83 / 116
22.摩耗-3 *
しおりを挟む体の中が、燃えている。
「ん、く、ぅ……、ああっ……!」
ベッドでイザークに組み伏せられ、奥深くを暴かれながら、ヴィオラは与えられる快楽に身を任せていた。
彼の熱い杭で穿たれると、嬌声を堪えきれないほどの快感が胎から湧き起こり、全身を走り抜けていく。
「あっ、くるっ、来ます……、ああああッ――!」
絶頂にのけ反って硬直すると、イザークの逞しい腕がヴィオラの体を包み込んだ。密着した彼の厚い胸板に乳房を押しつぶされる。耳元から聞こえる彼の低い呻き声と、迎え入れた杭の脈動から、同時に果てたのだと分かった。
この姿勢の直後にはいつもそうすると分かっているから、ヴィオラは余韻にまだ体を震わしつつも、塞がれた口から舌を差し出して絡める。瞳孔の周りに橙の散る緑の瞳は、情欲で燃えるように輝いて、ヴィオラの視線は自ずとそこへ吸い込まれていく。
温室へ囚われてから、もう何日経ったのかわからない。外の状況が落ち着いたのか、イザークは朝か夜のいずれかに毎日温室を訪れるようになった。そして夜の場合、イザークは必ずヴィオラを抱いていく。
当初は拒んでいたヴィオラだが、イザークに酒を飲まされ思考が鈍ると、犯されても結局快楽に自分を失う。そのためもう性交自体は抵抗しなくなった。意味がない。
彼が用意するのはいつも、よりにもよってあの晩餐の時に供された酒と同じものだ。二人が道を踏み外したきっかけを思い出して辛くなるので、ヴィオラは酒を飲ませなくても応じると訴えた。だがそれをイザークは、毎回無理矢理口移しで飲ませた。
「愛している、ヴィオラ……」
「イザーク、陛下……。わたしも、愛して、います……」
口づけの合間にそんな言葉を交わす。
ヴィオラを軟禁して自死の覚悟も見せ、そしてその体を抱くいずれの時も、イザークは迷いや後ろめたさのような弱さを見せなかった。だが、こうしてヴィオラの言葉を待つときだけは、縋るような眼差しを向ける。それは、ヴィオラの答えを聞けば安堵したように和らいだ。
言ってはいけない。返してはいけない。頭の片隅で萎縮した理性が声を上げるが、感情はそれに耳を貸さず、口を動かす。
イザークが強引にヴィオラを酔わせるのは、彼の求めるままに言葉を返すようになるからだ。ヴィオラはあの日よりも少量を飲むだけで簡単に酔い、以前は何としても表に出さないと決めていた愛情を何度も言葉にした。あの晩餐の時のように、記憶や意識を失うほど泥酔しているわけではない。それでも、この状態でイザークに愛の言葉を乞われると、理性が働く間もなく同じ言葉を返してしまう。
そして抗おうとしておきながら、体もすぐに浅ましく乱れる。以前は年に一度の間柄でしかなく、そのためヴィオラはおそらく不慣れな、準備に手のかかる状態だった。それが今は少し触れられるだけで秘所を濡らし、早くにイザークを受け入れられるようになっている。何より、年初の行為とは比べ物にならないほどの、強すぎる快感を得るようになった。まるであの夜イザークへ襲い掛かった後のような。
もう、イザークの心を元へ戻すことはできないのかもしれない。ヴィオラの、どうにかしなくてはという焦りは、諦めに変わっていた。
ヴィオラの過ちの正しい償い方は、イザークを正気に戻すことだった。だがそれが叶わないのなら、次にすべきは、彼に後追いされないよう最大限生き、そしてその愛情を受けとめ慰めることなのではないか。それが、唯一残されたヴィオラにできることなのでは。
心が、どこか深淵へ沈んでいくような感覚がする。
拒む必要はない。長年求めていたはずのものだ。イザークに愛してほしいと。受け入れてしまえば楽になれる。
思いを寄せておきながら引き受けた年初の行為のことは、忘れて、黙っておけばいい。晩餐の時は酔って妄言を口にしたと主張してしまっているので、この温室での軟禁中にヴィオラもイザークを愛するようになったと、そういうことにすればいい。
それで、もうこれ以上悪い事にはならないはず。
「陛下……」
ヴィオラはイザークの背中に腕を回し、外界の恐怖を一時忘れさせてくれるその行為へ没入していく。そうしなくては、この美しい温室の牢獄に耐えられなかった。
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
女性執事は公爵に一夜の思い出を希う
石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。
けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。
それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。
本編4話、結婚式編10話です。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
(R18)灰かぶり姫の公爵夫人の華麗なる変身
青空一夏
恋愛
Hotランキング16位までいった作品です。
レイラは灰色の髪と目の痩せぎすな背ばかり高い少女だった。
13歳になった日に、レイモンド公爵から突然、プロポーズされた。
その理由は奇妙なものだった。
幼い頃に飼っていたシャム猫に似ているから‥‥
レイラは社交界でもばかにされ、不釣り合いだと噂された。
せめて、旦那様に人間としてみてほしい!
レイラは隣国にある寄宿舎付きの貴族学校に留学し、洗練された淑女を目指すのだった。
☆マーク性描写あり、苦手な方はとばしてくださいませ。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる