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おまけ

ボツエンド:ある王太子-2

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 後日母にその話をすると、彼女はなぜか気の毒そうな表情を浮かべて微笑んだ。

「陛下は、長い償いの中におられるのです」

 償い、ということは、父王は何かの罪を犯したのだろうか。
 更に尋ねても、母は曖昧に笑うばかりだった。

 だが、何の話か見当はついている。
 父が王位を継ぐ直前の頃。今のカレルよりも若かった時のことだそうだが、隣国の戦争の火の粉が、この国の接する地域にまで飛んできた。隣国から来た暴徒か盗賊かに、町が一つ襲われ、多くの死傷者が出たそうだ。証拠はあったのだ。しかし、それを突きつけて待っているのは戦争だ。圧倒的な大国を相手に、勝てる見込みは万に一つもない。父王は、この国全体のために、その町の人々の無念を看過した。
 結果として、父が最も大勢の民衆を失った出来事となった。おそらく、父は彼らに何らかの方法で償っていたのだろう。

「お若いころの陛下は、どのような方でしたか」
「あなたによく似ておられましたよ。今よりも」

 ――殿下は、幼いころの陛下にそっくりですね。

 母の言葉で、別の誰かの記憶が甦った。まだ子供の頃に、誰かにそう言われたことがある。

 その人は、たしか暗い色の髪と、温かい琥珀色の瞳の女性だった。
 カレルの記憶では、侍女ではなかった。よく父王の傍にいたはずだ。

「……ふと思い出したのですが、昔、陛下にお仕えしていた女性、名は何と言ったでしょうか」
「あなたの乳母ですか?」
「いえ、ヨハンナではなく。琥珀色の目の女性だったと思います」

 その瞬間、部屋の中の空気が変わった。
 誰かの様子が変わったわけではない。長く仕える秘書官や、侍従、侍女たちは、引き続き物静かに控えるか、自分の仕事をしている。
 しかし、何か張り詰めるものが、この部屋に生まれた。

 それを破ったのは母だった。
 ふっと微笑む母だけは、普段通りに見えた。

「それは、ベラーネク伯爵夫人ですよ。……ああ、先代の伯爵のご夫人です」
「先月亡くなられた?」
「ええ。陛下と幼少のみぎりより親交があり、十年以上前に筆頭秘書官を務めておられました」
「そうでしたか。遊んでもらった記憶があるのです。今になって思い出すとは不義理なことをしました……」

 とはいえ、訃報を聞いた時に思い出していたとしても、何かすることはためらったかもしれない。
 先代ベラーネク伯爵の未亡人は、ルドヴィーク公爵家の出身である。公爵家とは鉱山の所有権の返上に関していざこざがあったらしく、代替わりした今でも緊張感のある状態だ。いつか見かけた、夫人の兄である公爵が父王の背を見送った目は、ぞっとするほど冷たかった。
 あれは何だったのだろうか。
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