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夢じゃなかった編
14.あの時助けてもらった(5)
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「本当にルディなんだな……。え? ということは、昨日のあれも、俺の夢の中の君ではなくて、現実の君、ということか?」
「正確に言うと、体はあなたの願望で形作られた私で、その中身が、現実の私、ってことになる……」
ここにある体そのものはジークの夢で、それを動かし、感覚を受け取るのはルディの魂となる。
「なんてことだ……」
ジークの顔は見る間に青ざめていった。
昨晩の夢でジークは、ルディから同意を得る前に押し倒し口づけした。その後お互いに夢と思いつつ好意を伝えあってから性行為へ移ったが、その中でもルディの怯えを無視して無理矢理進めたところがあった。更に夢の中で現実の時間が足りなくなるほどの長時間の行為を強いた。
ついでに今回も、ルディが夢の中の存在と思っていたため、中々に非道な要求を行い、欲求不満呼ばわりまでしていた。そもそも今回の行為は、ジークがルディの言うことを信用してくれていれば、する必要のなかったことだ。
「すまない、本当にすまない……」
「えっ……、いや、それは……」
自身の所業の一つ一つを、脳内で最初から洗い出したジークはがばりと頭を抱えた。
「同意も得ずに、い、いきなり……。しかも、あんな、自分勝手な……。う、うぅ、うわああああああああああああああ!」
「あっ、ジーク!」
耐えきれなくなったジークは絶叫と共に走り出し、平原の闇の中へ失踪した。
全裸のままだ。
◆
しばらくして、焚火の傍で待っていたルディの元へ、足取りの覚束ないジークが帰ってきた。
「本当に、すまなかった……!」
やつれた顔のジークは、ルディの足元へ土下座して地面に額を擦りつけた。
ちなみに服は着ている。夢なので望めば服も戻る。彼は夢を使いこなしているようだ。
「い、いいよ! 私も、あなたが好きだったから、自分の夢だと思って楽しもうとしたし」
色々不満はあったが、ルディはそこまで深々と謝罪を受けるほどではないと、慌てて彼の頭を上げさせる。
ジークが落ち着いてから、二人で焚火を囲んで話し始めた。
「なぜ気が付いたんだ。君も自分の夢だと思っていたんだろう」
「えっと……、後から、体が現実の私と違ったと気が付いて。昔あなたに助けてもらったときに負っていた怪我の古傷がなかったし、角が、その、すごく敏感になってたし……」
普通は、特に願望がなければ、記憶が優先される。自分の体の特徴的な部分を記憶違いすることなどありえない。
特に角は、現実では感覚はあれど薄く、何か触れてもほとんど感じない。性的快感を得るにはほど遠い。そうでなくては髪の毛や、ルディのよくかぶっているマントのフードで感じてしまう。
「あれは違うのか?」
「感覚はあるんだけどあそこまで敏感じゃないの……。どうしてあんな勘違いしたの?」
かっと耳まで赤くしたジークは、顔を両手で覆って背を向けた。
「頼むから追及しないでくれ……!」
「わ、わかった……」
下手に詮索すると、またどこかへ旅立ってしまうかもしれない。
「あと、胸も、普段布で押さえてたからああなったんだろうけど、現実はもう少し大きいから、気が付いたの」
「それは素直に嬉しい」
ジークは即座にルディの方へ向き直った。
そういえば胸が大きい方が好きだと言っていた。いつからこんなに分かりやすい男になってしまったのか。ルディは心の中で泣いた。
「正確に言うと、体はあなたの願望で形作られた私で、その中身が、現実の私、ってことになる……」
ここにある体そのものはジークの夢で、それを動かし、感覚を受け取るのはルディの魂となる。
「なんてことだ……」
ジークの顔は見る間に青ざめていった。
昨晩の夢でジークは、ルディから同意を得る前に押し倒し口づけした。その後お互いに夢と思いつつ好意を伝えあってから性行為へ移ったが、その中でもルディの怯えを無視して無理矢理進めたところがあった。更に夢の中で現実の時間が足りなくなるほどの長時間の行為を強いた。
ついでに今回も、ルディが夢の中の存在と思っていたため、中々に非道な要求を行い、欲求不満呼ばわりまでしていた。そもそも今回の行為は、ジークがルディの言うことを信用してくれていれば、する必要のなかったことだ。
「すまない、本当にすまない……」
「えっ……、いや、それは……」
自身の所業の一つ一つを、脳内で最初から洗い出したジークはがばりと頭を抱えた。
「同意も得ずに、い、いきなり……。しかも、あんな、自分勝手な……。う、うぅ、うわああああああああああああああ!」
「あっ、ジーク!」
耐えきれなくなったジークは絶叫と共に走り出し、平原の闇の中へ失踪した。
全裸のままだ。
◆
しばらくして、焚火の傍で待っていたルディの元へ、足取りの覚束ないジークが帰ってきた。
「本当に、すまなかった……!」
やつれた顔のジークは、ルディの足元へ土下座して地面に額を擦りつけた。
ちなみに服は着ている。夢なので望めば服も戻る。彼は夢を使いこなしているようだ。
「い、いいよ! 私も、あなたが好きだったから、自分の夢だと思って楽しもうとしたし」
色々不満はあったが、ルディはそこまで深々と謝罪を受けるほどではないと、慌てて彼の頭を上げさせる。
ジークが落ち着いてから、二人で焚火を囲んで話し始めた。
「なぜ気が付いたんだ。君も自分の夢だと思っていたんだろう」
「えっと……、後から、体が現実の私と違ったと気が付いて。昔あなたに助けてもらったときに負っていた怪我の古傷がなかったし、角が、その、すごく敏感になってたし……」
普通は、特に願望がなければ、記憶が優先される。自分の体の特徴的な部分を記憶違いすることなどありえない。
特に角は、現実では感覚はあれど薄く、何か触れてもほとんど感じない。性的快感を得るにはほど遠い。そうでなくては髪の毛や、ルディのよくかぶっているマントのフードで感じてしまう。
「あれは違うのか?」
「感覚はあるんだけどあそこまで敏感じゃないの……。どうしてあんな勘違いしたの?」
かっと耳まで赤くしたジークは、顔を両手で覆って背を向けた。
「頼むから追及しないでくれ……!」
「わ、わかった……」
下手に詮索すると、またどこかへ旅立ってしまうかもしれない。
「あと、胸も、普段布で押さえてたからああなったんだろうけど、現実はもう少し大きいから、気が付いたの」
「それは素直に嬉しい」
ジークは即座にルディの方へ向き直った。
そういえば胸が大きい方が好きだと言っていた。いつからこんなに分かりやすい男になってしまったのか。ルディは心の中で泣いた。
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