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後編

27.希望-1

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 授業時間になれば、部活顧問しか担当していないアルヴィドは暇になる。授業の準備や研究活動のある、科目を受け持つ教師たちとは違う。
 それは誰もが知っているため、どうせ暇なアルヴィドの元へは、本当にやることが無くて時間の空いてしまった教師が度々話をしにやってくる。

「ノイマン先生」

 ベゼルス部の部室に引き続き留まっていると、扉から男が顔を覗かせた。
 明るい金色の髪と澄んだ青い瞳。快活な笑顔の印象的な、二十代後半ぐらいの年齢の男。彼が戦闘系魔術の担当教師の一人、カッセルだ。

「どうも」
「朝練終わりですか。いよいよ週末が試合ですもんね」

 カッセルは扉を閉めると、アルヴィドの前に勝手に座った。

 アルヴィドはイリスと同じ理由で、昔の自分と顔の似ている彼を苦手としている。そのためこの密室に二人きりになるのは正直なところ苦痛を感じるのだが、男性恐怖症はおおむね問題ない程度まで治している。何事もないふりができないほどの苦痛ではない。だが、苦手なものは苦手だ。
 しかしながら、カッセル自身は親切な男で、教職員の中では浮いてしまっているアルヴィドを気にかけてくれている。こうして訪ねて来て雑談していくのも、彼なりの気のかけ方だ。苦手に感じてしまい申し訳なく思っている。

「ノイマン先生にお尋ねしたいことがあるんですけど」
「答えられる範囲でなら」
「セーデルルンド先生とお付き合いされてるんですか?」
「……なぜです?」

 内心かなり動揺させられる問いかけだったが、昔の表裏のありすぎる性格と、いつか誰かに聞かれるかもしれないと心の準備をしていたおかげで、幸いにも冷静に対応できた。

「いえ、この前、隣町でお見かけしたので」

 治療のために二人で面談していることを、学校の人間に知られないようわざわざ隣町まで足を運んでいるわけだが、一応外出できる教師からすれば生活圏内である。道中を誰かに見られる可能性は頭にあった。ただし公園での様子は絶対に見られていない。それは使い魔で周囲を警戒しているので確かだ。

「グンナル先生にお使いを頼まれたんですよ」
「二人で?」
「ええ」

 用意しておいた言い訳をすると、カッセルは別段確信があったわけではないらしく、否定されて残念そうに口を尖らせた。

「なんだ。……まあ、色気のない関係だとは思いましたけどね。並ばずに、仲が悪いのかというぐらい離れて歩いてましたし。残念です」
「噂の種になれなかったようで、面目ないです」
「いえいえ」

 遠回しな嫌味のつもりだったが、カッセルが意に介した様子はない。これぐらい能天気でいてくれた方が、こちらが敬遠していることを悟られず、不快に思わせなくて済むので丁度いい。

「それにしても本当に残念です。もう恋人がいるとなれば、生徒たちを大人しくさせられると思ったんですが」
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