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06.王の振る舞い-4
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ヴィオラはぼやきつつも真剣に対応してくれるつもりのようで、地面に剣を突き刺して一旦手放すと、ワンピースのスカートの前側を、足の付け根からぱっくりと割り開いた。中は素肌ではなく、細身の脚衣を身につけている。裏地に縫い付けた紐をを表へ引っ張り出して留め、前方への足さばきの邪魔にならないよう、スカートの前側を開いた状態で固定した。他の女性秘書官の服も、緊急時に備えて同じ構造になっている。
構造はわかっているし肌が見えるわけでもないのだが、イザークは何度見ても慣れず、その都度変な気分にさせられていた。
「お待たせいたしました」
そうして手早く、動きやすい格好になったヴィオラは、剣を取り構えた。
「私は左で剣を持って、背面から始める。いつでも来い」
イザークは利き手と逆で剣の柄を握り、ヴィオラに背を向けた。イザークはもう幼いころとは違う。肉体は鍛え上げ、剣技も磨き抜いた。力も技も、男女の違いも含め、ヴィオラを大きく上回っている。これぐらいの差をつけなくては、残念ながらもう勝負にならない。
「では――」
背後からヴィオラがそう声をかけてきた。普通、そこから一拍置いて動く。
ところが、ザッ、と土を蹴る力強い音が間髪を容れずに迫った。
即座に振り向くが、ヴィオラは想定よりずっと低い位置にいた。視界の端で光る切先。大きく低く踏み込んでの鋭い刺突。
迷いなく喉元を捉えようとしたそれを、とっさに体を捻って躱す。
身のこなしは軽やかで、それでいて剣を繰り出す時は確実に仕留めるべく出し惜しみをしない、緩急の激しい戦い方だ。
イザークが体勢を整える隙を与えず、まるで弾けるかのような瞬発力で二撃目が襲い掛かる。
だが防戦一方ではない。イザークはその刺突を護拳で弾いた。
「……っ!」
一歩間違えれば手を負傷するが、確信の元成功させた。受け流すのではなく真っ向から弾いたために、ヴィオラには自分の込めた力がまともに手へ返り、その衝撃で動きが鈍る。
そこへ手首を返して剣を翻し、距離を取ろうとした彼女へ迫って首に切先を突きつけた。
勝負ありだ。
「――お見事です。……申し上げたでしょう。私では遊びにすらならないと」
「いや、避け損ねれば首を貫いただろうな。予想通り、気を改めさせてくれた」
これは嘘ではない。先端を潰してある訓練用の剣とはいえ、ただでは済まなかったはずだ。この全力の、神経が焼け付くようなやり取りをしたかった。いくら剣を振るっても収まらなかった、過ぎたことに対し取り得た別の選択肢を探す思考が、清々しく消え去っている。
イザークは剣を引き、ヴィオラから体を離した。
もう子供の頃とは違う。そう言いたげに、ヴィオラはまだ戦いの緊張感を纏ったまま苦笑した。
構造はわかっているし肌が見えるわけでもないのだが、イザークは何度見ても慣れず、その都度変な気分にさせられていた。
「お待たせいたしました」
そうして手早く、動きやすい格好になったヴィオラは、剣を取り構えた。
「私は左で剣を持って、背面から始める。いつでも来い」
イザークは利き手と逆で剣の柄を握り、ヴィオラに背を向けた。イザークはもう幼いころとは違う。肉体は鍛え上げ、剣技も磨き抜いた。力も技も、男女の違いも含め、ヴィオラを大きく上回っている。これぐらいの差をつけなくては、残念ながらもう勝負にならない。
「では――」
背後からヴィオラがそう声をかけてきた。普通、そこから一拍置いて動く。
ところが、ザッ、と土を蹴る力強い音が間髪を容れずに迫った。
即座に振り向くが、ヴィオラは想定よりずっと低い位置にいた。視界の端で光る切先。大きく低く踏み込んでの鋭い刺突。
迷いなく喉元を捉えようとしたそれを、とっさに体を捻って躱す。
身のこなしは軽やかで、それでいて剣を繰り出す時は確実に仕留めるべく出し惜しみをしない、緩急の激しい戦い方だ。
イザークが体勢を整える隙を与えず、まるで弾けるかのような瞬発力で二撃目が襲い掛かる。
だが防戦一方ではない。イザークはその刺突を護拳で弾いた。
「……っ!」
一歩間違えれば手を負傷するが、確信の元成功させた。受け流すのではなく真っ向から弾いたために、ヴィオラには自分の込めた力がまともに手へ返り、その衝撃で動きが鈍る。
そこへ手首を返して剣を翻し、距離を取ろうとした彼女へ迫って首に切先を突きつけた。
勝負ありだ。
「――お見事です。……申し上げたでしょう。私では遊びにすらならないと」
「いや、避け損ねれば首を貫いただろうな。予想通り、気を改めさせてくれた」
これは嘘ではない。先端を潰してある訓練用の剣とはいえ、ただでは済まなかったはずだ。この全力の、神経が焼け付くようなやり取りをしたかった。いくら剣を振るっても収まらなかった、過ぎたことに対し取り得た別の選択肢を探す思考が、清々しく消え去っている。
イザークは剣を引き、ヴィオラから体を離した。
もう子供の頃とは違う。そう言いたげに、ヴィオラはまだ戦いの緊張感を纏ったまま苦笑した。
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