【R-18】【完結】何事も初回は悪い

雲走もそそ

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23.侵入-1

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 ベラーネク伯爵家の三男のロベルトは、伯爵領から途中で毎日馬を乗り換えながら、できうる限り急いで王都へやってきた。そして知らせをくれたルドヴィーク公爵家の屋敷を真っ先に訪れた。
 取次に時間を要することはなく、すぐさま中へ招き入れられ、執事の案内で応接室へ通される。そこで待っていたのは公爵と、顔はよく覚えていないがたしかその長男だった。
 二人とは、ロベルトの父と、義母であるヴィオラの結婚式で面識がある。二人はロベルトにとって義理の祖父と伯父ということになるのだが、そんな実感は無くお互い他人行儀だ。

「よくお越しくださいました」

 立ち上がって出迎えた公爵の表情は、以前会った時と比べて固く見えた。普段能天気なロベルトも起きている重大な事件に顔が強張っていた。

「いえ。早馬で知らせをいただき感謝いたします。父は体調が思わしくなく、兄も折悪しく不在にしておりましたので、私が名代として参じました」

 今、ヴィオラに大変なことが起きているらしい。公爵のくれた手紙を見てもにわかには信じがたく、とにかく王都へ向かわなくてはならないとなった。ところが、本来はヴィオラの夫である父のベラーネク伯爵が行くべきであったが床に伏せているし、次期当主である長兄もしばらく戻らない状況だった。そのため、丁度屋敷にいたロベルトが代わりに飛んできたのだ。とはいえ、彼らが対応できたとしても、ロベルトは結局いてもたってもいられずついて来ただろうが。

「まず、当家の独断で動いたことをお詫びいたします」

 三人でソファへ掛けてすぐ、公爵が謝罪の言葉をロベルトへ述べた。続いて頭を下げようとしたので、ロベルトは慌てて身を乗り出してそれを押しとどめた。

「何を仰るのです。迅速に動かなければ、皆の誤解を訂正することはできなかったでしょう。私財を投げ打っての公爵家の尽力に感謝いたします」

 彼の手紙によると、公爵家の弱体化を狙った国王イザークが退職直後のヴィオラを捕え、城へ軟禁しているという。公爵は要求されたとおりエリヌミシュ紅玉鉱山を王家へ引き渡したが、王は約束を反故にしてヴィオラを返さなかったそうだ。
 この出来事が起きる直前に、ヴィオラは休暇を取って伯爵領へ戻ってきていた。その際、父であるベラーネク伯爵に、秘書官の職を辞すと告げ、伯爵家で何かできる仕事はないかと相談していた。彼女が領地へ帰ってくると知って、彼女へ密かに思いを寄せるロベルトは小躍りして喜んだ。
 しかし今思えば、彼女が退職を決意したのは、この件より前から公爵家に関して王から圧力をかけられていたからなのではないか。意欲的に仕事をしていると感心していたが、その裏で抱えていた心労に気付いてやれなかったことが悔やまれる。
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