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22.摩耗-2
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(これも失敗した……)
ヴィオラはソファの肘置きに預けていた背中をずるずると滑らせ、座面へ頭を付けた。天井越しに空を見上げれば、今日も嫌になるほどいい天気だ。
ここでは、何もすることがない。温室内には、王族が療養等を目的に滞在できるよう、寝室や浴室を備えたささやかな小屋が草木に隠れて建っている。ヴィオラも基本的にはそこで眠るようにしていて、今回は動けなくなってしまったので広場のカウチソファで眠っていた。
毎日複数回、食事や入浴、着替えの世話などをするために、侍女が一人やってくる。当初は、外の様子を教えて欲しい、伝言を誰かにと必死で頼んだが、侍女は申し訳なさそうな顔をするばかりで聞き入れてくれない。出入り口の外へ立っている近衛兵も同様だ。中から懇願しても振り向きさえしなかった。
この現状は決して正しいものではない。ヴィオラはできうる限りの抵抗をしてきた。彼は愛しているからヴィオラを温室へ閉じ込めたと語ったので、それが失せれば目を覚まして解放してくれるかもしれない。
イザークと顔を合わせないように、広い温室内の鬱蒼と茂る草木の合間へ身を隠してみたこともある。しかし昔遊んで回った際に温室で隠れられる場所はお互い熟知しており、簡単に見つけられてしまった。
物陰に身を潜め、世話をする侍女が温室へ入ってくる隙を突き、出入り口の扉が開いた瞬間に飛び出して脱出を試みたこともある。勿論警戒していた近衛兵に即座に止められた。イザークには逃げれば自決すると脅されていたが、その時は忘れていた。それぐらい追い詰められていた。
温室の外でイザークの立場はどうなっているのか。父やベラーネク伯爵家はどう責められているのか。そして自分はどのような非難を受けているのか。誰も教えてくれない。侍女の表情を見れば到底良い状況とは思えず、ヴィオラは常に不安と恐怖に苛まれていた。
それらと何もできない状況に追い詰められ、脱走を企てるなどという危険な手段を取ってしまった。冷静に対策を考えなくてはならない。そう思えば思うほど、思考が滅茶苦茶になって、不適切な対応を選んでしまう。
(どうすればいいの……?)
気力を振り絞って、仰向けから横向きになる。
天井から差し込む柔らかな日差しや、噴水の水音、そして濃密な草木の香り。普通なら心を安らかに落ち着かせてくれる温室も、この状況下では非現実的に感じ、ただ自分を一人だけにする余所余所しい情景でしかない。足元の地面などなく、突然倒れてしまいそうな気がして、今と違って動き回る体力のあった時期でも、ヴィオラは大抵どこかへ座るようにしていた。
もしかすると、本当にこのまま一生出られないのではないか。ヴィオラにできることなど、もうないのではないか。どうして、あの晩餐の夜に酩酊してしまったのか。イザークに合わせて、葡萄酒を断っていれば。
そんな考えを振り払わせてくれる光明などなく、ヴィオラは自責の念と絶望に、着実に精神を蝕まれていった。
ヴィオラはソファの肘置きに預けていた背中をずるずると滑らせ、座面へ頭を付けた。天井越しに空を見上げれば、今日も嫌になるほどいい天気だ。
ここでは、何もすることがない。温室内には、王族が療養等を目的に滞在できるよう、寝室や浴室を備えたささやかな小屋が草木に隠れて建っている。ヴィオラも基本的にはそこで眠るようにしていて、今回は動けなくなってしまったので広場のカウチソファで眠っていた。
毎日複数回、食事や入浴、着替えの世話などをするために、侍女が一人やってくる。当初は、外の様子を教えて欲しい、伝言を誰かにと必死で頼んだが、侍女は申し訳なさそうな顔をするばかりで聞き入れてくれない。出入り口の外へ立っている近衛兵も同様だ。中から懇願しても振り向きさえしなかった。
この現状は決して正しいものではない。ヴィオラはできうる限りの抵抗をしてきた。彼は愛しているからヴィオラを温室へ閉じ込めたと語ったので、それが失せれば目を覚まして解放してくれるかもしれない。
イザークと顔を合わせないように、広い温室内の鬱蒼と茂る草木の合間へ身を隠してみたこともある。しかし昔遊んで回った際に温室で隠れられる場所はお互い熟知しており、簡単に見つけられてしまった。
物陰に身を潜め、世話をする侍女が温室へ入ってくる隙を突き、出入り口の扉が開いた瞬間に飛び出して脱出を試みたこともある。勿論警戒していた近衛兵に即座に止められた。イザークには逃げれば自決すると脅されていたが、その時は忘れていた。それぐらい追い詰められていた。
温室の外でイザークの立場はどうなっているのか。父やベラーネク伯爵家はどう責められているのか。そして自分はどのような非難を受けているのか。誰も教えてくれない。侍女の表情を見れば到底良い状況とは思えず、ヴィオラは常に不安と恐怖に苛まれていた。
それらと何もできない状況に追い詰められ、脱走を企てるなどという危険な手段を取ってしまった。冷静に対策を考えなくてはならない。そう思えば思うほど、思考が滅茶苦茶になって、不適切な対応を選んでしまう。
(どうすればいいの……?)
気力を振り絞って、仰向けから横向きになる。
天井から差し込む柔らかな日差しや、噴水の水音、そして濃密な草木の香り。普通なら心を安らかに落ち着かせてくれる温室も、この状況下では非現実的に感じ、ただ自分を一人だけにする余所余所しい情景でしかない。足元の地面などなく、突然倒れてしまいそうな気がして、今と違って動き回る体力のあった時期でも、ヴィオラは大抵どこかへ座るようにしていた。
もしかすると、本当にこのまま一生出られないのではないか。ヴィオラにできることなど、もうないのではないか。どうして、あの晩餐の夜に酩酊してしまったのか。イザークに合わせて、葡萄酒を断っていれば。
そんな考えを振り払わせてくれる光明などなく、ヴィオラは自責の念と絶望に、着実に精神を蝕まれていった。
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