【R-18】【完結】壊された二人の許しと治療

雲走もそそ

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後編

30.返還-1

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 グンナルと別れ、塔の最上階から階段を下りはじめたイリスを、アルヴィドは呼び止めた。

「イリス、すまなかった……。僕のベネディクトへの行いが、君を巻き込んでしまった」

 エーベルゴート家での記憶を失った今、かつてのアルヴィドがベネディクトへした所業の全貌を知ることは、もうない。だがその片鱗ですら、恨みを買って当然のおぞましいものだった。
 過去の行いが、無関係のイリスに累を及ぼした。ベネディクトがアルヴィドへイリスのことを教えなければ、彼女はあの悲劇に見舞われることも、今なお続く心の病を患うことも無かっただろう。

 階上を振り仰いだイリスは、また上ってきてアルヴィドの目の前に立った。

「言わなくてもいい。きっかけが何か、明らかになっただけだから。……私があなたに復讐して、今あなたが償おうとしている関係に、変わりはないわ」

 先ほどイリスはベネディクトに触られるなど恐ろしい目にあった後呆然としていたが、既に気は持ち直しているようで、しっかりした口調で言葉を返してきた。
 だがすぐに、肩を落として、気落ちした様子に変わる。

「それより、余計なことをして、怪我をさせて、本当にごめんなさい。……私は彼の怨恨そのものに意見するつもりはないけど、あれは黙っていられなかった」

 イリスの言葉に逆上したベネディクトは、杖から魔力を放って攻撃してきた。だがアルヴィドは勝手に庇っただけなので、それで負傷しても謝罪を受けるようなことではなかった。

「いや、気にしなくていい。……何か言ってやりたくなるのは当然だ。君を害したのは僕だが、ベネディクトも故意に君を陥れたのだから」

 だがイリスはベネディクトに対し、自分に禍をもたらしたことよりも、アルヴィドを今も異常と評したことを主に非難していた。
 アルヴィドは自分が、元の異常な人格とは違うものであることを切望している。ベネディクトへの行いは事実なのだろうし、それで恨まれるのも当然だ。それでも、今は違うと訴えたかった。だが、あの顔に恐怖するアルヴィドでは、何も言えなかっただろう。
 それをイリスが、結果として代弁してくれた。アルヴィドからすると不甲斐ないことだが、元から自分でできるならしたことなのだから、謝罪は必要ない。

「それよりも、もっと君自身のことで怒ればよかったのに。あれではただ君が僕の肩を持ったのだと誤解を受ける。……無関係の君を巻き込んだと非難して、ベネディクトが反省する可能性は低いだろうが」
「そう……。そうかもしれないわね」
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