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18.助言-5
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実はオーランは、女官長が皇帝に抱かれるようになってから、彼女が主君を篭絡した、もしくはこれからしようと企んでいるのではないかと疑っていた。
おそらく最初と思われる夜、寝室の前で警護に当たっていたオーランは、室内からシュルークの尋常ではない叫び声を聞いた。だから当初は主君による強引な関係だったのだろう。その後はよく分からないが、少なくとも他の寵姫と呼ばれた女奴隷たちとの間にあった甘い空気は二人の間にない。
シュルークは全裸で犬のように庭を散歩させられるなど、ファルハードの命令に服従している。だから一度目は恐れたが、それ以降はただ従っているだけなのかもしれない。だが、それにしてはファルハードの入れ込み方が不自然に感じられた。どうも無気力な女で野心など欠片もなさそうではあるが、オーランは奸計を警戒した。
まず一番あり得るのは、皇帝の子を身ごもって権力争いに参加することだ。しかし法務官や侍医長に尋ねれば、法的に彼女の子は帝国の後継者とは認められず、いくら皇帝でもこれは曲げられないそうだ。そして何なら、本人が余計な火種を生まないために避妊薬を使っているという話もされた。
次の可能性は、子供は持たずとも皇帝に欲しいものを与えてもらえる寵姫の立場を得ること。子供を産まなくても、皇帝本人が言いなりになってくれるのならどうにでもなる。しかしこれも、彼女の軟禁に近い立場は継続しており、何かをねだっている様子もないので違うように思われた。
一体シュルークの狙いは何なのか。ファルハードの身辺警護をする身としては、看過できない。
そうしてシュルークを疑いに満ちた視線で追う最中にもたらされた、本人からの予想外の提案。
もしかすると彼女はオーランまでも篭絡しようとしているのではないか。ならば、落とされたふりをすれば真意を引き出せるかもしれない。そう考えたオーランは、あえてシュルークの不審極まりない誘いに応じたのだ。
ところが、大胆かつ直接的に誘ったくせに、シュルークの性交中の振る舞いはかなり受け身で、あの百戦錬磨のファルハードを体で陥落させたとは思えない手管だった。悪くはないが、名器とまでもいかない。
さらに、行為やシュルークの話の端々から感じる、ファルハードから彼女への執着。秘所へ口をつける奉仕に肩の傷を舐める行為は、彼らしくない。
やがてオーランは一つの確信を得た。シュルークはファルハードを誘惑してなどいない。全て皇帝の自発的な行動だ。そして彼女は、皇帝が繰り返し抱いて自分になじませた女体なのだ。
主君の意思なら口を出す必要はないし、彼が執着する女の誘いに応じたと知られれば何が起きるか分かったものではない。ファルハードが執着を見せた存在は他にないのだから。彼女には深入りしてはならない。この探るための一度すら、関わり合いになるべきではなかった。そう判断したオーランは、今後も期待している様子のシュルークに二度目はないと釘を刺した。
渋ったり追い縋る様子はなかったので、シュルークは素直に諦めてくれたと思われた。他の人間は彼女のあまりに直接的かつ怪しすぎる誘いになど乗らないから、事態は終息する。
そう結論づけたオーランであったが、一つ想定外があった。
オーランが伝えた受け身な振る舞いなどの指摘を、シュルークは助言と受け取ったのだ。
彼女はオーランが面倒見がよいと周囲に思われていることを知っていた。そのため、自分への指摘や感想は助言だと思った。これらを改善すれば、他の男たちに応じてもらいやすくなるはず、と。
そのように考えたシュルークは、残念ながら改善のための手段を持ちあわせていた。女官長として、後宮に関連する記録や書物は制限なく閲覧できる。後宮へ召し上げられる女奴隷たちは、必ずしも全員が性技に長けているわけではなく、先人たちの残した秘蔵の指南書のようなもので知識をつける場合がある。それはシュルークも見ることができる。
さらに悪いことに、シュルークは非常に物覚えがよかった。だからこそ女官長にまで出世できたのだが、その覚えの良さは書物の知識の吸収に最大限貢献してしまった。
こうして後は実践するだけという状態で、シュルークは次の行動へ移るのであった。
おそらく最初と思われる夜、寝室の前で警護に当たっていたオーランは、室内からシュルークの尋常ではない叫び声を聞いた。だから当初は主君による強引な関係だったのだろう。その後はよく分からないが、少なくとも他の寵姫と呼ばれた女奴隷たちとの間にあった甘い空気は二人の間にない。
シュルークは全裸で犬のように庭を散歩させられるなど、ファルハードの命令に服従している。だから一度目は恐れたが、それ以降はただ従っているだけなのかもしれない。だが、それにしてはファルハードの入れ込み方が不自然に感じられた。どうも無気力な女で野心など欠片もなさそうではあるが、オーランは奸計を警戒した。
まず一番あり得るのは、皇帝の子を身ごもって権力争いに参加することだ。しかし法務官や侍医長に尋ねれば、法的に彼女の子は帝国の後継者とは認められず、いくら皇帝でもこれは曲げられないそうだ。そして何なら、本人が余計な火種を生まないために避妊薬を使っているという話もされた。
次の可能性は、子供は持たずとも皇帝に欲しいものを与えてもらえる寵姫の立場を得ること。子供を産まなくても、皇帝本人が言いなりになってくれるのならどうにでもなる。しかしこれも、彼女の軟禁に近い立場は継続しており、何かをねだっている様子もないので違うように思われた。
一体シュルークの狙いは何なのか。ファルハードの身辺警護をする身としては、看過できない。
そうしてシュルークを疑いに満ちた視線で追う最中にもたらされた、本人からの予想外の提案。
もしかすると彼女はオーランまでも篭絡しようとしているのではないか。ならば、落とされたふりをすれば真意を引き出せるかもしれない。そう考えたオーランは、あえてシュルークの不審極まりない誘いに応じたのだ。
ところが、大胆かつ直接的に誘ったくせに、シュルークの性交中の振る舞いはかなり受け身で、あの百戦錬磨のファルハードを体で陥落させたとは思えない手管だった。悪くはないが、名器とまでもいかない。
さらに、行為やシュルークの話の端々から感じる、ファルハードから彼女への執着。秘所へ口をつける奉仕に肩の傷を舐める行為は、彼らしくない。
やがてオーランは一つの確信を得た。シュルークはファルハードを誘惑してなどいない。全て皇帝の自発的な行動だ。そして彼女は、皇帝が繰り返し抱いて自分になじませた女体なのだ。
主君の意思なら口を出す必要はないし、彼が執着する女の誘いに応じたと知られれば何が起きるか分かったものではない。ファルハードが執着を見せた存在は他にないのだから。彼女には深入りしてはならない。この探るための一度すら、関わり合いになるべきではなかった。そう判断したオーランは、今後も期待している様子のシュルークに二度目はないと釘を刺した。
渋ったり追い縋る様子はなかったので、シュルークは素直に諦めてくれたと思われた。他の人間は彼女のあまりに直接的かつ怪しすぎる誘いになど乗らないから、事態は終息する。
そう結論づけたオーランであったが、一つ想定外があった。
オーランが伝えた受け身な振る舞いなどの指摘を、シュルークは助言と受け取ったのだ。
彼女はオーランが面倒見がよいと周囲に思われていることを知っていた。そのため、自分への指摘や感想は助言だと思った。これらを改善すれば、他の男たちに応じてもらいやすくなるはず、と。
そのように考えたシュルークは、残念ながら改善のための手段を持ちあわせていた。女官長として、後宮に関連する記録や書物は制限なく閲覧できる。後宮へ召し上げられる女奴隷たちは、必ずしも全員が性技に長けているわけではなく、先人たちの残した秘蔵の指南書のようなもので知識をつける場合がある。それはシュルークも見ることができる。
さらに悪いことに、シュルークは非常に物覚えがよかった。だからこそ女官長にまで出世できたのだが、その覚えの良さは書物の知識の吸収に最大限貢献してしまった。
こうして後は実践するだけという状態で、シュルークは次の行動へ移るのであった。
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