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27.ある秘書官-4

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「ヴィオラ、あなたには悪いことをしました」

 解放され、少しの期間を公爵領の屋敷で療養したヴィオラは、早々に伯爵領の夫の元まで戻ってきていた。

 ベラーネク伯爵は最近体調が優れず、床に伏していることが多い。帰ってきて一連の出来事を報告する際も、ベッドで体を起こして聞き入っていた。
 妻が、慣習を利用し、最も低俗とされる年初の相手との不貞を繰り返していたのだと知っても、伯爵は眉を顰めることも、ヴィオラを責めることもしなかった。

「陛下があなたを年初の相手に指名するに際して、私に承諾を求めに来られた時、お断りしていればこのようなことにはなりませんでした」
「相手が王家では断ることなどできません」

 伯爵が負い目を感じる必要などないと、ヴィオラはそれを否定した。
 だが、伯爵は悲しげな目で、首を横に振る。

「いいえ。そうではありません。あの時陛下は、とても切実な目をしておられました。それで私は、陛下はあなたに恋しているのだと気が付いたのです」

 伯爵が語ったのは、ヴィオラすら知らなかったイザークの心を、最初から知っていたという事実であった。

「民衆のために身を賭しておられる陛下の、数少ないであろう一つの望みに応えて差し上げたいと、承諾してしまいました。あなたも陛下を愛していると知っていれば、そのような惨いことを選びはしなかった」

 なまじ年に一度の関係があったために、お互いの恋心は消えずに燻ぶり続けてしまった。伯爵が王を止めていれば、この七年目の事件は起きなかったかもしれない。結果から言えばそうなのだろう。

「申し訳ございません、旦那様。このようなことがあっても、私はまだ……。陛下と出会わなければよかったと、陛下が私へ向けてくださった感情を知らなくてよかったとは、思えないのです。これは、旦那様が与えてくださった機会のおかげです」

 最低な結末に至ろうとも、イザークの思いを知ることができた。罪悪感を覚えながら、ヴィオラは夫に謝罪と感謝を述べた。
 伯爵は落ち込むヴィオラを励ますように、明るく、優しげに微笑んだ。

「よければ、ロベルトの仕事を手伝ってやってはくれませんか。どうも考えなしなところがあって、まだ心配で手のかかる末息子です。国外を飛び回らねばなりませんから、負担はかけてしまいますが」
「旦那様……。ありがとうございます」

 今回の騒動は、王城で働く者や貴族たちに知れ渡っている。とても彼らと顔を合わせる気にはならない。それで伯爵領へ閉じこもるよりは、心機一転ロベルトと共に外国での商談へ赴くほうがいいだろう。
 そうしてヴィオラは、夫の提案を受け入れた。
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