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夢編

4.受け入れられない(1)

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 そこからのことは、ルディには驚きの連続であった。
 彼らを侮っていたわけではない。だがその強さはルディの想像をはるかに超えていた。
 鋭い爪の生えた手をひと振りするだけで人間へ致命傷を与える怪物たちを、男たちはまるで羽虫でも払うかのようにやすやすと切り伏せていった。

 村の入り口にたどり着いたころ、空の端はうっすら白み始めていた。
 昨日までは、また新たな犠牲の出る朝であったが、もう魔族の気配は全く感じられず、一匹残らず勇者たちが倒してくれていた。

 複数の馬の嘶きに気付いた村人たちが、ばらばらと家から出てくる。早朝だが次に食われるのは自分かもしれないという恐怖で、誰もが眠れなかったのだろう。

「ま、まさか、本当に……」
「あなたが勇者様ですか」

 まだ恐る恐る周囲をうかがいながら集まってくる村人たちの全員へ聞こえるよう、仲間の一人が声を張る。

「村の周囲にいた魔族は漏れなく討伐した。もう安全だ」

 その言葉に安堵の表情を浮かべ、村人たちは歓声を上げて抱き合う。
 彼らの歓喜の涙に、ルディは達成感を覚えた。

(これで、やっと……)

 先に馬を下りたジークが、ルディに笑いかけながら手を引いた。下りるのを手伝ってくれるようだ。
 昨日対面したときは夜だったし、それ以降ずっとルディの後ろ側にいたので、顔をよく見るのはその時が初めてだった。
 金茶色の髪と深い藍色の瞳。左の顎下から頬の中ほどにかけて古い切創があり、それが老練な威圧感を醸し出しているが、年齢はまだ二十代前半に見える。
 頼もしい聖剣の勇者の顔を目に焼き付けてから、ルディは彼の手を借りて馬を下り、そのままがくりと倒れ伏した。

「君! どうしたんだ!」

 ジークが助け起こしてくれるが、ルディの体にはもう立ち上がる力はなかった。ずっと、彼にもたれて座っているのがやっとだった。

「これは……!」

 彼はルディに触れて赤く染まった手を見て、マントの前を開いた。
 黒いマントは、赤い血も、その中の深い傷を負った体も覆い隠してくれていた。

 隣村への道中、包囲を抜けたが執拗に追いかけてくる一匹の爪が届いた。体を深く切り裂かれると同時に落馬し、折れた骨が内臓に刺さった。幸い馬は無事で、すぐにルディを拾ってくれたためどうにか逃げ切れたものの、隣村へたどり着いた時、ルディは自分が助からないと悟っていた。
 それでも、ルディは死を覚悟していた。元より危険を承知で、村人たちに仲間として受け入れてもらうためにしたことだ。
 せめて、彼らがルディの死後に、認めてくれさえすれば。

「誰も、いないのか……?」

 そんなルディの願いが叶わなかったと教えてくれたのは、愕然としたジークであった。

 倒れたルディを助け起こしたジークに、手を貸す者は誰もいなかった。
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