55 / 79
17.発見-2
しおりを挟む
「ん……」
シュルークが私室のものより格段に上等な寝台で目を覚ますと、隣には裸のファルハードが眠っていた。シュルーク自身も全裸だ。
慣れてきたもので、シュルークは静かに起き出し寝台を下り、絨毯の上に脱ぎ捨てられた自分の服を拾って身に着けていく。
ファルハードには、あれから複数回抱かれていた。
最初は苦痛を伴う凌辱だったが、二回目からはなぜか一変した。たしか、突然腕を掴まれ、寝台の上に引きずり込まれたのが二回目の始まりだった。足を開けだとか命令するだけで他には何も言わないものの、恐怖を解きほぐし未知の快楽を引きずり出す、おそらくまともな性交だった。
帝国に来た当初のシュルークの頭の中には、それ以前の記憶がなく、蓄積した知識だけがある状態だった。そこには性交経験の記憶は無かったが、性行為に対する恐怖と苦痛の知識が存在した。そしてファルハードに最初に体を暴かれた時は、同じく痛くて恐ろしかった。
ところが、ファルハードとの二度目以降の性交では、痛みはなく、体の奥深くから湧き出る、表現しがたい感覚があった。弱い時はくすぐったいような、強い時は痺れるような、少し尿意に似た感覚。しかし際限なく欲しくなり、一定を超えると大きな波に意識を持っていかれる不思議な感覚だ。
これが性的な快感らしい。新しい発見である。
ちなみにファルハードがシュルークに快感を与えるようになった理由は不明だ。聞いても答えは返されないので、シュルークは主君のするようにさせている。
最後に顔を隠すいつもの帽子を被って身なりを整え終えたシュルークは、ファルハードが同じ調子で寝息を立てているのを横目で見つつ、皇帝の寝室を出た。
こうして夜中に起きて私室へ戻るのは億劫だが、妃でもないのに主君の寝台で眠り続けるわけにもいかず、目覚めたからにはいつも私室へ戻っている。
廊下には、近衛兵が幾人かと、シュルークの護衛をしている宦官のサドリがいた。
本来は皇帝と性交する立場にない女官長が寝室で何をしているのか、彼らは当然認識している。本人たちから何も言われずとも、成人した男女が夜中まで二人きりで寝室にいれば普通は察するだろうが。
「戻ります」
サドリに声をかけて、シュルークは歩き出す。サドリは歩みの遅いシュルークの後を、無言でついてくる。
普段のシュルークの杖は、石の廊下を突けばこつこつと高い音を立てる。しかし今は、杖の根本を布で包んで音が響かないようにしていた。布がすぐに弱るし歩きづらくなるので好ましくないのだが、皆が寝静まっている時間に女官の宿舎の廊下を杖の音を響かせて歩くのは忍びない。そこで、ファルハードから夜に呼び出されるようになってからは、杖の先端に布を履かせて部屋を出ている。
皇帝の寝室のある第一宮殿を出て、渡り廊下から後宮のある方向へ行く。女官の宿舎は後宮の近くに建っている。
渡り廊下には火の灯されたランプが点在しているが、宿舎はそこから外れていくし、宿舎の中は皆寝ているので明かりは消えている。そのため後ろをついてくるサドリがランプを手に送ってくれるのはありがたいことだった。シュルークは基本的に両手で杖を扱うので、夜間は月明りに頼るしかない。
シュルークが私室のものより格段に上等な寝台で目を覚ますと、隣には裸のファルハードが眠っていた。シュルーク自身も全裸だ。
慣れてきたもので、シュルークは静かに起き出し寝台を下り、絨毯の上に脱ぎ捨てられた自分の服を拾って身に着けていく。
ファルハードには、あれから複数回抱かれていた。
最初は苦痛を伴う凌辱だったが、二回目からはなぜか一変した。たしか、突然腕を掴まれ、寝台の上に引きずり込まれたのが二回目の始まりだった。足を開けだとか命令するだけで他には何も言わないものの、恐怖を解きほぐし未知の快楽を引きずり出す、おそらくまともな性交だった。
帝国に来た当初のシュルークの頭の中には、それ以前の記憶がなく、蓄積した知識だけがある状態だった。そこには性交経験の記憶は無かったが、性行為に対する恐怖と苦痛の知識が存在した。そしてファルハードに最初に体を暴かれた時は、同じく痛くて恐ろしかった。
ところが、ファルハードとの二度目以降の性交では、痛みはなく、体の奥深くから湧き出る、表現しがたい感覚があった。弱い時はくすぐったいような、強い時は痺れるような、少し尿意に似た感覚。しかし際限なく欲しくなり、一定を超えると大きな波に意識を持っていかれる不思議な感覚だ。
これが性的な快感らしい。新しい発見である。
ちなみにファルハードがシュルークに快感を与えるようになった理由は不明だ。聞いても答えは返されないので、シュルークは主君のするようにさせている。
最後に顔を隠すいつもの帽子を被って身なりを整え終えたシュルークは、ファルハードが同じ調子で寝息を立てているのを横目で見つつ、皇帝の寝室を出た。
こうして夜中に起きて私室へ戻るのは億劫だが、妃でもないのに主君の寝台で眠り続けるわけにもいかず、目覚めたからにはいつも私室へ戻っている。
廊下には、近衛兵が幾人かと、シュルークの護衛をしている宦官のサドリがいた。
本来は皇帝と性交する立場にない女官長が寝室で何をしているのか、彼らは当然認識している。本人たちから何も言われずとも、成人した男女が夜中まで二人きりで寝室にいれば普通は察するだろうが。
「戻ります」
サドリに声をかけて、シュルークは歩き出す。サドリは歩みの遅いシュルークの後を、無言でついてくる。
普段のシュルークの杖は、石の廊下を突けばこつこつと高い音を立てる。しかし今は、杖の根本を布で包んで音が響かないようにしていた。布がすぐに弱るし歩きづらくなるので好ましくないのだが、皆が寝静まっている時間に女官の宿舎の廊下を杖の音を響かせて歩くのは忍びない。そこで、ファルハードから夜に呼び出されるようになってからは、杖の先端に布を履かせて部屋を出ている。
皇帝の寝室のある第一宮殿を出て、渡り廊下から後宮のある方向へ行く。女官の宿舎は後宮の近くに建っている。
渡り廊下には火の灯されたランプが点在しているが、宿舎はそこから外れていくし、宿舎の中は皆寝ているので明かりは消えている。そのため後ろをついてくるサドリがランプを手に送ってくれるのはありがたいことだった。シュルークは基本的に両手で杖を扱うので、夜間は月明りに頼るしかない。
3
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる