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前編

1.二人の教師-2

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 ルーヘシオン魔術学校は、魔力を持つ十一歳から十八歳の子供たちが通う、魔法や自分に適性のある魔術を学ぶための七年制の教育機関である。数ある魔術学校の中でも群を抜いて古い歴史を持つ、難関校でもある。厳しい条件を乗り越えた生徒たちを迎えるにふさわしい、一流の教師陣が在籍している。
 イリスも若くして精神魔術の第一人者であり、彼女にしか扱えない特別な魔術も編み出しているという。生徒たちは彼女を陰気な人物だと思っている一方、確かな実力を持った魔術師として尊敬の念をもって講義に臨んでいる。

 そんな素晴らしい教師陣には敬意を表す生徒たちであるが、この新年度から勤め始めたある教師については、今一つ力量を測りかねていた。
 それはアルヴィド・ノイマンという三、四十代ぐらいの非常勤講師である。講師とはいうものの授業は受け持っていない。ベゼルスという盤上遊戯の部活の顧問として採用された。

 元はベゼルス部の顧問は変身魔術の教師が兼任していた。しかし、彼女が産休に入るにあたり、およそ一年間の代理が必要となった。変身魔術については他に代わりを務められる教師がいたので問題ない。一方ベゼルス部については、対校大会での優勝を狙うため実力者が望まれる状況にもかかわらず、前年度までの教師陣の中に適切な人員がいなかった。唯一イリスがそれを担えそうであったのだが、彼女は研究の多忙を理由に断った。
 そうしてルーヘシオンの人事課は、全国ベゼルス協会に部活顧問の求人を出した。すると、アルヴィドが送り込まれてきた次第だ。

「ノイマン先生、放課後の部活のことなんですが……」
「ああ……、なんだろうか」

 昼時に廊下を歩いていたアルヴィドが、ベゼルス部の部員に呼び止められて話し込む。

 アルヴィドは一言で表現するなら、幽鬼もしくは亡霊のような男だった。
 白髪交じりの暗めの金髪と、下瞼にあるくっきり濃い隈。色は澄んでいるのになぜか濁って見える青い瞳。やつれた生気のない顔。顔立ち自体は整っているので若いころは端正な容姿だったのだろうが、見る影もない。また、身だしなみにあまり頓着していないのか、よく髭の剃り残しがあり、シャツもくたびれている。

 ベゼルスの競技の実力は申し分ない。また、指導内容も適切で、採用の目的である部活顧問の役目を十分果たしている。しかしながら一部活の顧問でしかなく、かつ明るさの欠片もない人柄のせいで、目立ちはしないが学内では完全に浮いていた。
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