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中編

12.指輪-1

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 五日後、校長室にて、イリス、アルヴィド、グンナルの三名は、テーブルを囲んで向かい合わせに座っていた。イリスは部屋の出入り口に一番近い側で、アルヴィドが逆に遠い窓側の席だ。

「『グンナル先生からの』ご依頼で、私が、君のセムラクへの依存を治療する」

 やはり目を合わせず逸らしたままのアルヴィドは、あくまで雇用主であるグンナルからの依頼である旨強調して前置きする。
 イリスとしてもアルヴィドに頭を下げたくなかったので、特段文句はなかった。そもそも彼のせいでこうなっているのに、治療を『お願い』しなくてはならない立場ではない。

 アルヴィドは治療方法の説明を始めた。

「君は、過去に受けた心の傷が原因で病を患っている。君を悩ませている、過去の出来事がまるで今の自分に起きているかのように感じられ、恐怖にのまれてしまうことは、心の病からくる症状の一つだ。これらの症状を嫌って、無理にでも平常心を保つためにセムラクを濫用し、次はその反作用から逃れるため、鎮静剤に依存してしまう。セムラクと鎮静剤への依存は副次的なもので、心の病を治さなければそれらは治まらない」
「それで、専門家ではないあなたが、どのように治療を行うのですか」

 肉体の病には、魔術や、あるいは非魔術的な外科手術等による外科的治療と、魔法薬を含む投薬による内科的治療が施される。一方精神の患う病の場合、投薬の他、面談を含む非魔術的な心理療法を採用することになる。
 心の病も肉体の病と同様に、本来は、専門知識と特別な技能を持った医師が治療を行う。

 第三者に事情を明かしたくない。だから専門家ではなく、一応事情を承知している素人のアルヴィドを選んだ。
 だが、イリスは彼の治療に懐疑的だ。いくら彼が解雇を避けたいとしても、とりあえずでやってみて上手くいくようなことではない。勢いでどうにかなる程度のものなら、とっくにイリスが自力で治している。

「アルヴィドは自らの心の病を治したことがある」

 グンナルが促すように横から口を出すと、アルヴィドは彼の方をちらりと見た。
 彼らが二人だけで会話している際に、アルヴィドに何らかの実績があると言及していた。その実績とは、他人ではなく自分自身の治療経験だったようだ。

 とはいえ心の病といっても多種多様だ。イリスの治療に彼の経験が役立つとは限らない。
 不信感を隠そうともしないイリスの視線に、黙り込んでいたアルヴィドは言いづらそうに口を開いた。

「……男性恐怖症だ」
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