【R-18】【完結】勇者はドラゴンに食い殺された

雲走もそそ

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夢じゃなかった編

22.目覚め(3)

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「ルディ」

 ジークは体を離して、ルディの両手をそっと握った。

「色々と、迷惑をかけてしまった。本当に、申し訳ない」

 当初ルディが本人の魂であると知らずに、ジークの夢の中で好き勝手にあれやこれやした件については、既に謝罪を受けている。
 これはその後、彼を助けるために単身ドラゴンへ挑もうとするルディを夢へ監禁したり、もう少し勝算のある提案をしても中々承諾しなかったりしたことについての謝罪のようだった。

「いいよ。怒ってない」

 現実逃避気味にいかがわしいことをしたのはさておき、ルディをジークの夢へ閉じ込めたこと自体は、彼女にドラゴンへ挑む危険を冒させないという守る意図がはっきり分かっていた。
 逆の立場なら同じように妨害しただろうと、ルディにも自覚があったので責めることはしない。

「君には、みっともないところを散々見られてしまったなぁ……」

 ジークはそう口にしながら、夢の中で様々な方向性の欲望をさらけ出したことや、さらに全裸で逃げたことなども思い出したのか、遠い目をしながら言葉尻を震わせた。

「幻滅しただろう。……せっかく、その、憧れて追いかけて来てくれたのに、すまない」

 ルディは、ジークが何を問いたいのか見えてきた。
 はっきりそれを聞けず、ためらっている彼が可愛く思えて、少し笑ってしまう。

「幻滅してないよ」

 憧憬は若干薄れたかもしれないが。

「あなたを好きになったのは、私のことを助けてくれて、優しくしてくれて、何より一人の人として扱ってくれたから」

 魔族の待ち構える森を抜けて、ルディは故郷の村の助けを呼びに行った。ジークはその勇気を称えてくれた。彼の言葉には対等な人間に対する尊敬があった。

「多分、また同じ状況に陥っても、あなたは同じことをしてくれる。だから、あなたへの気持ちは変わらない。色々あったけど、それはあなたの違う一面が見えただけ。今でも、好きだよ」
「ルディ……」

 ジークは、感極まったように目をわずかに潤ませた。

「今回は俺が君に救われた。それでまた惚れ直して余計に好きになったのに、君に嫌われていたらと思うと……。情けない」
「情けなくない。私だって、こんなことにならなかったら、あなたに好きだなんて言う勇気もなかった」

 旅の仲間としての役目を終えれば、ルディは王都への凱旋に加わることもなく、どこかへ消えていたことだろう。なぜ半魔が勇者一行にいるのか。人々のそんな視線に耐える自信はなかった。
 人目を避けて、遠い日々を懐かしんで一人暮らしたに違いない。

「ありがとう。……愛してる」

 心底嬉しそうに、ジークはルディの手の甲へ口づけ、腕の中へ閉じ込めた。

 半魔として生まれたルディには、望むべくもない幸福だった。
 自らが他人を求め、乞うことはあっても、それを他人から返されることなどないと思っていた。
 それを、ジークただ一人は、ルディへ与えてくれる。自分の愛した人が、同じ気持ちを返してくれる。

「私も、伝えきれないぐらい、あなたに感謝してる。ありがとう」

 触れる程度の口づけをジークへすると、彼からはそれより多く返ってきて、お互いむず痒いような幸せにくすくすと笑いあった。

 夢の中の開放的なジークであれば、ここで性的な手段で愛を確かめ合おうとしかねなかったが、特段そのような雰囲気にはならなかった。
 そうならないだろうということは、ルディも何となく想定していたが、意外にも愛の告白まで進められてしまったので、まさかここでするのではないかと頭の片隅に一抹の不安があったことは否めない。

「さて――」

 ルディから体を離したジークは集落を見渡した。

「――服、探すか」

 ドラゴンから人間へ変身したジークは、情緒など欠片もなく、全裸だった。
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