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中編
14.読めない真意-2
しおりを挟む隣町の駅で下車し、やはり距離を取りながら連れられた先は、駅からほど近い公園だった。
公園と呼ぶには大層な、背もたれのあるベンチが一つ置かれているだけの、石材で舗装された小さな広場。時間帯のせいか、これが通常なのか判断できないが、イリスたち以外誰もいない。冬という季節がらも相まって、寂しげな場所だ。
「稀に子供が遊びに来るそうだから、その時は中断になるが、ほとんど人は来ない。ここなら、誰にも話は聞かれない一方で閉鎖空間でもなく、安全だと思う。どうだろうか」
「そうですね」
安全性については十分信頼できる。
なぜなら、公園から道路を挟んで向かいに、魔法警察の分署が建っているのだ。絶えず人の出入りがある。そして常に二名の警察官が建物の正面を警戒して立っているのが見える。つまり、正面に位置する公園の方を向いている。
イリスが納得して頷くと、アルヴィドはベンチの端に腰を下ろす。そして促すように隣を示してくるので、イリスは彼と逆の端に浅く腰かけた。
「指輪はもうしているか」
「ええ」
手袋に隠された指輪は、学校の最寄駅で彼と合流する前から装着されている。
「先日から繰り返しになるが、指輪と魔法契約がある限り、私は君に危害を加えられない。そしてこの場所のおかげで、他の脅威からも守られる。君はこの場において安全だ。よく理解しておいてくれ」
「しています」
魔法道具の指輪により、アルヴィドはイリスが念じるだけで即座に自死でもなんでもさせられる。そして指輪を奪い返すことができないよう、魔法契約で縛ってある。また、先日襲ってきた男の仲間がいるとして、警察署の前へ姿を現すことはないだろう。
アルヴィドの念押しする通り、この公園で彼と二人きりでいる現況は、不快であっても確かに安全だ。
「感情的になってやみくもに警戒するのではなく、理性的に安全だと理解することはこの治療で重要なことだ。慣れればいずれ心も追いつくようになる。……この一週間、何か治療について考えたか?」
イリスが隣を見ると、アルヴィドは真っ直ぐ前を向いていた。
意識的にそうしているようにも思える。並んで座っているため同じ方向を向いている二人は、同時に横を見ない限り視線が合わない。
アルヴィドの横顔は、変わらず幽鬼のようにやつれている。採用当初から濃い隈が目の下に浮かんでおり、暗い金髪の中には白髪も散見された。三十代か、ともすれば四十代に見えるその容姿は、イリスの一歳上でまだ二十代半ばのはずだが、普通の年の重ね方ではない。
「治療をすればまともな生活に戻れる、という点は理想的でしたが、本当にあなたのやり方で治るのか、分からなくなってきました。あなたは、治っているのですか?」
アルヴィドはイリスの方へ顔を動かそうとして、見られていると視界の端に捉えると、止めてまた前を向き直した。
「……あの記憶は、今でも思い出すときがある」
それは、イリスがアルヴィドへ共有した、彼に凌辱された時の記憶のことだ。
アルヴィドは自らの治療の経緯を語り始めた。
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