【R-18】【完結】壊された二人の許しと治療

雲走もそそ

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中編

19.アルヴィドの地獄-2

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 教室の授業風景。寮での生活。目を輝かせながら、自分に語り掛けてくる人々。
 自分がアルヴィド・エーベルゴートで、名門エーベルゴート家の嫡男と持て囃されていたことも思い出した。
 だが、そのエーベルゴート家における記憶が、全く出てこなかった。入学前の記憶など、ほとんどない。出かけた時に、邸宅の前の道を通った部分的な記憶が少しあるだけ。外観で先ほどの邸宅がそうだったことは思い出したが、あの家の敷地の中での記憶がない。
 家族の記憶もない。魔法管理省の長官で慈善家という父。公的な用事のため、家の外へ連れ歩かれた記憶はある。だが私的な外出や、外での親子の会話はなかった。家庭内ではまだあったのか、それもわからない。他人や物から得られた情報はあるのに、本人との直接の思い出がない。アルヴィドの頭の中から出てこない。他の家族も同様だ。
 どんな家庭だったのか。自分はどんな子供だったのか。
 エーベルゴート家の中でのことだけ、すっぽり抜け落ちていた。

 代わりに、学校でのことは、列車が進むに応じてみるみるよみがえってくる。教師、友人。在学時目をかけてくれた先輩や、慕ってくれる下級生。彼らとの輝かしい思い出。
 そしてそれを追いかけるように、彼らに対し、自分が過去、内心どのように思っていたのかも呼び起こされた。
 この程度でルーヘシオンの教師を名乗る恥知らず。エーベルゴートの名にすり寄り級友を自称する寄生虫。思い通りに転がされていることにも気付かない無能な駒。勝手に慕って実のない称賛を口にして浸る有象無象。
 明るい思い出が、自らの中にある罵詈雑言で穢されていくようだった。思い出してしまったことを心底後悔した。多少、家名を持ち上げているところはあった。だが、周囲の人間全員が見下すべき程愚かには思えない。なぜ、自分の中にこのような心の声があったのか。理解できない。

 自らの中にある醜い思考の記憶が、学校へ近づけば近づくほど、回顧され滲みだしてくる。そしてある種、その酷薄な人格に相応しい非道徳的な行いの数々。姑息にも完璧に隠していたが、複数の女生徒と肉体関係があった。合法なことだけが唯一の救いだった。過去の自分は彼女たちにすら情を抱いておらず、内心蔑んでいた。
 聞きたくもない汚い言葉を耳元で囁かれているようで、学校へたどり着く頃には頭がおかしくなっているのではないかと思うほどだった。

 その懸念は、正しかった。
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