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解決編
65:正体(3)
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「では信じてくれ。俺が、誤解を受けお前の信頼を失うことに怯えるほど、お前を欲していると……」
シヒスムンドは一旦言葉を切った。
「いや、違うな……」
顔を上げると、シヒスムンドはどこかこれまでと違う目で、メルセデスを見つめていた。敵対の厳しい眼光でも、甘やかすような優しい目でもなく、対等な相手への真摯で尊敬のある眼差し。
「俺は、孤独に生きてきたお前では、俺の情など理解できないだろうとたかをくくっていた。だから、出征の前にお前に俺の思いを伝えなかった。伝えても意味がないと……。だが、情を理解していなかったのは俺の方だ。お前はとうに、俺へ心を渡そうとしてくれていた。お前が俺をかばったときに、ようやくわかった」
メルセデスはあの時、新天地という希望ではなく、シヒスムンドを選んだ。あの場で選んだというよりは、既に決まっていたから、そのように体が動いた。
「俺がお前を求めているのは、お前に同情したからではない。俺の目を見られるからでも、肉欲でもない。それらは全てここに至るまでの過程だ。仮に全て失われても、俺の思いは変わらん。俺は、お前を愛している」
その特別な言葉は、全身を痺れさせるようにメルセデスに染み渡った。
シヒスムンドが恐ろしい存在ではなくなった後も、祖国で彼の部下を殺したため、嫌われていると考えていた。しかしその後、嫌っていないと教えられ、ひどく安堵した覚えがある。自身が彼に恩を感じ、いかに報いるかが重要なのであって、好意が届かずとも構わないはずだった。
それなのにシヒスムンドはメルセデスへ、望むべくもなかった愛情を与えようとしてくれている。悲しくないのにまた泣きそうになる。
「最初は、私を救ってくださったあなたに恩返しをしたかった。私を助けてくださったのは、シュザンヌ様や侍女の皆さんも同じです。彼女たちには、困りごとがあれば力になりたいと思っています。ですが、困っていなくても、求められていなくても、それでも何かお役に立ちたいと、そう思うのは、あなただけです。私はどれが愛なのかわかりませんが、あなたへの好意は特別な好意です。だからきっと、私はあなたを愛しています」
断定ではないが、これが最上級の言葉だとわかったのだろう。シヒスムンドは満足げにメルセデスの頭をなでる。まるで子供にするような仕草だが心地よく、シヒスムンドの体に頭を預けた。
しばらくそうしていると、メルセデスは尻の下に何か硬いものが当たる感触に気づいた。先ほどまでは感じなかった。見上げれば、シヒスムンドは悩ましげな表情を浮かべている。
「メルセデス……。俺はかれこれ二か月半、禁欲生活を送っている」
つまり、後先考えずメルセデスを膝に乗せてしまったが、今になって体が飢えを主張し始めたということらしい。
「先ほど肉欲ではないと言った言葉の信憑性がなくなるな……」
そう言いつつも、手はメルセデスのドレスの紐をほどきにかかっていたので、慌てて制止する。
「だめです……!」
「なぜだ」
「人が、来るかもしれません」
シヒスムンドが、あの悪魔の笑い方を浮かべた。これは良からぬことを考えている。
「人払いはしてある」
「身仕舞も用意がありませんし……」
「丁度この部屋には怪我人がいるからな。そこに水も洗面器も布もある」
「まだお怪我も治っていません。先ほどお辛そうになさっていたではありませんか」
「なら、俺の傷に負担のかからない方法で、協力してくれるな?」
メルセデスは自分の返答の失敗を悟った。
シヒスムンドは一旦言葉を切った。
「いや、違うな……」
顔を上げると、シヒスムンドはどこかこれまでと違う目で、メルセデスを見つめていた。敵対の厳しい眼光でも、甘やかすような優しい目でもなく、対等な相手への真摯で尊敬のある眼差し。
「俺は、孤独に生きてきたお前では、俺の情など理解できないだろうとたかをくくっていた。だから、出征の前にお前に俺の思いを伝えなかった。伝えても意味がないと……。だが、情を理解していなかったのは俺の方だ。お前はとうに、俺へ心を渡そうとしてくれていた。お前が俺をかばったときに、ようやくわかった」
メルセデスはあの時、新天地という希望ではなく、シヒスムンドを選んだ。あの場で選んだというよりは、既に決まっていたから、そのように体が動いた。
「俺がお前を求めているのは、お前に同情したからではない。俺の目を見られるからでも、肉欲でもない。それらは全てここに至るまでの過程だ。仮に全て失われても、俺の思いは変わらん。俺は、お前を愛している」
その特別な言葉は、全身を痺れさせるようにメルセデスに染み渡った。
シヒスムンドが恐ろしい存在ではなくなった後も、祖国で彼の部下を殺したため、嫌われていると考えていた。しかしその後、嫌っていないと教えられ、ひどく安堵した覚えがある。自身が彼に恩を感じ、いかに報いるかが重要なのであって、好意が届かずとも構わないはずだった。
それなのにシヒスムンドはメルセデスへ、望むべくもなかった愛情を与えようとしてくれている。悲しくないのにまた泣きそうになる。
「最初は、私を救ってくださったあなたに恩返しをしたかった。私を助けてくださったのは、シュザンヌ様や侍女の皆さんも同じです。彼女たちには、困りごとがあれば力になりたいと思っています。ですが、困っていなくても、求められていなくても、それでも何かお役に立ちたいと、そう思うのは、あなただけです。私はどれが愛なのかわかりませんが、あなたへの好意は特別な好意です。だからきっと、私はあなたを愛しています」
断定ではないが、これが最上級の言葉だとわかったのだろう。シヒスムンドは満足げにメルセデスの頭をなでる。まるで子供にするような仕草だが心地よく、シヒスムンドの体に頭を預けた。
しばらくそうしていると、メルセデスは尻の下に何か硬いものが当たる感触に気づいた。先ほどまでは感じなかった。見上げれば、シヒスムンドは悩ましげな表情を浮かべている。
「メルセデス……。俺はかれこれ二か月半、禁欲生活を送っている」
つまり、後先考えずメルセデスを膝に乗せてしまったが、今になって体が飢えを主張し始めたということらしい。
「先ほど肉欲ではないと言った言葉の信憑性がなくなるな……」
そう言いつつも、手はメルセデスのドレスの紐をほどきにかかっていたので、慌てて制止する。
「だめです……!」
「なぜだ」
「人が、来るかもしれません」
シヒスムンドが、あの悪魔の笑い方を浮かべた。これは良からぬことを考えている。
「人払いはしてある」
「身仕舞も用意がありませんし……」
「丁度この部屋には怪我人がいるからな。そこに水も洗面器も布もある」
「まだお怪我も治っていません。先ほどお辛そうになさっていたではありませんか」
「なら、俺の傷に負担のかからない方法で、協力してくれるな?」
メルセデスは自分の返答の失敗を悟った。
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