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27.ある秘書官-3
しおりを挟むヴィオラが緑の隧道の、陽光に輝く出口へ消えるまで、イザークはその背を見送った。
彼女の姿が完全に見えなくなってから、ようやく、息をつく。
「ヴィオラ……」
吐いた息と共に、無意識に零れた名前。
それと同時に、涙が眦から流れ落ちた。
「ヴィオラ……!」
叫びそうになる声を、必死に押し殺す。万が一にでも、ヴィオラの元まで届いてしまわないように。
温室に閉じ込めたヴィオラを抱いて、愛の言葉を返してもらえるようになったというのに、湧きあがる不安は増していくばかりだった。全てを知った彼女に諭され直視すれば、その正体はすぐにわかった。それは喪失と後悔の念だった。
イザークが隣にいてほしいと思っていたのは、もう失われた、信頼の眼差しを向けてくれていたヴィオラだった。
そうして自分が壊してしまったと思い知っても、ヴィオラを手放すつもりはなかった。しかしイザークが解放を決めたのは、彼女の嘘の裏にあるもののためだった。
いつか、彼女の父の公爵が教えてくれた。ヴィオラが少しの間目を閉じてから話す言葉は、相手を思いやった嘘だと。
ヴィオラはイザークへ抱いてくれていた思いは、もう壊れたと言い渡した。だが、それは嘘だった。彼女の、イザークを正しい道へ戻すための嘘。
まだ、ヴィオラには思いが残っている。手放さなくては、その残った思いすら、いずれ失ってしまう。離れれば、ヴィオラは失うが、彼女の思いは失われない。
今なら、イザークは彼女の思いが失われていないという事実を胸に、一人で立って行ける。ヴィオラを完全に壊すまで傍に置き、その愛の喪失を目の当たりにすれば、いずれ自分も立てなくなる。
だから、イザークは、離別を受け入れた。
もう二度と会えない。
彼女の思いも生涯変わらないことを願い、そしてそれをよすがに生きると決意し、イザークは踵を返して歩いていくのだった。
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