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13.晩餐-2
しおりを挟む今夜、イザークはこれまでの貢献に対する労いにと、晩餐に招いてくれた。意外なことに、その会場として指定されたのがこの温室だったのだ。
城内の通常の公用の晩餐室ではなく、王族の私的な空間であるこの場所が選ばれた。そのことに、ヴィオラはただの形式的な慰労ではない、イザークの心遣いを感じて嬉しく思っていた。
普段から、業務として急に賓客をもてなすことになった場合に備えて、ドレスと宝飾品一式を城で保管してもらっていた。晩餐にも出られる少しだけ華やかなドレスだが、意匠を工夫してあり自力で着脱できる構造になっている。それを、業務終了後に部屋を借りて着替えてきた。襟ぐりが大きく開いていて、いつも襟の高い肌を出さない形のものを着ているため、少し心もとなく感じる。
温帯の植物の鮮やかな緑に囲まれた、煉瓦造りの歩道を進んでいくと、やがて温室の中央付近に位置する小さな広場が突然に姿を現す。いくつものランプが並んだ広場には、カウチソファや二人用のテーブルと椅子などが出してある。
この温室は庭のように使うだけでない。例えば療養中の王族が、冬場にこの温かな場所で寝起きできるよう、ささやかなものだが寝室や浴室を備えた小屋も建てられている。
「よく来たな」
カウチソファでくつろいでいたイザークが立ち上がり、ヴィオラを出迎えた。彼は、ヴィオラの姿を見て少し目を丸くする。だが、驚いたのはヴィオラも同じだ。
迎えたイザークは、まるで休日の私室のように、上着も着ず、シャツにトラウザーズの気楽な装いだった。対してヴィオラは、幼馴染とはいえ国王に招かれた晩餐だと考えて準備してきてしまった。
「普段通りでよいと伝えておくべきだったな」
「いえ、陛下からのご招待ですから、きちんとしなくては……」
気恥ずかしく思っていると、イザークは晩餐用に整えられたテーブルへ向かい、椅子を引いた。椅子を勧める仕草だ。
王にそんなことはさせられない。ヴィオラが視線を走らせると、丁度広場の入り口である茂みの間の小道から、給仕が一人姿を見せた。一人だけだ。
「これは私がそなたを労うための場だ」
「陛下、そのようなことは」
「早く座るといい」
給仕は両手に盆を乗せていて、ヴィオラの椅子を押せない。
「恐れ入ります……」
大人しく、イザークに椅子を押してもらって、腰を下ろした。
近寄った拍子に、イザークの柔らかでどこか野性味のある香りがふわりと漂う。それだけでヴィオラの鼓動は高鳴った。自分の思いが抑えきれないものと自覚してしまったからか、些細なことで心が揺れる。
イザークが向かいの席へ着くと、早速給仕が前菜の皿を並べて、すぐさま立ち去った。
「食事を運んだあとは下がっておくように命じてある」
どうやら、気兼ねなく話せるようにしてくれているらしい。二人きりで、幼馴染として過ごせるように。
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