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前編
2.学生時代-3
しおりを挟む「取ってきてあげるから待ってて」
遠慮する間もなく、エレーンはイリスを残し、四人ほどがいるテーブルへ移動してしまった。
イリスは彼女がすぐにジュースを持ってきてくれることを期待した。ところが、その願いに反し、彼女は座っている生徒に引き止められてしまう。手を引かれて、そのまま腰を落ち着けて話し込み始めた。
イリスは悩んだ。エレーンには悪いがこっそり帰るか、あの場に割って入って飲み物を取ってくるか。
すると、視界の外から腕が伸びてきて、飲み物の入ったグラスを差し出された。
「よかったら、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
素直に両手で受け取る。
親切な人がいたものだ。
そうしていつの間にか傍に立っていた相手を見上げて、イリスはグラスを落としそうになった。
イリスを見下ろしていたのは、七年生の、あのアルヴィド・エーベルゴートだった。
「エーベルゴート先輩……!」
直接会話したことはなくても、彼を知らない学生などいない。
薄暗い室内でも、彼の周りだけ明るく日が射しているように感じられる。
常識的な間隔を空けて隣に座り、アルヴィドはイリスに笑いかけた。
「アルヴィドでいいよ。君は? 何年生?」
「六年生のイリス・セーデルルンドです」
優等生の彼がいる場なら、イリスが感じた異様な雰囲気は気の所為なのかもしれない。生徒たちの距離が近いのは、仲のよさの表れに過ぎないのだろう。イリスの不安は、アルヴィドが参加しているというだけで払拭されていった。
いつも人に囲まれている人気者の彼が、なぜ今誰の視線を受けることもなく一人なのか。僅かな疑問が頭をよぎったが、イリスがその重大な違和感の正体に気付くことはなかった。
「どうやら君も友人に引きずられてきたようだね」
「先輩もですか」
「ああ。もう彼らは顔見知りのようだけど、僕は知らない学生ばかりだからどうも輪に入れなくてね……」
場違いだと感じているのが自分だけではないと知り、イリスは彼に親近感を持った。アルヴィドは常に人の輪の中心にいる。そんな彼がイリスと同じようなことを感じるとは思わなかった。
「これを飲んだら一緒に帰ろう」
「ありがとうございます」
アルヴィドを隠れ蓑に後ろへくっついて帰らせてもらえば、イリスは目立たない。エレーンもすでに仲間と和気あいあいと話しているのだから、見逃してくれるだろう。
彼の申し出に安心して、イリスはグラスへ口をつけた。オレンジの甘みと酸味、僅かな苦みが口の中に広がる。何の変哲もないオレンジジュースのはずだった。
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