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14.脱出-3
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地上へ出れば、配下たちが兵士と切り結び、ファルハードの退路を確保してくれていた。既にこと切れている者もいた。ファルハードはシャーヤールの先導で屋敷の門まで走った。
到着したときに丁度門を制圧したようで、開くと同時にシャーヤールと外へ飛び出る。他の配下は、二人が逃げる時間を稼ぐために残った。もう今世で会うことはないだろう。
血の盾の間をすり抜けてきた兵士に矢を射かけられながら、用意されていた二頭の馬にそれぞれ飛び乗り、人や荷物が行き交う都の中を強引に駆けた。
シャーヤールが事前に道順を調べていたことが功を奏し、また、馬に何かが接触する不運に見舞われることもなく、無事に王都の門まで辿り着いた。開いている門に突っ込んでくる馬を、まさか脱走した虜囚がいるとは思ってもいない衛兵は止められない。そのままの勢いで突破できた。
馬を潰すつもりで駆け続け、追手を完全に振り切り、遠くに帝国の軍勢が見えてようやく、二人は馬に足を緩めることを許した。
止まれば、地下牢を出た時からファルハードの心臓を引っ張っていた何かが、敵国の王都の方を振り返らせる。
脱出のための行動が一手でも違えば、逃げ延びられなかっただろう。余計な荷物を抱えたり、判断を迷って足踏みしたりすれば、屋敷を出る前に矢で貫かれ倒れていた。断言できるほど、紙一重の状況だった。
だから、シュルークを冷たい地下牢へ置いてきたことは、正しかった。
それを理解しながら、彼女が最後に弱々しく伸ばした手が、涙に濡れた眼差しが、ファルハードの脳裏に焼きついて離れなかった。
◆
帝国軍と合流したファルハードは、周囲の反対を押し切って、すぐさま王都を攻めるよう指揮した。
皆を納得させるために、時間をかけては潜伏した同胞に王都を守る城壁の門を内側から開ける計画が失敗するおそれがあるという理由を挙げた。これは事実だ。ファルハードを予定より早期に救出するために、そちらの人員を割いたそうだ。救出計画を実行したからには、王都の中に伏兵がいると知られている。その状況では、予定外に動かした彼らが見つかってしまう危険性は高まっているはずだ。まだ門を開けられるうちに攻め込んだ方が、都に籠られるより戦いの期間の短縮が期待できる。そして、潜伏した同胞が助かる可能性も上がる。
ただ、それだけが理由ではないことは、ファルハード自身よく分かっていた。いつまでに王都を落とすかという目標を、蔓草の曜日を迎える前の日に設定したのだ。戦略的な根拠はない、自然と自分の中から出てきた期限だった。蔓草の曜日にシュルークが処刑されるから、その前に。
彼女が処刑される前に王都を制圧しなければ、自身の手で報復することができなくなる。だから一刻も早く、あの屋敷へ戻らなくてはならない。
生き急ぐように前線に立ち直接指揮するファルハードを、周囲は一度捕虜になった雪辱を晴らすためだと受け取った。
そして計画通り、都の門は内側から開けられ、帝国軍は効率的に王都を制圧することに成功した。
ファルハードが、まだ制圧が完了したとは言い難い残党もまだ多く残る王都で、真っ先に向かったのはあの将軍の私邸だった。
将軍は王宮へ後退しており不在だったが、使用人や私兵の幾人かは逃げそびれたのか残っていた。シャーヤールを始めとする連れてきた配下にそれらを討たせながら、ファルハードはただ一人を探して進んだ。
彼女はあれから幾日か経ったというのに、ある意味想定通りと言うべきか、まだあの地下牢にいた。
「殿下、兵が潜んでいるやもしれません! 私を前に立たせてください!」
後ろから追いかけてくるシャーヤールの声も無視して、ファルハードは裏庭へ走り、地下牢へ続く階段を駆け下りた。
下り立った前室には、高い位置の窓から陽光が差し込んでいる。
その日差しに照らされながら、シュルークは身動き一つせず地面に倒れていた。
到着したときに丁度門を制圧したようで、開くと同時にシャーヤールと外へ飛び出る。他の配下は、二人が逃げる時間を稼ぐために残った。もう今世で会うことはないだろう。
血の盾の間をすり抜けてきた兵士に矢を射かけられながら、用意されていた二頭の馬にそれぞれ飛び乗り、人や荷物が行き交う都の中を強引に駆けた。
シャーヤールが事前に道順を調べていたことが功を奏し、また、馬に何かが接触する不運に見舞われることもなく、無事に王都の門まで辿り着いた。開いている門に突っ込んでくる馬を、まさか脱走した虜囚がいるとは思ってもいない衛兵は止められない。そのままの勢いで突破できた。
馬を潰すつもりで駆け続け、追手を完全に振り切り、遠くに帝国の軍勢が見えてようやく、二人は馬に足を緩めることを許した。
止まれば、地下牢を出た時からファルハードの心臓を引っ張っていた何かが、敵国の王都の方を振り返らせる。
脱出のための行動が一手でも違えば、逃げ延びられなかっただろう。余計な荷物を抱えたり、判断を迷って足踏みしたりすれば、屋敷を出る前に矢で貫かれ倒れていた。断言できるほど、紙一重の状況だった。
だから、シュルークを冷たい地下牢へ置いてきたことは、正しかった。
それを理解しながら、彼女が最後に弱々しく伸ばした手が、涙に濡れた眼差しが、ファルハードの脳裏に焼きついて離れなかった。
◆
帝国軍と合流したファルハードは、周囲の反対を押し切って、すぐさま王都を攻めるよう指揮した。
皆を納得させるために、時間をかけては潜伏した同胞に王都を守る城壁の門を内側から開ける計画が失敗するおそれがあるという理由を挙げた。これは事実だ。ファルハードを予定より早期に救出するために、そちらの人員を割いたそうだ。救出計画を実行したからには、王都の中に伏兵がいると知られている。その状況では、予定外に動かした彼らが見つかってしまう危険性は高まっているはずだ。まだ門を開けられるうちに攻め込んだ方が、都に籠られるより戦いの期間の短縮が期待できる。そして、潜伏した同胞が助かる可能性も上がる。
ただ、それだけが理由ではないことは、ファルハード自身よく分かっていた。いつまでに王都を落とすかという目標を、蔓草の曜日を迎える前の日に設定したのだ。戦略的な根拠はない、自然と自分の中から出てきた期限だった。蔓草の曜日にシュルークが処刑されるから、その前に。
彼女が処刑される前に王都を制圧しなければ、自身の手で報復することができなくなる。だから一刻も早く、あの屋敷へ戻らなくてはならない。
生き急ぐように前線に立ち直接指揮するファルハードを、周囲は一度捕虜になった雪辱を晴らすためだと受け取った。
そして計画通り、都の門は内側から開けられ、帝国軍は効率的に王都を制圧することに成功した。
ファルハードが、まだ制圧が完了したとは言い難い残党もまだ多く残る王都で、真っ先に向かったのはあの将軍の私邸だった。
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彼女はあれから幾日か経ったというのに、ある意味想定通りと言うべきか、まだあの地下牢にいた。
「殿下、兵が潜んでいるやもしれません! 私を前に立たせてください!」
後ろから追いかけてくるシャーヤールの声も無視して、ファルハードは裏庭へ走り、地下牢へ続く階段を駆け下りた。
下り立った前室には、高い位置の窓から陽光が差し込んでいる。
その日差しに照らされながら、シュルークは身動き一つせず地面に倒れていた。
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