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前編

11.決断-1

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 校長室を出たイリスは、グンナルの理解できない言動の意味を考えながら歩いていた。
 一階分階段を下りたところで、アルヴィドの使い魔の黒トカゲを捕獲した瓶を、グンナルの机の上に忘れてきたと気付く。ついでに、アルヴィドの解雇の話も途中だったと思い出した。

「戻ろう……」

 踵を返し一度下りてしまった階段を上り、校長室のある塔の最上階まで戻る。

 女神像の前の扉を叩こうとして、中から漏れ聞こえた声。

「グンナル先生、先ほどの――」

 アルヴィドの声だ。イリスは手を止めた。
 校長室の扉は古いせいか、力を入れて押さえなければ上手く閉まっていない時がある。イリスは先ほど普段通りに押さえなかった。そのため完全には閉まらず、ほんのわずかに隙間が生じていた。耳を澄ませば中の声が聞こえる。

「――彼女の治療へ私を協力させるという話、なぜあえて怒らせるようなことを?」

 校長室までは一本道で、イリスは途中誰ともすれ違わなかった。
 にもかかわらずアルヴィドがすでに校長室にいる理由はただ一つ。彼は、校長室の中から続く、隣のグンナルの私室に潜んでいたのだ。
 アルヴィドは、イリスとグンナルの話を盗み聞きしていた。

「あれは本気だ」
「そのようなこと、受け入れられるはずが……。そもそも私は精神治療の専門家ではありません」

 イリスの頭にとある疑念が生まれる。
 グンナルはアルヴィドと手を組んで、イリスを追放するため彼に先程の違法行為の情報を聞かせたのではないか。
 アルヴィドが勝手に薬草の使用量のことに気付いたていにして、それを魔法薬事局へ密告させる。そうすれば、魔法契約の裏切り行為に抵触することなく、イリスを追い出せると考えたのかもしれない。裏切りか否かはイリスが判定するのだから、気付かれなければその通りになる。

「だが、お前には実績がある」
「……とにかく、私では悪化させかねません。失礼します」

 退室の言葉に、イリスは急いで女神像の後ろへ身を隠した。
 間髪入れずに扉の開閉の音がして、足音は遠ざかっていく。

 完全に足音が聞こえなくなってから、イリスは杖を片手に校長室へ乗り込んだ。
 机に向かっていたグンナルへ、杖を構えながら迫る。

「あなた方が繋がっているとは思いませんでした。治療へ協力させるなどという戯言で、彼の解雇をやり過ごすおつもりですか。彼に私の不利な情報を漏洩するなど、これは裏切り行為です」

 突然開けられた扉とイリスの暴挙に驚いたグンナルだが、すぐに冷静になった。反射的に自身の杖へ伸ばした手を、引き戻して腕を組む。

「そのつもりはない。だが、そう捉えたいなら契約違反として私の行いを告発しなさい」
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