【R-18】【完結】壊された二人の許しと治療

雲走もそそ

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後編

33.危険ではないこと-3

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 アルヴィドの私室を訪れたイリスは、扉を叩き、廊下から中へ声をかけた。

「アルヴィド。話があるの」

 何度か繰り返すが、中から返事はない。それどころか、気配もしない。

 イリスは嫌な予感がして、扉に手をかけた。
 鍵がかかっていない。

「アルヴィド!」

 慌てて扉を開くと、部屋の中はもぬけの殻だった。備え付けの家具はあるが、生活用品等が全くない。アルヴィドは出ていったのだ。
 まだ契約期間は残っているというのに、イリスが訪ねてくるまでの短い間で決断し、荷物を片付けてしまった。

「そんな……」

 イリスはとりあえず追いかけるために、踵を返し廊下を戻った。行く当てなど分からないが、まだ近くにいると信じて探すしかない。

 小走りに廊下の角を曲がったところで、人とぶつかりそうになる。

「あっ!」
「おっと」

 すんでのところで避けてくれたその相手は、同僚のカッセルだった。
 普段、廊下を走る不作法など冒さないイリスが急いでいるのを見て、驚いたように少し眉を上げている。

「申し訳ありません、カッセル先生」
「大丈夫です、避けましたから。ノイマン先生に急ぎの御用ですか?」
「い、いえ……」

 妙な疑念を持たれては困るが、違うと言い逃れしても、この廊下の先はアルヴィドの私室とカッセルの研究室しかない。
 だがカッセルの意図は別のところにあった。

「いらっしゃらなかったでしょう? ノイマン先生なら先ほど校長室の前ですれ違いましたから」
「本当ですか」
「ええ。鞄を持ってましたので、校長先生とお話しされたら、そのまま出かけられると思います。春休みですし帰省ですかね? 急げば追いつけますよ」

 イリスが勝手に苦手としているだけで、彼は基本的に親切な男である。単純にアルヴィドの目撃情報を教えようとしてくれていた。

「そういえばセーデルルンド先生は帰省なさらないんですか? ご予定が無ければ今度私の家に遊びにきませんか。うちのつ――」
「ありがとうございます!」

 親切な彼には悪いが、とにかく急いでいる。話を途中で切り上げて、イリスは校長室へ急いだ。
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