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解決編

63:事件の真相(2)

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 シュザンヌが手引きした刺客たちは、現職の宰相である、ロレンサの父、マルティネス公爵に放たれた者だった。公爵は国家転覆を目論んで、将軍の暗殺を計画した。

 公爵は、帝国民や兵士たちが最も信奉しているのは将軍シヒスムンドであり、ダビドが政治面の助言も求めるほど彼を信頼していることを、見抜いていた。そのため、将軍こそが帝国の礎であり、彼を殺せば帝国の崩壊の足掛かりになると考える。そして、血縁者が全くいない皇帝を殺害しても、将軍がその跡を継ぎ、民衆もそれを望むと予想した。

 シヒスムンドの暗殺に後宮を選んだ理由は、過去の皇帝暗殺未遂の状況にあった。
 征服した国の残党に城下で襲い掛かられても、シヒスムンドは全くの無傷でいなして見せた。一方でダビドが暗殺されそうになったとき、近くにいたシヒスムンドが、自らの負傷もいとわずに守った。
 それは命を呈した忠義というより、ダビドと共にいるときに現れる暴漢は、自身が標的ではないという確信から来る、大胆な戦法だった。それはある意味、油断であった。

 シヒスムンドの暗殺に最も適した状況は、常に気を張っている平常時ではなく、皇帝を守ろうとする瞬間だと考えられたのだ。

 二人が揃っている状況ならいつでもよかったが、城内では他にも護衛が大勢おり、暗殺者を手引きすることが難しい。
 ただ一つ、護衛を大勢連れることができず、かつ軽い武装にならざるを得ない場所があった。それが後宮だった。




 宰相はすでに後宮へ娘を愛妾として送り込んでいたが、彼女に協力させるなど足の付く真似はしない。かといって侍女や女官に扮した協力者や刺客を送り込むにも、身元の不確かなものを後宮には入れられない。どうにか入れたとしても、いずれ露見する。宮仕えの直前に成り代わらせるにも、それを警戒しての親族等による複数の本人確認が存在するため難しい。

 そこで、娘のために実家から送り込んだ侍女を、自分の行動が何に繋がっているのかわからない範囲で動かし、刺客の直接の手引きは先帝の寵姫であったシュザンヌに協力させることにした。

 公爵は、彼女がどのような経緯で後宮にやってきたか知る数少ない人間でもあった。自身の正体を隠したうえで、過去の経緯に関係するシュザンヌの弱みを握って協力させる。
 後宮が厳戒態勢になる前、シュザンヌとの連絡は、定期的に行われる夜会で手紙をやり取りし、その場で燃やさせることで行っていた。

 さらに彼女が先帝から教えられた、唯一の秘密の通路の情報も得た。その通路は、城壁の外から後宮のシュザンヌの居室に繋がっているため、そこから刺客を送り込むことを計画する。
 一方通行の秘密の通路は、刺客を侵入させることしかできなかったが、将軍暗殺に後宮は大騒動になる。その混乱に乗じて壁越えで脱出させればいい。

 しかし、実際に刺客を後宮へ入れた際に問題が起きた。シュザンヌの侍女の一人にそれを目撃されたのだ。シュザンヌが止める間もなく、刺客は侍女をその場で殺害した。だが、死体は消せない。発覚は時間の問題だ。
 刺客たちは外へ出られないため屋根裏等の空間に潜伏するしかない。そこへ死体を運んでも、いずれ臭いが出て見つかる。その前に暗殺を済ませられるとは限らない。

 そこで、シュザンヌの提案した方法で隠すことになった。
 皇帝は、後宮を民族融和の象徴にしたいと強く考えており、なるべく侍女が殺害されたことは公表したがらないと目された。だが死体を後宮の女たちに見られれば、騒ぎが起き公表せざるをえない。さらに公表されれば大っぴらに捜査ができるようになってしまい、刺客が捕まるだけでなく、今後の暗殺の機会まで失われる可能性もある。ならば、失踪者を探すための兵士たちに発見させ、事件をもみ消させることが一番だ。

 シュザンヌのもくろみ通り、殺された侍女は表向き、本人が後宮内での仕事に嫌気がさし、しかし出られないため隠れ、最終的に兵士たちにより発見されて実家へ送り返されたことになった。
 シュザンヌは侍女が殺害されたことを、皇帝から知らされた。シュザンヌの侍女であったから、以前から帰りたがっていたと口裏を合わせてもらう必要があったためだ。

 予想通り皇帝は、後宮に厳戒態勢を敷いた。表ざたにはできないが、後宮内に暗殺者がいる。侍女や女官の新規採用をいったん止め、また、解雇や一時帰宅も理由をつけてさせなかった。夜会も皇太子時代の恩師である学者が死亡したことにかこつけ、喪に服すと称してしばらく中止し、後宮の女性たちと外部のかかわりを制限した。

 それでも衣食のための物資まで完全に止めるわけにはいかないので、出入りの商人を上手く経由させて、公爵はシュザンヌへ指示を送り続けた。

 メルセデスの想像通り、それはロレンサと詩人の秘密の文通を隠れ蓑にしていた。
 外からは、詩人より封のしていない手紙を商人に預からせ、商人は事前に託された暗号を忍ばせた封筒に便せんを移し替える。それをロレンサへ送った侍女の一人に届けさせる。侍女は中身を取り出した封筒だけを、指定した場所に置いて立ち去らせる。シュザンヌがそれを回収し、暗号を解読して必要に応じて刺客と連絡を取る。
 そして内側からは、シュザンヌが封筒に暗号を記し、指定の場所を経由してロレンサの侍女に渡す。侍女はロレンサから詩人への手紙をそこに入れて、商人へ託す。商人は封筒を別のものに取り替えて、手紙を詩人へ届けつつ、暗号入りの封筒は公爵の手の者に渡す。ロレンサと詩人の文通自体は事実のため、いい目くらましになった。
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