150 / 180
解決編
60:封筒の行方(2)
しおりを挟む
刺客が侍女を殺害して、もうすぐ三か月。皇帝の来訪を、息を潜めて待ち構えている。
長丁場を覚悟して、食料など生命維持の準備は問題ないとする。それでも、情報は欲しいはずだ。どこに隠れているかは見当もつかないが、仮に後宮内の情報全てを知れたとしても、標的である皇帝は後宮の外にいる。外の情報、それも、皇帝が後宮を警戒しているか、事件が起きた後でも顔合わせに来るつもりはあるか、そういった情報がなくては、いつまで待てばいいのかわからない。
万全を期すなら、外の協力者とやり取りができたほうが良い。
だから当初、後宮へ品物を納める商人を介すという、非正規の手段を取るロレンサの手紙を警戒したのだ。彼女が事件に関与しているのではないかと。結局、シヒスムンドの調査により、ロレンサの手紙は懇意の詩人との文通で、怪しいものではいと判明した。
だが、シヒスムンドはその報告をメルセデスへもたらしたとき、詩人は手紙を検められる状態で商人へ渡していると話していた。つまり、封筒は開いているはずだ。
なのに、ロレンサの目の前で、侍女は閉じられた封筒を開けている。
商人から侍女の手に渡り、ロレンサへ届く間で、何かが起きている。
もしかすると、ロレンサも詩人も与り知らない封筒へ、誰かの手によって移し替えられているのではないだろうか。
決して裕福ではないという詩人が、あのような金縁の豪奢な封筒を用意するだろうか。
あの複雑な装飾に、例えば暗号などで情報が含まれているのではないだろうか。シヒスムンドが暗号の可能性を検証したのは、詩人の手元にあったロレンサの手紙と詩人の返事だけで、あの金の装飾の封筒は、その場にはなかったのではないか。
詩人の手紙を隠れ蓑に、商人か誰か外部の協力者が暗号の刻まれた封筒をまとわせ、後宮へ手紙を送り込む。そして内部の協力者であるロレンサの侍女が、中身をロレンサへ渡した上で何食わぬ顔で封筒を持ち去り、本来の宛先へ届ける。もしロレンサが封筒まで求めても、彼女の侍女なのだから、その場では従って後から回収すればいい。
偶然かもしれない。詩人は大枚をはたいて美しい封筒を用意し、示し合わせてロレンサと同じ封筒を使っているだけかもしれない。だが、侍女の動きがおかしいのは確かだ。
根拠は弱いが、侍女は外部と密かにやり取りをしている。
外部とやり取りをしている侍女の裏にいるのが、後宮にいる刺客であるかは不明だ。
皇帝がやってくる前日に、手紙が届いたのは偶然かもしれない。関連性がないかもしれない。
しかし侍女と外部の両方を使って、ロレンサと詩人を利用して、ここまで密かにやり取りされる情報が後宮にあるだろうか。
刺客と外部をつなぐやり取りだと考えた方がしっくりくる。
こんな方法を取らねばらならないのは、侍女が殺害されたことで、皇帝が喪中を言い訳にした厳戒態勢を取り、後宮の出入りを禁止したからだ。例えば夜会があれば、多くの人が行きかうこともあって、秘密の手紙や伝言ぐらい、最も監視を受ける立場の愛妾であっても、容易にやり取りできる。
そして侍女の殺害は、本来の目的ではなかったはずなのだから、後宮内の協力者がいながら外部から情報を得られないこの状況は、刺客も予期していなかったはずだ。
従って潜伏する刺客は、この封筒を受け取ることはできても、準備していなかったのだから返信することはできない。暗号を刻む前の新品のあの封筒を用意できるのは、後宮内で普通に物資を手にできる者。
あの金の縁取りの封筒を持つ女が、刺客と外部の橋渡し役、後宮内の協力者である。
普通に考えれば、あの封筒を持ち去っているロレンサの侍女が、そうなのだろう。
だがメルセデスは、あの侍女は、暗号を刻んだ封筒を商人とやり取りする部分しか担っていないのではないかと考えている。封筒から読み取った暗号を刺客へ伝え、刺客の言葉を新たな封筒へ刻む者は、別にいる。
なぜなら、あの封筒に既視感があったからだ。
(あの封筒は誰が持っていた……? いったい誰が……)
長丁場を覚悟して、食料など生命維持の準備は問題ないとする。それでも、情報は欲しいはずだ。どこに隠れているかは見当もつかないが、仮に後宮内の情報全てを知れたとしても、標的である皇帝は後宮の外にいる。外の情報、それも、皇帝が後宮を警戒しているか、事件が起きた後でも顔合わせに来るつもりはあるか、そういった情報がなくては、いつまで待てばいいのかわからない。
万全を期すなら、外の協力者とやり取りができたほうが良い。
だから当初、後宮へ品物を納める商人を介すという、非正規の手段を取るロレンサの手紙を警戒したのだ。彼女が事件に関与しているのではないかと。結局、シヒスムンドの調査により、ロレンサの手紙は懇意の詩人との文通で、怪しいものではいと判明した。
だが、シヒスムンドはその報告をメルセデスへもたらしたとき、詩人は手紙を検められる状態で商人へ渡していると話していた。つまり、封筒は開いているはずだ。
なのに、ロレンサの目の前で、侍女は閉じられた封筒を開けている。
商人から侍女の手に渡り、ロレンサへ届く間で、何かが起きている。
もしかすると、ロレンサも詩人も与り知らない封筒へ、誰かの手によって移し替えられているのではないだろうか。
決して裕福ではないという詩人が、あのような金縁の豪奢な封筒を用意するだろうか。
あの複雑な装飾に、例えば暗号などで情報が含まれているのではないだろうか。シヒスムンドが暗号の可能性を検証したのは、詩人の手元にあったロレンサの手紙と詩人の返事だけで、あの金の装飾の封筒は、その場にはなかったのではないか。
詩人の手紙を隠れ蓑に、商人か誰か外部の協力者が暗号の刻まれた封筒をまとわせ、後宮へ手紙を送り込む。そして内部の協力者であるロレンサの侍女が、中身をロレンサへ渡した上で何食わぬ顔で封筒を持ち去り、本来の宛先へ届ける。もしロレンサが封筒まで求めても、彼女の侍女なのだから、その場では従って後から回収すればいい。
偶然かもしれない。詩人は大枚をはたいて美しい封筒を用意し、示し合わせてロレンサと同じ封筒を使っているだけかもしれない。だが、侍女の動きがおかしいのは確かだ。
根拠は弱いが、侍女は外部と密かにやり取りをしている。
外部とやり取りをしている侍女の裏にいるのが、後宮にいる刺客であるかは不明だ。
皇帝がやってくる前日に、手紙が届いたのは偶然かもしれない。関連性がないかもしれない。
しかし侍女と外部の両方を使って、ロレンサと詩人を利用して、ここまで密かにやり取りされる情報が後宮にあるだろうか。
刺客と外部をつなぐやり取りだと考えた方がしっくりくる。
こんな方法を取らねばらならないのは、侍女が殺害されたことで、皇帝が喪中を言い訳にした厳戒態勢を取り、後宮の出入りを禁止したからだ。例えば夜会があれば、多くの人が行きかうこともあって、秘密の手紙や伝言ぐらい、最も監視を受ける立場の愛妾であっても、容易にやり取りできる。
そして侍女の殺害は、本来の目的ではなかったはずなのだから、後宮内の協力者がいながら外部から情報を得られないこの状況は、刺客も予期していなかったはずだ。
従って潜伏する刺客は、この封筒を受け取ることはできても、準備していなかったのだから返信することはできない。暗号を刻む前の新品のあの封筒を用意できるのは、後宮内で普通に物資を手にできる者。
あの金の縁取りの封筒を持つ女が、刺客と外部の橋渡し役、後宮内の協力者である。
普通に考えれば、あの封筒を持ち去っているロレンサの侍女が、そうなのだろう。
だがメルセデスは、あの侍女は、暗号を刻んだ封筒を商人とやり取りする部分しか担っていないのではないかと考えている。封筒から読み取った暗号を刺客へ伝え、刺客の言葉を新たな封筒へ刻む者は、別にいる。
なぜなら、あの封筒に既視感があったからだ。
(あの封筒は誰が持っていた……? いったい誰が……)
0
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【R-18】年下国王の異常な執愛~義母は義息子に啼かされる~【挿絵付】
臣桜
恋愛
『ガーランドの翠玉』、『妖精の紡いだ銀糸』……数々の美辞麗句が当てはまる17歳のリディアは、国王ブライアンに見初められ側室となった。しかし間もなくブライアンは崩御し、息子であるオーガストが成人して即位する事になった。17歳にして10歳の息子を持ったリディアは、戸惑いつつも宰相の力を借りオーガストを育てる。やがて11年後、21歳になり成人したオーガストは国王となるなり、28歳のリディアを妻に求めて……!?
※毎日更新予定です
※血の繋がりは一切ありませんが、義息子×義母という特殊な関係ですので地雷っぽい方はお気をつけください
※ムーンライトノベルズ様にも同時連載しています
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる