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前編

1.二人の教師-3

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 そんな中、生徒たちの好奇心が彼へ向く情報がもたらされた。
 アルヴィドは、魔術師の名門エーベルゴート家の長男であった。エーベルゴートは首相や各省庁長官を複数名輩出してきた屈指の名家だ。また、このルーヘシオンの卒業生で、各学年での年間最優秀賞をほぼ毎年取るほどの抜きんでた学生だったという。
 エーベルゴート家の長男でそれほど優秀だったのなら、卒業後はかなり高い地位の官僚にでもなっていておかしくない。だが、現在の彼はなぜかノイマン姓を名乗っている。加えて非常勤講師で、お世辞にも良い暮らしをしている様子はない。
 名家の子息がなぜこのような状況にあるのか。

 生徒たちは興味を掻き立てられたが、本人には聞きづらい内容だ。かといって長くいる教師は校長だけ。厳しい人物のため噂の聞き込みなど出来ない。そこで、卒業生を親類に持つ生徒を探した。
 その生徒たちから、追加の情報が徐々に得られる。
 アルヴィドの転落の始まりは卒業年度のこと。ベゼルスの学内大会決勝での敗北がきっかけであったという。その対決相手は、現在ルーヘシオンで精神魔術の教師をしているイリスだった。彼女もこの学校の卒業生なのだ。また、二人は一年違いの先輩後輩の間柄で、アルヴィドは異様に老けてしまっているが、実はイリスの一歳年上でまだ二十代だった。
 ベゼルスの学内大会の優勝者は、学校収蔵の強力な魔法道具を一度だけ使用する権利が与えられる。イリスの使ったその中のいずれかが原因ではないかと噂をされた。だが、卒業生たちにも詳細はわからない。とにかくその大会を境に、輝かしい優れた生徒であったアルヴィドの様子がおかしくなったのだという。

「ノイマン先生、明朝の職員会議ですが、明日の放課後へ振替になりました」
「ああ、ありがとうございます。セーデルルンド先生」

 一体どのような因縁があるのか。生徒たちはしばらくイリスとアルヴィドを観察した。
 ところが当人たちは、いたって平然と会話をしている。転落人生のきっかけのような因縁があるようには見えない。
 魔術師の名門ほど、優秀な人間を当主に据えるため手段を選ばない。必要とあらば、直系の子息を養子として追い出すなど、冷徹な整理を行う。優秀賞を取ったとしても、アルヴィドはエーベルゴート家の跡目争いには勝てなかったのだろう。ベゼルスの大会は、時期が重なり怪しく見えてしまっただけで、偶然に過ぎない。
 生徒たちはそう結論付けた。そして学生生活が忙しくなったことも相まり、噂をすぐに忘れ去った。

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