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前編
9.証拠-2
しおりを挟む「昨晩の件は内密に処理した。男は魔法警察へ引き渡し済みだ」
「そうですか。紹介状を過信して危険人物を校内へ引き入れたのは私の落ち度にあたりますが、あの男が患者の情報を知っていたことに関しては想定外でした」
「……あの男がいかなる手段でお前に紹介された患者の情報を得たのかは、これから調査されるだろう。国立病院へは、問題が解決するまで治療は引き受けないと連絡してある」
「やむを得ません」
精神治療の国家機関である国立病院との橋渡しは、グンナルへ一任している。イリスに紹介状と男の話への過信はあったが、紹介の体制そのものの欠陥はグンナルに責任がある。
とはいえ、現在の体制は病院側の情報漏洩がない前提で構築されたものだ。病院にとって患者の情報は絶対的な機密である。その絶対を裏切られたグンナルに全ての非があるわけではない。
昨日、本当の患者が殺されてしまった。この状況が改善されるまで紹介を止めることは、イリスだけでなく患者たちの安全にも繋がる。
しかしながら、本来着手できるはずだった患者たちの治療が、先送りにされたことになる。仮にセムラクを使っていなければ、自分は残念に感じただろうとイリスは思った。今は当然の決定に何も感じない。
「お前の記憶分離の魔術は、行使する方法のみならず効果などの詳細も秘匿されている。しかし奴はどのような魔術か知ったうえで襲撃してきた。どこまで情報が洩れているか分からない。しばらくは自覚を持って行動するように」
「分かりました」
学外へ不用意に出るなということだ。
グンナルの言う通り、男の所属する組織をはじめとした、記憶分離の悪用を企てる者に身柄を狙われる恐れがある。イリスも最高峰の教育機関であるルーヘシオンの教師であるが、専門分野は戦闘に不向きな精神魔術だ。戦闘系魔術の適性も一応あり、普通の魔法警察官には引けを取らないが、精鋭部隊の上級捜査官には劣る。
ルーヘシオンの敷地内にいれば、数百年前の大戦でも一切揺るがなかった防御障壁により守られる。昨日のような方法で侵入されない限り安全だ。
「以上だ。そちらの用件は」
昨日の顛末等を話し終えたグンナルは、机の上で手を組み、イリスへ来訪の目的を尋ねた。
「ノイマン先生を解雇してください」
端的な言葉に、グンナルは眉を上げた。
数か月前、相応の理由がなければ辞めさせることは難しいという結論へ至ったからだろう。
イリスはポケットから、手の中に隠せるほどの大きさの瓶を取り出して、グンナルの机へ置いた。
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