【R-18】【完結】何事も初回は悪い

雲走もそそ

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15.叱責-4

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「陛下とお前が不貞を行っているという噂だ。まったく下らない。年初の相手を務める者に、口さがない放言をよく言ったものだ」
「は……」

 思い出すだけでも腹が立つ。ヴィオラがどれほど忍耐深く、理性的な人間か知らない者が立てた噂だろう。そう憤慨しつつ、公爵はヴィオラがこれをただの情報として処理すると思って、言葉を続ける。

「だが陛下とは長い時間を共にしていた。辞職したからにはもうあまりお会いすることもないだろうが、余計な疑いを抱かれないよう、お前も気を付けなさい。……ヴィオラ?」

 そこで公爵は、ようやくヴィオラが真っ青になっていることに気が付いた。

「お、お父様……。私……」

 青ざめ、指先が微かに震えている。これは、取り返しのつかないことをしてしまった時の様子だと、父親だからこそ知っていた。

「……話しなさい」

 公爵は、努めて冷静に、ヴィオラを促した。

 そうして涙ながらに語られたのは、昨夜、長年の貢献を労ったイザークに晩餐へ招かれ、そこで何が起きたか。そして娘が、子供のころから既に彼へ思いを寄せていたという事実だった。

「……っ、この、馬鹿娘が!」
「あっ……!」

 父がヴィオラに手をあげたのは、これが初めてのことであった。
 頬を張られたヴィオラは、床へ倒れかかる。

「よりにもよって……! 年初の相手と通じることがどれほど低俗な行いか、知らぬはずがないだろう!」

 言わずとも、理解できているはずだ。ヴィオラであれば、全て、分からないはずがない。

「お前はこの七年、そのような心持で陛下にお仕えしていたのか! 陛下はお前を信頼して年初の相手をお任せくださっていた。それを裏切り、仇で返したのだぞ! いくら陛下が思いを返してくださったとしても、許されることではない! なぜ陛下もお前を突き放してくださらなかったのか……!」
「私が悪いのです。陛下に思いを伝えるつもりはありませんでした。ですが、あの時は何かおかしくて、気が付いた時には……」
「酒の所為にするな、見苦しい!」

 翌日にあたる今日には、もう噂が広まっていた。現場を誰かに見られたのだ。
 涙を目に溜めて見上げていたヴィオラは、口をつぐんで顔を伏せる。
 
「私がお前を男以上に育てたのは、そのような真似をさせるためではない! これで、お前の積み上げてきたものは全てが損なわれた。血のにじむ努力で掴み取った筆頭秘書官の職も、陛下に媚を売って手にしたのだと、最早誰も弁明を聞かないだろう!」

 普通の貴族の娘と同じ道ではなくとも、彼女が自信を持って自らの道を歩めるように。そう願って、もう諦めていいと声をかけそうになる自分を律し、厳しく育ててきた。
 辛くても強く耐え抜いてきた、愛娘との思い出が頭の中に溢れてくる。だが、許してはならない。

「出ていけ! 二度とこの屋敷へ足を踏み入れるな!」
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