しをクロノへと送り、現状の自分たちに足りないモノが何なのか教えを乞う。
そんなミリアの質問に対しクロノも茶化すことなく真摯に答える。
「正直に言って、お前らの実力的にその辺りにいる低級の魔物ぐらいなら問題なくやれるだろう。特にミリア、お前なら複数を相手にしても難なく対処できるはずだ。しかし、その数が十や二十になった場合には話が変わってくる」
クロノは一切の希望的観測を交えることなく、ただただ冷静に自分たちの現状を分析した上で話を進めていく。
「まぁ~単純な話、頭数が足りてないってことだな。あとはパーティとしての連携面ってところだろうな」
はぁ~と大きな溜め息と共にスズネとミリアは頭を抱えた。
その理由は言わずもがな。
先送りにしてきた問題がとうとう目の前に現れたのだから、当然といえば当然の光景である。
「仲間か~・・・。なるべく考えないようにしてたけど、一番の問題はやっぱりそこか~」
「募集を始めてから一ヶ月経つけど、何の音沙汰もないもんね…」
これまで目を背けてきた問題に直面し項垂れる二人。
すると、突然隣の席に座っていた男が声を掛けてきた。
「お嬢ちゃんたちパーティメンバーを探してんのかい?」
声のする方へと視線を向けると、そこには四十代くらいの男が一人、依頼書を手にしながらニコリと笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「盗み聞きするようなマネしちまって悪いね。俺は”ミネルヴァ”ってクランに所属しているロマリオってもんだ。よろしく」
「あっはい。私はスズネと言います。こちらこそ宜しくお願いします」
「アタシはミリアよ。ヨロシクね」
二人の挨拶を聞き終えると、ロマリオはチラリと横目でクロノを見た。
「そんでもって、そこのイケメン兄ちゃんが魔王クロノか…」
その言葉を聞いた瞬間にミリアは剣に手を掛ける。
そして、それと同時にロマリオに対してキッと睨みを利かせつつ殺気を飛ばした。
「おっとっと、誤解しないでくれ。君らに手を出す気なんてこれっぽっちも無いから安心してくれ」
自身に向けて唐突に向けられた殺気に対して驚いた様子のロマリオは、咄嗟に両手をあげて苦笑いをしながら無抵抗をアピールする。
「おい、剣から手を離せミリア。その男に俺を攻撃する意思はない。ついでに実力もな」
「ワッハッハ。こいつは手厳しいな」
クロノの言葉を聞き、フゥーと息を吐き出し剣から手を離すミリア。
その正面に座っているスズネは、いまいち何が起こったのか理解しておらずポカンとした表情をしている。
そして、ドッと疲れた様子を見せるミリアをよそにスズネはロマリオと談笑を始めた。
「ロマリオさんはクロノが怖くないんですか?」
「俺も長いこと冒険者をやっているからな。その相手がどういう奴かだいたいの善悪くらいは分かるつもりだ」
「へぇ~すごいですね」
「これでも一応はBランクの冒険者だからな」
そんな調子で二人が和気藹々と盛り上がっていると、痺れを切らしたクロノが横から割って入る。
「そこのお前、そんなくだらない話はどうでもいいんだよ。何か俺たちに話があったんじゃないのか」
「あ~そうだった、そうだった」
クロノに即され、思い出したようにロマリオは話し始めた。
「さっきお前さんたちの話が聞こえちまったんだが、仲間を募集してるってんなら一人心当たりがある」
「「ほんとですか!?」」
「どんな人ですか?」
「戦士?魔法師?」
「男性?女性?」
「年齢は?」
ロマリオからの思いもよらない話に興奮を隠しきれないスズネとミリア。
今の自分たちにとってまさに願ってもないチャンス。
そんな二人は興奮のあまりロマリオに対し矢継ぎ早に質問を浴びせた。
「おおお…まぁまぁちょっと落ち着いてくれ。確証は無いんだが、最近誰かとパーティを組んでるって話も聞かないから、恐らく大丈夫だと思うって話だ」
ロマリオの想像を遥かに超えるほどの大興奮を見せる二人。
その勢いに圧倒されつつも、ロマリオは話を進める。
そして、スズネたちは真剣な面持ちで話に耳を傾けるのだった。
「名前はラーニャ。ジョブは魔法師で、確か・・・十歳の女の子だ」
「じゅっ…十歳!?」
十歳という年齢に驚きを隠せないスズネとミリア。
二人がそうなるのも無理はない。
ここガルディア王国では十八歳で成人とみなされる。
そしてサーバイン戦闘専門学校においても、その多くの者が十歳頃から入学し、十八歳を目処に卒業を目指すのである。
そんなわけで、十六歳という年齢で卒業したミリアとスズネはむしろ早い部類に入るのである。
さらに首席で卒業したミリアはかなり優秀であり、本人さえその気になれば王国騎士団に入ることも夢ではないほどだ。
「十歳といっても舐めてかかると痛い目をみるよ。確かに見た目は幼い少女だが、使用する魔法は一流だ」
「へぇ~そんなに凄いんですね。それなら是非とも仲間になってもらいたいです!!その方は何処にいるんですか?」
「ちょっと待って、スズネ」
ロマリオの話を聞き、嬉しそうに話を進めようとするスズネ。
そんなスズネに対し、ミリアは場を落ち着かせるかのように待ったをかける。
「どうしたの、ミリア?」
「ロマリオさん、十歳にして一流の魔法を使うなんて、まさに天才ですよね。そんな天才が、どうしてどこのパーティにも属していないんですか?そして、そんな強力な戦力をなぜアタシたちみたいな駆け出しの冒険者に紹介するんですか?」
どうにも話が上手すぎる。
何か裏があるに違いない。
そう感じたミリアは、疑いの眼差しを向けつつ質問した。
「いや、すまない。決して騙すつもりなんてないんだ。その辺りも含めてちゃんと説明をするから安心してくれ」
ミリアからの質問を受け、慌てたように両手を上げて弁明をするロマリオ。
苦笑いを浮かべつつ謝罪をするロマリオを前に、ミリアはチラリとスズネに視線を送った。
その視線にスズネは笑顔と頷きをもって応える。
そうして、二人は改めてロマリオの話を聞くのであった。
その間クロノは黙ったままジッとロマリオを見つめていたのだった。
「さっきも話した通り、ラーニャの使う魔法は一流だ。とても十歳とは思えないほどにね。なんでそんな事を知っているかというと、まぁ~正直なところ元々俺たち”ミネルヴァ”の一員だったことがあるからなんだ」
「彼女が辞めた理由は何なんですか?」
「それを今から説明するよ。確かにラーニャは強力な戦力になる。だけど、まぁ~何というか・・・正確に難ありというか、他のメンバーとの諍いが絶えなかったんだ」
ラーニャが辞めた(辞めさせられた?)理由を聞いたスズネとミリアは、意外すぎるその理由に開いた口が塞がらず唖然としている。
そんな二人の様子を気に留めることなくロマリオは話を続ける。
「そして、それは俺たちのクランだけってわけじゃないんだ。同じような理由で他のパーティやクランを渡り歩き、入っては辞めを繰り返した挙句、今ではどこのパーティ・クランにも所属せず西の森に引き篭もっているって噂だ」
ロマリオの話を聞き終えたスズネたち。
スズネはまだ理解が追いついていない様子。
正面に座るミリアはグッと腕を組み難しい顔をしながら考え込んでいる。
「あーっはっはっは」
その時、それまでダンマリを決め込んでいたクロノが唐突に笑いだした。
三人は急に笑いだしたクロノに驚き顔を見合わせる。
「ど…どうしたの、クロノ?」
恐る恐る質問したスズネに、クロノはニヤリと口角を上げて応える。
「良いねぇ~そういう奴。強い奴は大歓迎だ。俺の配下に加えてやろう。おいお前、そのラーニャってのは西の森にいるって言ってたな、それは何処にある?」
「えっ…あっ…西の森ってのは、ここから ───── 」
「いやいや、ちょっと待って、ちょっと待って」
勝手に話を進めようとするクロノとロマリオをミリアが勢いよく止めに入る。
折角面白くなってきたところを邪魔されて、まるで玩具を取り上げられた子供のように不満いっぱいの表情を見せるクロノ。
「アンタ何を勝手に話進めようとしてんのよ。それから配下って何よ、配下って。アタシたちはアンタの配下に入った覚えなんてないわよ」
瞬間湯沸かし器の如く瞬時に怒りが頂点に達したミリアの怒号がギルド中に響き渡る。
そんなミリアからの怒りを受け、クロノは大きく溜め息をつく。
「この中で圧倒的に強いのは俺だろ。その俺が率いているんだから、お前らは全員俺の配下に決まってるだろ」
「はぁ~??確かに現状アンタはアタシたちの中で一番強いかもしれないけど、あくまでもアンタはスズネの召喚獣でしょ。飼い犬も同然よ!!」
─── ピキピキッ ───
「何度も言っているだろ。この俺を召喚獣ごときと一緒にするんじゃねぇ~よ。あんまり調子に乗ってると焼き殺すぞ」
「上等じゃない、やれるもんならやってみなさいよ。この駄犬」
─── ピキピキピキッ ───
「よーし、良い度胸だ。骨すらも残らんと思え」
どんどん熱を帯びてヒートアップしていくクロノとミリア。
そしてミリアからの挑発に対し、クロノが不敵な笑みをもって応戦しようとしたその時 ───── 。
「二人とも、いい加減にしてーーーーー」
目の前で繰り広げられる二人の小競り合いに我慢の限界を超えたスズネが吠えた。
ビキビキビキビキ ───────
「ぐぉ~~~~~」
凄まじい激痛に頭を抱えて悶絶するクロノ。
目の前で起きている光景に、何が何だか分からず呆然とするロマリオ。
「お…おいおい、大丈夫か兄ちゃん。一体何がどうなってんだ??」
突然叫びながら悶え苦しむクロノにギルド中の視線が集まる。
そんな状況に、慌ててミリアが視線の主たちに向けて四方に頭を下げる。
そして、ギルド中を巻き込むほどの惨事を引き起こした当の本人はというと・・・苦しむクロノに見向きもせず、ぷっくりと頬を膨らませてご立腹中なのであった。
「ぷはぁ~。今日も疲れたーーー」
「あはは、今日も一日お疲れ様でした」
本日のクエストも無事に終えることができ、報酬も受け取り、ギルドの椅子に腰を掛けるスズネたち。
椅子の背もたれにもたれ掛かりながら疲れた様子を見せるミリア。
それとは対照的に、姿勢良く対面の椅子に座り笑いかけるスズネ。
スズネの隣ではクロノが腕と足を組み、瞳を閉じて沈黙している。
「アタシたちも冒険者になって一ヶ月が過ぎたでしょ。Eランクのクエストにも慣れてきたし、早くランクを上げてDランククエストも受けてみたいな~」
「Dランククエストか~。確か他の街へ行く荷馬車なんかの護衛とかだったよね。道中で魔物との戦闘もあるとか…。クロノはどう思う?」
己の腕に自信があるミリアはもっと大きなクエストに挑戦したい様子。
一方のスズネは、護衛対象を守りながら魔物との戦闘をすることに不安があるようで、クロノに意見を求めた。
そして、そんなスズネからの問い掛けにそれまで沈黙を続けていたクロノが口を開いた。
「実力不足だな」
クロノからの非常なまでのキツい一言を受け、以前のように突っかかっていくかと思いきや、意外にも冷静に受け止めるミリア。
「やっぱりまだ無理か~。この中で圧倒的に強いクロノが言うんだから間違いないんだろうね」
分かってはいたが、いざ言葉にして言われると現実を突き付けられたような感じがして、頭を抱えながら項垂れるミリアであった。
その反応があまりにも意外だったため、スズネとクロノは少し驚いたような表情を見せた。
しかし、ミリアはそんなことお構いなしに話を続ける。
「ねぇねぇクロノ、個人の実力不足は各々鍛錬するとして、他に足りないモノって何がある?」
ミリアは真剣な眼差しをクロノへと送り、現状の自分たちに足りないモノが何なのか教えを乞う。
そんなミリアの質問に対しクロノも茶化すことなく真摯に答える。
「正直に言って、お前らの実力的にその辺りにいる低級の魔物ぐらいなら問題なくやれるだろう。特にミリア、お前なら複数を相手にしても難なく対処できるはずだ。しかし、その数が十や二十になった場合には話が変わってくる」
クロノは一切の希望的観測を交えることなく、ただただ冷静に自分たちの現状を分析した上で話を進めていく。
「まぁ~単純な話、頭数が足りてないってことだな。あとはパーティとしての連携面ってところだろうな」
はぁ~と大きな溜め息と共にスズネとミリアは頭を抱えた。
その理由は言わずもがな。
先送りにしてきた問題がとうとう目の前に現れたのだから、当然といえば当然の光景である。
「仲間か~・・・。なるべく考えないようにしてたけど、一番の問題はやっぱりそこか~」
「募集を始めてから一ヶ月経つけど、何の音沙汰もないもんね…」
これまで目を背けてきた問題に直面し項垂れる二人。
すると、突然隣の席に座っていた男が声を掛けてきた。
「お嬢ちゃんたちパーティメンバーを探してんのかい?」
声のする方へと視線を向けると、そこには四十代くらいの男が一人、依頼書を手にしながらニコリと笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「盗み聞きするようなマネしちまって悪いね。俺は”ミネルヴァ”ってクランに所属しているロマリオってもんだ。よろしく」
「あっはい。私はスズネと言います。こちらこそ宜しくお願いします」
「アタシはミリアよ。ヨロシクね」
二人の挨拶を聞き終えると、ロマリオはチラリと横目でクロノを見た。
「そんでもって、そこのイケメン兄ちゃんが魔王クロノか…」
その言葉を聞いた瞬間にミリアは剣に手を掛ける。
そして、それと同時にロマリオに対してキッと睨みを利かせつつ殺気を飛ばした。
「おっとっと、誤解しないでくれ。君らに手を出す気なんてこれっぽっちも無いから安心してくれ」
自身に向けて唐突に向けられた殺気に対して驚いた様子のロマリオは、咄嗟に両手をあげて苦笑いをしながら無抵抗をアピールする。
「おい、剣から手を離せミリア。その男に俺を攻撃する意思はない。ついでに実力もな」
「ワッハッハ。こいつは手厳しいな」
クロノの言葉を聞き、フゥーと息を吐き出し剣から手を離すミリア。
その正面に座っているスズネは、いまいち何が起こったのか理解しておらずポカンとした表情をしている。
そして、ドッと疲れた様子を見せるミリアをよそにスズネはロマリオと談笑を始めた。
「ロマリオさんはクロノが怖くないんですか?」
「俺も長いこと冒険者をやっているからな。その相手がどういう奴かだいたいの善悪くらいは分かるつもりだ」
「へぇ~すごいですね」
「これでも一応はBランクの冒険者だからな」
そんな調子で二人が和気藹々と盛り上がっていると、痺れを切らしたクロノが横から割って入る。
「そこのお前、そんなくだらない話はどうでもいいんだよ。何か俺たちに話があったんじゃないのか」
「あ~そうだった、そうだった」
クロノに即され、思い出したようにロマリオは話し始めた。
「さっきお前さんたちの話が聞こえちまったんだが、仲間を募集してるってんなら一人心当たりがある」
「「ほんとですか!?」」
「どんな人ですか?」
「戦士?魔法師?」
「男性?女性?」
「年齢は?」
ロマリオからの思いもよらない話に興奮を隠しきれないスズネとミリア。
今の自分たちにとってまさに願ってもないチャンス。
そんな二人は興奮のあまりロマリオに対し矢継ぎ早に質問を浴びせた。
「おおお…まぁまぁちょっと落ち着いてくれ。確証は無いんだが、最近誰かとパーティを組んでるって話も聞かないから、恐らく大丈夫だと思うって話だ」
ロマリオの想像を遥かに超えるほどの大興奮を見せる二人。
その勢いに圧倒されつつも、ロマリオは話を進める。
そして、スズネたちは真剣な面持ちで話に耳を傾けるのだった。
「名前はラーニャ。ジョブは魔法師で、確か・・・十歳の女の子だ」
「じゅっ…十歳!?」
十歳という年齢に驚きを隠せないスズネとミリア。
二人がそうなるのも無理はない。
ここガルディア王国では十八歳で成人とみなされる。
そしてサーバイン戦闘専門学校においても、その多くの者が十歳頃から入学し、十八歳を目処に卒業を目指すのである。
そんなわけで、十六歳という年齢で卒業したミリアとスズネはむしろ早い部類に入るのである。
さらに首席で卒業したミリアはかなり優秀であり、本人さえその気になれば王国騎士団に入ることも夢ではないほどだ。
「十歳といっても舐めてかかると痛い目をみるよ。確かに見た目は幼い少女だが、使用する魔法は一流だ」
「へぇ~そんなに凄いんですね。それなら是非とも仲間になってもらいたいです!!その方は何処にいるんですか?」
「ちょっと待って、スズネ」
ロマリオの話を聞き、嬉しそうに話を進めようとするスズネ。
そんなスズネに対し、ミリアは場を落ち着かせるかのように待ったをかける。
「どうしたの、ミリア?」
「ロマリオさん、十歳にして一流の魔法を使うなんて、まさに天才ですよね。そんな天才が、どうしてどこのパーティにも属していないんですか?そして、そんな強力な戦力をなぜアタシたちみたいな駆け出しの冒険者に紹介するんですか?」
どうにも話が上手すぎる。
何か裏があるに違いない。
そう感じたミリアは、疑いの眼差しを向けつつ質問した。
「いや、すまない。決して騙すつもりなんてないんだ。その辺りも含めてちゃんと説明をするから安心してくれ」
ミリアからの質問を受け、慌てたように両手を上げて弁明をするロマリオ。
苦笑いを浮かべつつ謝罪をするロマリオを前に、ミリアはチラリとスズネに視線を送った。
その視線にスズネは笑顔と頷きをもって応える。
そうして、二人は改めてロマリオの話を聞くのであった。
その間クロノは黙ったままジッとロマリオを見つめていたのだった。
「さっきも話した通り、ラーニャの使う魔法は一流だ。とても十歳とは思えないほどにね。なんでそんな事を知っているかというと、まぁ~正直なところ元々俺たち”ミネルヴァ”の一員だったことがあるからなんだ」
「彼女が辞めた理由は何なんですか?」
「それを今から説明するよ。確かにラーニャは強力な戦力になる。だけど、まぁ~何というか・・・正確に難ありというか、他のメンバーとの諍いが絶えなかったんだ」
ラーニャが辞めた(辞めさせられた?)理由を聞いたスズネとミリアは、意外すぎるその理由に開いた口が塞がらず唖然としている。
そんな二人の様子を気に留めることなくロマリオは話を続ける。
「そして、それは俺たちのクランだけってわけじゃないんだ。同じような理由で他のパーティやクランを渡り歩き、入っては辞めを繰り返した挙句、今ではどこのパーティ・クランにも所属せず西の森に引き篭もっているって噂だ」
ロマリオの話を聞き終えたスズネたち。
スズネはまだ理解が追いついていない様子。
正面に座るミリアはグッと腕を組み難しい顔をしながら考え込んでいる。
「あーっはっはっは」
その時、それまでダンマリを決め込んでいたクロノが唐突に笑いだした。
三人は急に笑いだしたクロノに驚き顔を見合わせる。
「ど…どうしたの、クロノ?」
恐る恐る質問したスズネに、クロノはニヤリと口角を上げて応える。
「良いねぇ~そういう奴。強い奴は大歓迎だ。俺の配下に加えてやろう。おいお前、そのラーニャってのは西の森にいるって言ってたな、それは何処にある?」
「えっ…あっ…西の森ってのは、ここから ───── 」
「いやいや、ちょっと待って、ちょっと待って」
勝手に話を進めようとするクロノとロマリオをミリアが勢いよく止めに入る。
折角面白くなってきたところを邪魔されて、まるで玩具を取り上げられた子供のように不満いっぱいの表情を見せるクロノ。
「アンタ何を勝手に話進めようとしてんのよ。それから配下って何よ、配下って。アタシたちはアンタの配下に入った覚えなんてないわよ」
瞬間湯沸かし器の如く瞬時に怒りが頂点に達したミリアの怒号がギルド中に響き渡る。
そんなミリアからの怒りを受け、クロノは大きく溜め息をつく。
「この中で圧倒的に強いのは俺だろ。その俺が率いているんだから、お前らは全員俺の配下に決まってるだろ」
「はぁ~??確かに現状アンタはアタシたちの中で一番強いかもしれないけど、あくまでもアンタはスズネの召喚獣でしょ。飼い犬も同然よ!!」
─── ピキピキッ ───
「何度も言っているだろ。この俺を召喚獣ごときと一緒にするんじゃねぇ~よ。あんまり調子に乗ってると焼き殺すぞ」
「上等じゃない、やれるもんならやってみなさいよ。この駄犬」
─── ピキピキピキッ ───
「よーし、良い度胸だ。骨すらも残らんと思え」
どんどん熱を帯びてヒートアップしていくクロノとミリア。
そしてミリアからの挑発に対し、クロノが不敵な笑みをもって応戦しようとしたその時 ───── 。
「二人とも、いい加減にしてーーーーー」
目の前で繰り広げられる二人の小競り合いに我慢の限界を超えたスズネが吠えた。
ビキビキビキビキ ───────
「ぐぉ~~~~~」
凄まじい激痛に頭を抱えて悶絶するクロノ。
目の前で起きている光景に、何が何だか分からず呆然とするロマリオ。
「お…おいおい、大丈夫か兄ちゃん。一体何がどうなってんだ??」
突然叫びながら悶え苦しむクロノにギルド中の視線が集まる。
そんな状況に、慌ててミリアが視線の主たちに向けて四方に頭を下げる。
そして、ギルド中を巻き込むほどの惨事を引き起こした当の本人はというと・・・苦しむクロノに見向きもせず、ぷっくりと頬を膨らませてご立腹中なのであった。
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