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後編
35.一年後-4
しおりを挟む「何か……、変な気がするんだが……」
「……私も、そう思ってた」
三試合目で、酒の残りもあと僅かになった頃。
二人は妙な体の火照りを感じていた。頭もぼうっとする。しかし、酒精のためというより、どちらかというと、先ほどのような性的興奮時の感覚に似ていた。
「イリス、これ……」
今さらながら酒のラベルを確認したアルヴィドは、目を剥き、わなわなと震える手で瓶をイリスへ差し出してきた。
「え?」
受け取って確認すると、ラベルには細かい字が記されていた。その内容は普通の酒の情報ではない。
『効果:滋養強壮、精力増強。付属のカップで計量し、一日一杯を目安に服用してください。用法用量を守り、充実した夜の生活をお楽しみください』
精力増強。つまり、性的興奮へ誘う薬だったということだ。
「こ、このお酒、誰に貰ったの?」
イリスは受け取った覚えがないので、アルヴィドが貰ったことになる。
「えっと、一番年かさのご婦人だったと思う」
その人ではないことを願っていたイリスだったが、予想が的中してしまい、頭を抱えた。
「そのお婆ちゃん、この村に伝わる秘薬の……、まさしくこのお酒の作り手で……」
イリスが学生時代に噂されていた、淫魔の血族であるという話。
火のないところに煙は立たないということなのか、実は発端があった。
「結構、商品としては優秀みたいで、村が安定するぐらいには売れてるの……」
製造方法を編み出した村の先人たちは、この薬の材料の生育を始めとした、製造、流通等の関連産業を村の生業にした。貧しく、子供を遠い魔術学校へ送り出す余裕などなかった村は、この薬のおかげで豊かになった。
その結果、周辺地域から、卑猥な物を売っていると蔑まれ、淫魔の力で飲む者を堕落させる薬だと言いがかりをつけられ、転じて淫魔の血族だと噂を立てられるようになったのだ。
薬そのものは魔法薬事局の認可を受けており、一定の安全性が認められている。だからうっかり大量摂取しても命に危険は無いはずなのだが。
イリスはもう一度ラベルを確認した。
一日一杯を目安に。用法用量を守り。
二人はもう、何杯飲んだか分からない。瓶にはほとんど液体が残っていない。
「すまない、よく確認せずに、普通の酒だと思って」
「私も久しぶりに帰ってきたから、瓶とラベルの意匠が変わってて、気が付かなかった」
お互い、息が荒くなってきている。
肌がぴりぴりと粟立つような感覚に、イリスは自分の体を掻き抱いた。下腹部の奥の方がずしりと重く、疼いている。
どちらともなく、椅子から立ち上がり、噛みつくように口づけながらベッドへなだれ込んだ。
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