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09.愛犬-5
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(まさか……!)
身構える前に、兵士がファルハードの肩を押さえつけた。かなり体重をかけられて、四つん這いからひれ伏すような格好になる。この無理な体勢からでは逃れられない。
ファルハードは泥にでも浸したかのような汚れたぼろぼろの服を一枚着せられている。それを、近寄ってきたシュルークが帯紐、肩袖などを切り開いていった。
せいぜい水をかけられて頭を洗われる程度と期待したかったが、シュルークはファルハードの全身を洗うつもりだ。
いくら他人に世話をされ慣れているファルハードとはいえ、女に裸体を晒す機会は限られる。夜伽は『自ら選んだ』女奴隷だけだし、入浴時は男の奴隷がつく。地面に這いつくばって見下ろされるような、明らかに立場が下の状態で裸にされるのは、屈辱以外の何物でもない。
そうこうしている間に、手桶で湯がばしゃばしゃとかけられた。悪臭のする汚水が体から流れ、傾斜のついた地面を流れていく。手慣れているとは言い難く、ファルハードを押さえる兵士も顔まで水浸しだ。
「お嬢様、奴隷を呼んできましょうか……」
「自分でできるわ。それに私が洗ってあげたいの」
兵士の提案を却下したシュルークは、石鹸を手に取り、ファルハードの頭を洗い始めた。汚れがひどくて泡立たず、何度も石鹸と手桶を持ち替えている。
どうにか頭を洗い終えると、今度は体へ移った。ファルハードを本物の犬だと思い込んでいるシュルークは、腕や背中などの問題ない場所だけでなく、当然のように股間まで素手で洗った。
「あら? あの子のおちんちん、こんなだったかしら……?」
「お嬢様……」
「殺してやる……。手足を切り落として……」
四つん這いの股の間にぶら下がるものを不思議そうに摘ままれて、ファルハードは殺意を口にしなくては正気を保てそうになかった。この女の元の飼い犬がどの程度の大きさだったのか定かではないが、畜生の逸物と比べられるなどひどい侮辱だ。
最後にまた湯をかけられて、どうにか屈辱の時間は終わった。
シュルークが手間取り時間をかけすぎて、湯は冷めてしまっている。それを何度も浴びせられ、加えて濡れた肌を冷たい風に晒され続けれ、ファルハードの体は冷え切っていた。
(まだか……)
思わず身震いしながら、ファルハードは早く地下へ戻りたいと思っていた。もちろん引きずり出された時からそれは思っていたのだが、体を洗われている途中から別の事情で戻りたかった。
水気と寒さで尿意を催していたのだ。
「寒いの?」
地面を見つめて耐えていたファルハードの頭上からシュルークの声がかかる。見上げたその表情と声音は、確認というより、疑問が強かった。毛皮に包まれた本物の犬なら、洗われてもまだ平気だったかもしれないが、ファルハードは人間である。
なんでもいいから地下へ早く戻ってくれと念じていたのに、シュルークは最も悟ってほしくないことに気づいてしまった。
「ああ! おしっこね」
ファルハードの殺意にはまったく気づかないくせに、なぜこの欲求には気づいてしまったのか。
だが問題は、シュルークがファルハードを犬だと思っていることである。だから彼女は、笑顔で言い放った。
「流れていくから、そこでして大丈夫よ」
「ふ……、ざけるな貴様!!」
ファルハードはついにシュルークへ飛びかかろうとした。
だが、その首輪を後ろから引かれ、伸ばした手がシュルークに届くことはなかった。あの兵士が警戒して紐を持っていたのだ。
「ぁがっ……!」
自分の飛びかかろうとした勢いがそのまま首にかかり、喉が絞まって潰れたような声が出た。
倒れ込んだその拍子に、腿に温かいものが広がっていく。寒いのに長い時間外へ置かれ過ぎた。そして今の刺激と衝撃が、限界近かった体への最後の一押しをしてしまったのだ。
今度は、声も出なかった。
「よくできました。少し失敗してしまったわね。でも大丈夫よ」
シュルークは手桶でファルハードの下半身に水をかけ、後始末をした。
帝国には古くから伝わる、人に長く苦痛を与える残虐な処刑方法がいくつもある。ファルハードはその中で最も惨い方法で彼女を殺すと固く誓った。
「お嬢様、こいつの服は……」
「いやだわ。お前は犬に服を着せるの? ずだ袋は取ろうとすると危ないだろうから着せたままにしていただけよ」
彼女の目には、ファルハードの着ていたあの薄汚れた服は、犬を閉じ込め運搬してきたずた袋の残骸に見えていたようだ。犬に服を着せるはずなどないから。
この日からファルハードは全裸で過ごすことが決まった。
身構える前に、兵士がファルハードの肩を押さえつけた。かなり体重をかけられて、四つん這いからひれ伏すような格好になる。この無理な体勢からでは逃れられない。
ファルハードは泥にでも浸したかのような汚れたぼろぼろの服を一枚着せられている。それを、近寄ってきたシュルークが帯紐、肩袖などを切り開いていった。
せいぜい水をかけられて頭を洗われる程度と期待したかったが、シュルークはファルハードの全身を洗うつもりだ。
いくら他人に世話をされ慣れているファルハードとはいえ、女に裸体を晒す機会は限られる。夜伽は『自ら選んだ』女奴隷だけだし、入浴時は男の奴隷がつく。地面に這いつくばって見下ろされるような、明らかに立場が下の状態で裸にされるのは、屈辱以外の何物でもない。
そうこうしている間に、手桶で湯がばしゃばしゃとかけられた。悪臭のする汚水が体から流れ、傾斜のついた地面を流れていく。手慣れているとは言い難く、ファルハードを押さえる兵士も顔まで水浸しだ。
「お嬢様、奴隷を呼んできましょうか……」
「自分でできるわ。それに私が洗ってあげたいの」
兵士の提案を却下したシュルークは、石鹸を手に取り、ファルハードの頭を洗い始めた。汚れがひどくて泡立たず、何度も石鹸と手桶を持ち替えている。
どうにか頭を洗い終えると、今度は体へ移った。ファルハードを本物の犬だと思い込んでいるシュルークは、腕や背中などの問題ない場所だけでなく、当然のように股間まで素手で洗った。
「あら? あの子のおちんちん、こんなだったかしら……?」
「お嬢様……」
「殺してやる……。手足を切り落として……」
四つん這いの股の間にぶら下がるものを不思議そうに摘ままれて、ファルハードは殺意を口にしなくては正気を保てそうになかった。この女の元の飼い犬がどの程度の大きさだったのか定かではないが、畜生の逸物と比べられるなどひどい侮辱だ。
最後にまた湯をかけられて、どうにか屈辱の時間は終わった。
シュルークが手間取り時間をかけすぎて、湯は冷めてしまっている。それを何度も浴びせられ、加えて濡れた肌を冷たい風に晒され続けれ、ファルハードの体は冷え切っていた。
(まだか……)
思わず身震いしながら、ファルハードは早く地下へ戻りたいと思っていた。もちろん引きずり出された時からそれは思っていたのだが、体を洗われている途中から別の事情で戻りたかった。
水気と寒さで尿意を催していたのだ。
「寒いの?」
地面を見つめて耐えていたファルハードの頭上からシュルークの声がかかる。見上げたその表情と声音は、確認というより、疑問が強かった。毛皮に包まれた本物の犬なら、洗われてもまだ平気だったかもしれないが、ファルハードは人間である。
なんでもいいから地下へ早く戻ってくれと念じていたのに、シュルークは最も悟ってほしくないことに気づいてしまった。
「ああ! おしっこね」
ファルハードの殺意にはまったく気づかないくせに、なぜこの欲求には気づいてしまったのか。
だが問題は、シュルークがファルハードを犬だと思っていることである。だから彼女は、笑顔で言い放った。
「流れていくから、そこでして大丈夫よ」
「ふ……、ざけるな貴様!!」
ファルハードはついにシュルークへ飛びかかろうとした。
だが、その首輪を後ろから引かれ、伸ばした手がシュルークに届くことはなかった。あの兵士が警戒して紐を持っていたのだ。
「ぁがっ……!」
自分の飛びかかろうとした勢いがそのまま首にかかり、喉が絞まって潰れたような声が出た。
倒れ込んだその拍子に、腿に温かいものが広がっていく。寒いのに長い時間外へ置かれ過ぎた。そして今の刺激と衝撃が、限界近かった体への最後の一押しをしてしまったのだ。
今度は、声も出なかった。
「よくできました。少し失敗してしまったわね。でも大丈夫よ」
シュルークは手桶でファルハードの下半身に水をかけ、後始末をした。
帝国には古くから伝わる、人に長く苦痛を与える残虐な処刑方法がいくつもある。ファルハードはその中で最も惨い方法で彼女を殺すと固く誓った。
「お嬢様、こいつの服は……」
「いやだわ。お前は犬に服を着せるの? ずだ袋は取ろうとすると危ないだろうから着せたままにしていただけよ」
彼女の目には、ファルハードの着ていたあの薄汚れた服は、犬を閉じ込め運搬してきたずた袋の残骸に見えていたようだ。犬に服を着せるはずなどないから。
この日からファルハードは全裸で過ごすことが決まった。
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