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中編

23.赦罪-1

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「話しておきたいことがある」

 アルヴィドはそう前置きして切り出した。

「あの時のことを……。君は校則違反の飲酒をしたと決めつけられて、処罰された。そのことにも、私が関わっていたと思う」

 その告白に、イリスはあまり驚かなかった。

「そう……。でも、そうなのかもしれないと、思ってたわ。少しだけ」

『薬はそのうち抜ける。……けど、早めに帰った方がいいだろうな』

 イリスの体を使って満足したアルヴィドは、帰り際にそう言っていた。あの時は何のことかわからなかったし、それどころではなかった。
 だが後から考えれば、早めに帰ることを促したのは、隣室のパーティへ教師が立ち入ることを察知していたからなのだろう。

「私はあの集まりで誰かが酒を飲むだろうことも、その情報を掴んだ先生たちが現場を押さえに来るであろうことも、知っていた」
「どうして」
「誰かが密告したのを聞いていたからだ。ただ、誰が話したのか、それをなぜ私が知っているのかは、思い出せない」

 アルヴィドは困ったように額に手を当てる。

「消えたのはエーベルゴート家の敷地内の記憶と、それを外で思い返した記憶に限られる。だが、消された記憶以外すべてを思い出せるわけではないんだ。家の記憶を消された時に、おそらく他の記憶も一旦忘れてしまっている。一方で家のこととは違って、忘れただけで頭の中から消されてはいないから、改めて思い出せたようだ。それでも、日常で物忘れがあるように、思い出せないことがいくらかある」
「あなたが先生たちを呼んだわけではないのね」

 言い捨てていった彼の口調は随分と他人事だったので、自ら呼び寄せたのは考え過ぎだろうと思いつつ、その疑念をぬぐい切れていなかった。だが今日はっきりした。

「なぜ私だったの?」

 核心へ迫る質問に、アルヴィドは言葉を詰まらせる。

「君に非はない」
「自分の落ち度を探すためじゃないわ」

 これまで、あの日のことを考えないようにしていたから、当然のそういった疑問も特段湧かなかった。アルヴィドの治療によって一度仔細を思い返した結果、冷静になぜかと考えるようになったのだ。

「……あの日、あそこに君が行くことは、知っていたようだった」

 アルヴィドはためらっていたが、イリスが真剣に知りたがっていると悟ると、ようやく重い口を開いた。

 記憶は残念ながら虫食いになっている。
 まずアルヴィドは、何のきっかけかイリスに興味を持った。このきっかけは思い出せない。しかし、下卑た悪意に満ちた興味だった。
 そしてエレーンという女生徒が、悪意を持ってイリスをあの場へ連れてくることを嗅ぎつけた。同時期に、教師たちがその場へ乗り込んでくる予定であることも掴む。いずれも、誰かが話しているのを聞いたことは覚えているが、それが誰か、どういった状況なのかは記憶にない。
 この情報を得たアルヴィドは、教師が駆けつけるまではあまり人目に触れないこの環境であれば、認識阻害の魔術でイリスを隣室へ連れていき、思い通りにできると見通しを立てた。そしてその通りにした。
 教師たちの件はイリスへの興味そのものには関係しないが、より面白くなる、と考えた。友人を介してグンナルや生活指導の教師を少し足止めさせ、丁度イリスが動けるようになる頃に鉢合わせるよう調整した。アルヴィドが何もしなければ、教師たちはもっと早い段階であの建物へ踏み込んでいたはずだった。つまり自分の逃走する時間を確保するための工作をしていた。

「私が君に何もしなければ、君はあの場にいた所為で飲酒の疑いをかけられはしただろうが、すぐに晴れてお咎めもなかったはずだ。薬の症状で酩酊しているように見えたから、彼らと同じように処分されたんだ」
「そう……」
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