71 / 114
中編
23.赦罪-1
しおりを挟む
「話しておきたいことがある」
アルヴィドはそう前置きして切り出した。
「あの時のことを……。君は校則違反の飲酒をしたと決めつけられて、処罰された。そのことにも、私が関わっていたと思う」
その告白に、イリスはあまり驚かなかった。
「そう……。でも、そうなのかもしれないと、思ってたわ。少しだけ」
『薬はそのうち抜ける。……けど、早めに帰った方がいいだろうな』
イリスの体を使って満足したアルヴィドは、帰り際にそう言っていた。あの時は何のことかわからなかったし、それどころではなかった。
だが後から考えれば、早めに帰ることを促したのは、隣室のパーティへ教師が立ち入ることを察知していたからなのだろう。
「私はあの集まりで誰かが酒を飲むだろうことも、その情報を掴んだ先生たちが現場を押さえに来るであろうことも、知っていた」
「どうして」
「誰かが密告したのを聞いていたからだ。ただ、誰が話したのか、それをなぜ私が知っているのかは、思い出せない」
アルヴィドは困ったように額に手を当てる。
「消えたのはエーベルゴート家の敷地内の記憶と、それを外で思い返した記憶に限られる。だが、消された記憶以外すべてを思い出せるわけではないんだ。家の記憶を消された時に、おそらく他の記憶も一旦忘れてしまっている。一方で家のこととは違って、忘れただけで頭の中から消されてはいないから、改めて思い出せたようだ。それでも、日常で物忘れがあるように、思い出せないことがいくらかある」
「あなたが先生たちを呼んだわけではないのね」
言い捨てていった彼の口調は随分と他人事だったので、自ら呼び寄せたのは考え過ぎだろうと思いつつ、その疑念をぬぐい切れていなかった。だが今日はっきりした。
「なぜ私だったの?」
核心へ迫る質問に、アルヴィドは言葉を詰まらせる。
「君に非はない」
「自分の落ち度を探すためじゃないわ」
これまで、あの日のことを考えないようにしていたから、当然のそういった疑問も特段湧かなかった。アルヴィドの治療によって一度仔細を思い返した結果、冷静になぜかと考えるようになったのだ。
「……あの日、あそこに君が行くことは、知っていたようだった」
アルヴィドはためらっていたが、イリスが真剣に知りたがっていると悟ると、ようやく重い口を開いた。
記憶は残念ながら虫食いになっている。
まずアルヴィドは、何のきっかけかイリスに興味を持った。このきっかけは思い出せない。しかし、下卑た悪意に満ちた興味だった。
そしてエレーンという女生徒が、悪意を持ってイリスをあの場へ連れてくることを嗅ぎつけた。同時期に、教師たちがその場へ乗り込んでくる予定であることも掴む。いずれも、誰かが話しているのを聞いたことは覚えているが、それが誰か、どういった状況なのかは記憶にない。
この情報を得たアルヴィドは、教師が駆けつけるまではあまり人目に触れないこの環境であれば、認識阻害の魔術でイリスを隣室へ連れていき、思い通りにできると見通しを立てた。そしてその通りにした。
教師たちの件はイリスへの興味そのものには関係しないが、より面白くなる、と考えた。友人を介してグンナルや生活指導の教師を少し足止めさせ、丁度イリスが動けるようになる頃に鉢合わせるよう調整した。アルヴィドが何もしなければ、教師たちはもっと早い段階であの建物へ踏み込んでいたはずだった。つまり自分の逃走する時間を確保するための工作をしていた。
「私が君に何もしなければ、君はあの場にいた所為で飲酒の疑いをかけられはしただろうが、すぐに晴れてお咎めもなかったはずだ。薬の症状で酩酊しているように見えたから、彼らと同じように処分されたんだ」
「そう……」
アルヴィドはそう前置きして切り出した。
「あの時のことを……。君は校則違反の飲酒をしたと決めつけられて、処罰された。そのことにも、私が関わっていたと思う」
その告白に、イリスはあまり驚かなかった。
「そう……。でも、そうなのかもしれないと、思ってたわ。少しだけ」
『薬はそのうち抜ける。……けど、早めに帰った方がいいだろうな』
イリスの体を使って満足したアルヴィドは、帰り際にそう言っていた。あの時は何のことかわからなかったし、それどころではなかった。
だが後から考えれば、早めに帰ることを促したのは、隣室のパーティへ教師が立ち入ることを察知していたからなのだろう。
「私はあの集まりで誰かが酒を飲むだろうことも、その情報を掴んだ先生たちが現場を押さえに来るであろうことも、知っていた」
「どうして」
「誰かが密告したのを聞いていたからだ。ただ、誰が話したのか、それをなぜ私が知っているのかは、思い出せない」
アルヴィドは困ったように額に手を当てる。
「消えたのはエーベルゴート家の敷地内の記憶と、それを外で思い返した記憶に限られる。だが、消された記憶以外すべてを思い出せるわけではないんだ。家の記憶を消された時に、おそらく他の記憶も一旦忘れてしまっている。一方で家のこととは違って、忘れただけで頭の中から消されてはいないから、改めて思い出せたようだ。それでも、日常で物忘れがあるように、思い出せないことがいくらかある」
「あなたが先生たちを呼んだわけではないのね」
言い捨てていった彼の口調は随分と他人事だったので、自ら呼び寄せたのは考え過ぎだろうと思いつつ、その疑念をぬぐい切れていなかった。だが今日はっきりした。
「なぜ私だったの?」
核心へ迫る質問に、アルヴィドは言葉を詰まらせる。
「君に非はない」
「自分の落ち度を探すためじゃないわ」
これまで、あの日のことを考えないようにしていたから、当然のそういった疑問も特段湧かなかった。アルヴィドの治療によって一度仔細を思い返した結果、冷静になぜかと考えるようになったのだ。
「……あの日、あそこに君が行くことは、知っていたようだった」
アルヴィドはためらっていたが、イリスが真剣に知りたがっていると悟ると、ようやく重い口を開いた。
記憶は残念ながら虫食いになっている。
まずアルヴィドは、何のきっかけかイリスに興味を持った。このきっかけは思い出せない。しかし、下卑た悪意に満ちた興味だった。
そしてエレーンという女生徒が、悪意を持ってイリスをあの場へ連れてくることを嗅ぎつけた。同時期に、教師たちがその場へ乗り込んでくる予定であることも掴む。いずれも、誰かが話しているのを聞いたことは覚えているが、それが誰か、どういった状況なのかは記憶にない。
この情報を得たアルヴィドは、教師が駆けつけるまではあまり人目に触れないこの環境であれば、認識阻害の魔術でイリスを隣室へ連れていき、思い通りにできると見通しを立てた。そしてその通りにした。
教師たちの件はイリスへの興味そのものには関係しないが、より面白くなる、と考えた。友人を介してグンナルや生活指導の教師を少し足止めさせ、丁度イリスが動けるようになる頃に鉢合わせるよう調整した。アルヴィドが何もしなければ、教師たちはもっと早い段階であの建物へ踏み込んでいたはずだった。つまり自分の逃走する時間を確保するための工作をしていた。
「私が君に何もしなければ、君はあの場にいた所為で飲酒の疑いをかけられはしただろうが、すぐに晴れてお咎めもなかったはずだ。薬の症状で酩酊しているように見えたから、彼らと同じように処分されたんだ」
「そう……」
10
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる
一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。
そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる