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解決編
63:事件の真相(1)
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事件からおよそ一月後、メルセデスの居室へ女官が呼び出しに来た。
「レディ・メルセデス。城内から召喚がございましたのでご準備を。事件に関しての聴取とのことです」
女官の知らせにメルセデスは素早く身支度をし、彼女について部屋を出る。
メルセデスが最後に見たシヒスムンドは、刺客の魔力を帯びた凶刃に傷を負い、非常に危険な状態にあった。あの事件以来、シヒスムンドと会うことはできておらず、彼が臥せっているという情報だけ流れてくるばかり。それが真実なのか、実は死んでしまっていて騒ぎを大きくしないための嘘ではないかと、不安な夜を過ごしてきた。
いつかまた、秘密の通路から顔を見せてくれないか。約束の時間になると通路の作動する音を、耳をすませて待っていた。
後宮の入口の大扉をくぐり、方向感覚を失いそうな似たような廊下を長い時間歩き続け、やがて一つの部屋の前へ行き着く。
聴取というからには事務用の部屋なのだろうが、その扉は両開きで装飾もあり、豪奢とまでいかずとも、比較的身分の高い人間に割り当てられる場所であることが窺えた。
女官が扉を叩き、中から返事が受けて入室する。
「失礼いたします。レディ・メルセデスをご案内いたしました」
部屋の中は執務室などではなく、ベッドなどのある普通の居室だった。後宮のメルセデスの居室よりも広くて家具も立派だ。
部屋には先客が二人。ベッドから上体を起こすシヒスムンドと、その傍らに立つ皇帝ダビドだ。
「ご苦労。下がっていろ」
女官は礼をしてから退室していったため、一人で残されてしまったが、それに気づかないほどメルセデスの意識はシヒスムンドに奪われている。
変わらない不敵な笑みと、鋭い金色の瞳。素肌に羽織ったシャツの下、腹部に白い包帯が巻かれている。
まだ横になっているということは、本調子ではないのだろう。それでも、傷を受けて蒼白になったあの時に比べれば、もう危険は去っているのだと分かった。
ベッドの前まで移動して、メルセデスは二人に礼を取った。
シヒスムンドが無事で本当によかった。事件以来メルセデスの胸の中でくすぶっていた不安が安堵へ変わる。喉の奥から熱がせり上がり、つんと鼻の奥が痺れる。涙はどうにか堪えたが、泣きそうになっているのが彼らに悟られたかもしれない。
「なかなか会わせてやれなくてすまなかったな。メルセデス」
目を薄布で隠している皇帝ダビドの口元が、優しく笑みを浮かべている。顔合わせの時と違い、砕けた口調だ。
「毒で治りが悪かったが、もう傷も塞がっている」
「……よく、御無事で」
心からの労りの言葉と、吐いた息が震えてしまった。
「シグが動けない間に、事件の始末は俺の方でつけさせてもらった。君には連絡できなかったが、顛末は少し噂で耳にしたかもしれないな」
「レディ・メルセデス。城内から召喚がございましたのでご準備を。事件に関しての聴取とのことです」
女官の知らせにメルセデスは素早く身支度をし、彼女について部屋を出る。
メルセデスが最後に見たシヒスムンドは、刺客の魔力を帯びた凶刃に傷を負い、非常に危険な状態にあった。あの事件以来、シヒスムンドと会うことはできておらず、彼が臥せっているという情報だけ流れてくるばかり。それが真実なのか、実は死んでしまっていて騒ぎを大きくしないための嘘ではないかと、不安な夜を過ごしてきた。
いつかまた、秘密の通路から顔を見せてくれないか。約束の時間になると通路の作動する音を、耳をすませて待っていた。
後宮の入口の大扉をくぐり、方向感覚を失いそうな似たような廊下を長い時間歩き続け、やがて一つの部屋の前へ行き着く。
聴取というからには事務用の部屋なのだろうが、その扉は両開きで装飾もあり、豪奢とまでいかずとも、比較的身分の高い人間に割り当てられる場所であることが窺えた。
女官が扉を叩き、中から返事が受けて入室する。
「失礼いたします。レディ・メルセデスをご案内いたしました」
部屋の中は執務室などではなく、ベッドなどのある普通の居室だった。後宮のメルセデスの居室よりも広くて家具も立派だ。
部屋には先客が二人。ベッドから上体を起こすシヒスムンドと、その傍らに立つ皇帝ダビドだ。
「ご苦労。下がっていろ」
女官は礼をしてから退室していったため、一人で残されてしまったが、それに気づかないほどメルセデスの意識はシヒスムンドに奪われている。
変わらない不敵な笑みと、鋭い金色の瞳。素肌に羽織ったシャツの下、腹部に白い包帯が巻かれている。
まだ横になっているということは、本調子ではないのだろう。それでも、傷を受けて蒼白になったあの時に比べれば、もう危険は去っているのだと分かった。
ベッドの前まで移動して、メルセデスは二人に礼を取った。
シヒスムンドが無事で本当によかった。事件以来メルセデスの胸の中でくすぶっていた不安が安堵へ変わる。喉の奥から熱がせり上がり、つんと鼻の奥が痺れる。涙はどうにか堪えたが、泣きそうになっているのが彼らに悟られたかもしれない。
「なかなか会わせてやれなくてすまなかったな。メルセデス」
目を薄布で隠している皇帝ダビドの口元が、優しく笑みを浮かべている。顔合わせの時と違い、砕けた口調だ。
「毒で治りが悪かったが、もう傷も塞がっている」
「……よく、御無事で」
心からの労りの言葉と、吐いた息が震えてしまった。
「シグが動けない間に、事件の始末は俺の方でつけさせてもらった。君には連絡できなかったが、顛末は少し噂で耳にしたかもしれないな」
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