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解決編
70:皇后(2)
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「座って話すとしよう。メルセデスはまだ調子が出んだろうからな」
その勧めには従うことにした。シヒスムンドがメルセデスを隣へ座らせたので、ダビドは正面のソファに座る。
確かにシヒスムンドの言う通り、なぜかはわからないが目は覚めているのに思考は鈍く、体調も優れないように感じる。
答えはあっさりと明かされた。
「あの後、無理やり眠りを深くさせる薬を飲ませて、そのまま連れて戻ってきた」
メルセデスは開いた口がふさがらない。そのような都合のいい薬があるのだろうか。
「眠ったままだからな。十日も体を満足に動かさなければ、具合も悪くなるだろう。それ以外には害のない薬だ」
どうやら本当に、十日かけて連れて帰ってきただけらしい。
「なぜこのようなことをなさったのです。それに、私はここにい続けるわけには――」
「普通に連れて帰ろうとすれば、そうやっていつまでも抵抗するだろうから、強引にさらってきた」
メルセデスが責めても、シヒスムンドはどこ吹く風だ。
「俺も当初は、穏便に説き伏せる予定だった。だが……」
ずいと顔が寄せられ、メルセデスは面食らう。この顔は機嫌が悪い時のものだ。
「時々俺が思い出したときに来てくれと言い出す。そのような中途半端なことしかできん状況ならば、無責任に会いに行くものか」
徐々にシヒスムンドに追い詰められ、メルセデスは仰け反っていく。メルセデスからすればそれだけで十分という希望だったが、シヒスムンドからすれば、何の問題も解決していないのに体だけ求めにきた無責任な男ということになるらしく、気分を害している。
最終的に押し倒されるような格好になってから、ダビドが咳ばらいをした。
「俺の存在を忘れてはいないだろうな」
シヒスムンドはやれやれと仕方なさげにメルセデスの上からどいた。メルセデスは居心地悪く感じながら姿勢を正す。
「シグ。お前は恨み言が多いせいで、説明が進まない。俺から話そう」
彼には、一年前、シヒスムンドとの情事をどれぐらい鮮明かは不明だが、聞かれてしまっている。後から話せば、二人きりにしたのは単にゆっくり会話をさせてやろうという配慮だったらしく、お互いにとって不幸な事故だ。
「耳にしていると思うが、俺たちは最後の国、……君が住んでいた国を手中に収め、大陸統一を果たした。そしてその祝賀式典で、大々的に入れ替わりを公表した。背中の皇帝の証も衆目に晒したし、俺たちの波乱万丈で感動的な幼少期から現在までの話を、うまく市井に流しておいたおかげで誰も真偽に口ははさんでいない。むしろシグの目を見たことがない大半の市民は、将軍の武勇伝のおかげで好意的だ。貴族連中の大部分は、これまで毛嫌いしていた悪魔に仕えるのは御免でも、すぐに反抗できる準備はないから今のところ大人しい」
彼らは問題なく立場を元に戻すため、きちんと準備をしていたらしい。
「晴れてシグは皇帝に戻り、俺は将軍は無理だから、丁度席の空いた宰相にしてもらった。ひとまず反対はなかった」
前職の宰相であったマルティネス公爵は、シヒスムンドの暗殺未遂の罪で処刑され、すでにこの世にいない。
「ダビドには、内政を主体的に執り行ってきた実績があるからな」
「こうして俺たちは、大陸の民族間の争いをなくすという目的に対して、国を一つにするという手段を試すための、始点に立った。ようやくな」
何が正しい手段なのかわからない。だが、民族が国という単位でいがみ合っている現状を打破するには、和平では上手くいかなかった歴史がある。ならば、人を混ぜ合わせ、かつての他国への遺恨を忘れさせるために、未だ誰も試したことのない、国を一つにするという手段を試す。
それが、幼い時から他人の怨恨に巻き込まれて不遇を過ごした、シヒスムンドとダビドの悲願だった。大陸を統一しても、それが成し遂げられるのか保証はない。それでも、何かに心血を注がなければ、その理不尽へのやり場のない怒りと悲しみに気が狂いそうで、たった二人きりで生きていられなかった。
その勧めには従うことにした。シヒスムンドがメルセデスを隣へ座らせたので、ダビドは正面のソファに座る。
確かにシヒスムンドの言う通り、なぜかはわからないが目は覚めているのに思考は鈍く、体調も優れないように感じる。
答えはあっさりと明かされた。
「あの後、無理やり眠りを深くさせる薬を飲ませて、そのまま連れて戻ってきた」
メルセデスは開いた口がふさがらない。そのような都合のいい薬があるのだろうか。
「眠ったままだからな。十日も体を満足に動かさなければ、具合も悪くなるだろう。それ以外には害のない薬だ」
どうやら本当に、十日かけて連れて帰ってきただけらしい。
「なぜこのようなことをなさったのです。それに、私はここにい続けるわけには――」
「普通に連れて帰ろうとすれば、そうやっていつまでも抵抗するだろうから、強引にさらってきた」
メルセデスが責めても、シヒスムンドはどこ吹く風だ。
「俺も当初は、穏便に説き伏せる予定だった。だが……」
ずいと顔が寄せられ、メルセデスは面食らう。この顔は機嫌が悪い時のものだ。
「時々俺が思い出したときに来てくれと言い出す。そのような中途半端なことしかできん状況ならば、無責任に会いに行くものか」
徐々にシヒスムンドに追い詰められ、メルセデスは仰け反っていく。メルセデスからすればそれだけで十分という希望だったが、シヒスムンドからすれば、何の問題も解決していないのに体だけ求めにきた無責任な男ということになるらしく、気分を害している。
最終的に押し倒されるような格好になってから、ダビドが咳ばらいをした。
「俺の存在を忘れてはいないだろうな」
シヒスムンドはやれやれと仕方なさげにメルセデスの上からどいた。メルセデスは居心地悪く感じながら姿勢を正す。
「シグ。お前は恨み言が多いせいで、説明が進まない。俺から話そう」
彼には、一年前、シヒスムンドとの情事をどれぐらい鮮明かは不明だが、聞かれてしまっている。後から話せば、二人きりにしたのは単にゆっくり会話をさせてやろうという配慮だったらしく、お互いにとって不幸な事故だ。
「耳にしていると思うが、俺たちは最後の国、……君が住んでいた国を手中に収め、大陸統一を果たした。そしてその祝賀式典で、大々的に入れ替わりを公表した。背中の皇帝の証も衆目に晒したし、俺たちの波乱万丈で感動的な幼少期から現在までの話を、うまく市井に流しておいたおかげで誰も真偽に口ははさんでいない。むしろシグの目を見たことがない大半の市民は、将軍の武勇伝のおかげで好意的だ。貴族連中の大部分は、これまで毛嫌いしていた悪魔に仕えるのは御免でも、すぐに反抗できる準備はないから今のところ大人しい」
彼らは問題なく立場を元に戻すため、きちんと準備をしていたらしい。
「晴れてシグは皇帝に戻り、俺は将軍は無理だから、丁度席の空いた宰相にしてもらった。ひとまず反対はなかった」
前職の宰相であったマルティネス公爵は、シヒスムンドの暗殺未遂の罪で処刑され、すでにこの世にいない。
「ダビドには、内政を主体的に執り行ってきた実績があるからな」
「こうして俺たちは、大陸の民族間の争いをなくすという目的に対して、国を一つにするという手段を試すための、始点に立った。ようやくな」
何が正しい手段なのかわからない。だが、民族が国という単位でいがみ合っている現状を打破するには、和平では上手くいかなかった歴史がある。ならば、人を混ぜ合わせ、かつての他国への遺恨を忘れさせるために、未だ誰も試したことのない、国を一つにするという手段を試す。
それが、幼い時から他人の怨恨に巻き込まれて不遇を過ごした、シヒスムンドとダビドの悲願だった。大陸を統一しても、それが成し遂げられるのか保証はない。それでも、何かに心血を注がなければ、その理不尽へのやり場のない怒りと悲しみに気が狂いそうで、たった二人きりで生きていられなかった。
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