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中編

21.自分事-3

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「だが、僕の過去についての噂が出回り、正体に気付いた君が、真っ直ぐ校長室へ向かったのを見て、都合の良い解釈だったと分かった」

 イリスへ付けていた使い魔を介し、校長室でのグンナルとの会話も盗み聞きしていた。そこで、代理の人材を探すなどと悠長なことを考えている場合ではないと知る。諦めて、イリスが去った後に校長室を訪ね、経緯を説明して退職を願い出た。

「洗いざらい喋った僕に、グンナル先生は逃げずに償えと仰った。……あの時は先生も、僕と顔を合わせた君にどれほどの苦痛があるのか、理解していなかった。セムラクで平気に見えたから」

 アルヴィドの強い罪悪感を知ったグンナルは、許しを得られるかはともかく、償いの機会を与えるべきだと考えたのだろう。イリスの中で何が起きているかを知っていれば、彼女を優先して、アルヴィドの辞職を許したかもしれない。

「あれほどのことをして、相応しい償い方など考えつかなかった。僕は君の、噂を鎮静化させるための申し出に乗って、相変わらず関わりを避けた。だが……」

 アルヴィドにとってもイリスは顔を見たくない、見られない相手だ。
 それでも、襲われている光景を見過ごすことなどできなかった。

「普段、使い魔は、君の研究室へ入った時点で視覚と聴覚の共有を切っていた。誓って、君の研究や私生活を盗み見てなどいない」

 そのため、イリスのセムラクの濫用や、アルヴィドと会話した日の強烈な反作用の存在などは知らなかった。

「あの時は、強い魔力の反応があったから共有を再開した。それで、君が襲われていると気付いた。……決して、君に恩を売ろうとしたわけではない。この程度のことで……。襲われているのが誰であっても、同じようにした」

 男を制圧し、イリスを治療して助け起こそうとした。そこで受けた強い拒絶。
 ようやくアルヴィドは、イリスが治ってなどいないと知った。
 急激な感情の発露をグンナルへ知らせると、彼はそれをセムラクが破れた瞬間だと思い至る。そしてこれまで常に魔術に頼っていたのではないかと疑念が湧き、規制植物の私的流用を突き止め、イリスを問い質したのだ。
 思ったより早くイリスが校長室へ来てしまったので、鉢合わせしないように慌ててグンナルの私室の方へ匿ってもらった。あれは回避が目的で、イリスたちの会話の盗み聞きは結果的にそうなっただけだった。

「僕が消えるだけでは済まないところまで、君が追い詰められているのだと知った。先生の提案には驚いた……。よりによって、君を壊した僕に治させるなどと。君が承諾したこと程の驚きではなかったが」
「……これは、償いなんですか」
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