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11.露見-2
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十分な食事、運動、日光浴、脱出への希望、そして屈辱的ではあるが環境への慣れは、ファルハードを健康にし、精神的にもかなり安定させた。
シュルークは、父親が連日帰宅しないのをいいことに、ファルハードと一緒に地下牢で眠った。先代の犬も寝台へ上げて眠っていたそうなので、彼女にとっては普通のことなのだろう。密着して寝られると鬱陶しいことこの上なかったが、彼女が危害を加えてこないと分かっているからか、慣れてきたのか、ファルハードはその状態でも熟睡できるようになった。
「お父様はまだ三日ほどはお戻りにならないそうだから、今夜も一緒に寝ましょうね」
この夜も、シュルークは上掛け代わりの服などを抱えて地下牢へ下りてきた。
将軍が不在だと、ファルハードは狭い鉄格子の中ではなく前室で体を伸ばして寝られるので、シュルークは邪魔だが悪い事ばかりではない。
シュルークは全裸のファルハードにしっかり肩まで服をかけ、隣へ潜り込んでくる。しばらくは後ろからファルハードの髪を手で梳くように撫でた。
そしていつしか手が止まり、規則正しい寝息が聞こえるようになった頃、ファルハードはそっと体を起こした。自分の体の上に乗ったままの彼女の手を、ぞんざいに押しのける。
ついでに体の向きを変えた結果、シュルークと向かい合わせになった。
幸せそうに微笑みながら眠っている。
思えばファルハードは、シュルークの顔をゆっくり眺めたことがなかったかもしれない。目を合わせるとファルハードを犬と思い込んで笑いかけてくる。それが不快で顔を逸らしていた。だが今は、彼女の顔が落ち着いて見られる。
それは、ファルハードの中でシュルークが人間になったからなのかもしれない。
なぜそうするのか、なぜそうなったのか分からない狂人だったが、その背景を知って、理解できた。理解し、慣れてきたから、見え方が違う。
「殺す……」
ぼそりと、何度口にしたかわからない彼女への殺意を確認した。この決意に変わりはない。ファルハードにあそこまでの屈辱を与えたシュルークを、絶対に殺す。
まさか憐れんで決意が揺らいだのではないかと思ったファルハードであったが、自らの殺意が揺らいでいないことに安堵した。
シュルークが人間に思えるようになっただけで、ファルハードは変わっていない。こんな些末なことで焦った自分に、ファルハードは呆れて天を仰いだ。広がるのは星空ではなく寒々しい地下牢の天井だが。
その拍子に、シュルークに腕が軽く当たった。
そういえば彼女に触れたのは――触れられたのを除いて――犬扱いされて最初の方に掴みかかった一度きりだ。
向き直って、頬や肩に触れてみた。間違いなく、血の通った人間だ。無邪気な子供のように思える振る舞いしかしないが、顔や体は同年代の女の姿をしている。
「ん……」
触った所為で、シュルークはかすかに唸って瞼を開けた。目に力が入っていないので、半分寝ているようだ。
「いい子……」
寝ぼけた様子でファルハードの首を撫で、そのまま頬に手を添えた。顔は嫌がると認識しているようで、あまり触らないのだが珍しい。
そう不思議に感じた次の瞬間、シュルークの顔が近づき、唇を重ねられていた。
シュルークは、父親が連日帰宅しないのをいいことに、ファルハードと一緒に地下牢で眠った。先代の犬も寝台へ上げて眠っていたそうなので、彼女にとっては普通のことなのだろう。密着して寝られると鬱陶しいことこの上なかったが、彼女が危害を加えてこないと分かっているからか、慣れてきたのか、ファルハードはその状態でも熟睡できるようになった。
「お父様はまだ三日ほどはお戻りにならないそうだから、今夜も一緒に寝ましょうね」
この夜も、シュルークは上掛け代わりの服などを抱えて地下牢へ下りてきた。
将軍が不在だと、ファルハードは狭い鉄格子の中ではなく前室で体を伸ばして寝られるので、シュルークは邪魔だが悪い事ばかりではない。
シュルークは全裸のファルハードにしっかり肩まで服をかけ、隣へ潜り込んでくる。しばらくは後ろからファルハードの髪を手で梳くように撫でた。
そしていつしか手が止まり、規則正しい寝息が聞こえるようになった頃、ファルハードはそっと体を起こした。自分の体の上に乗ったままの彼女の手を、ぞんざいに押しのける。
ついでに体の向きを変えた結果、シュルークと向かい合わせになった。
幸せそうに微笑みながら眠っている。
思えばファルハードは、シュルークの顔をゆっくり眺めたことがなかったかもしれない。目を合わせるとファルハードを犬と思い込んで笑いかけてくる。それが不快で顔を逸らしていた。だが今は、彼女の顔が落ち着いて見られる。
それは、ファルハードの中でシュルークが人間になったからなのかもしれない。
なぜそうするのか、なぜそうなったのか分からない狂人だったが、その背景を知って、理解できた。理解し、慣れてきたから、見え方が違う。
「殺す……」
ぼそりと、何度口にしたかわからない彼女への殺意を確認した。この決意に変わりはない。ファルハードにあそこまでの屈辱を与えたシュルークを、絶対に殺す。
まさか憐れんで決意が揺らいだのではないかと思ったファルハードであったが、自らの殺意が揺らいでいないことに安堵した。
シュルークが人間に思えるようになっただけで、ファルハードは変わっていない。こんな些末なことで焦った自分に、ファルハードは呆れて天を仰いだ。広がるのは星空ではなく寒々しい地下牢の天井だが。
その拍子に、シュルークに腕が軽く当たった。
そういえば彼女に触れたのは――触れられたのを除いて――犬扱いされて最初の方に掴みかかった一度きりだ。
向き直って、頬や肩に触れてみた。間違いなく、血の通った人間だ。無邪気な子供のように思える振る舞いしかしないが、顔や体は同年代の女の姿をしている。
「ん……」
触った所為で、シュルークはかすかに唸って瞼を開けた。目に力が入っていないので、半分寝ているようだ。
「いい子……」
寝ぼけた様子でファルハードの首を撫で、そのまま頬に手を添えた。顔は嫌がると認識しているようで、あまり触らないのだが珍しい。
そう不思議に感じた次の瞬間、シュルークの顔が近づき、唇を重ねられていた。
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