【R-18】【完結】魔女は将軍の手で人間になる

雲走もそそ

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人間編

55:不安な後宮(3)

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「大丈夫……。大丈夫よ。秘密を共有してくれたから、心がずいぶん軽くなったわ。ありがとうメルセデス」

 その言葉をきっかけに、シュザンヌはまたいつもの聖女の微笑に戻った。

「皆の不安も晴らしてあげなくてはね。後宮の中だけでも、少し華やかなことをしようかしら」
「そうですね。何かしていれば、気が紛れると思います」
「ではそうね……。わたくしたちだけでも戦勝祝いを準備しましょうか」

 マリエルヴィとの戦いの後の戦勝祝いは、城で盛大に夜会が開かれた。だが事件の犯人が見つかっていない以上、皇帝は名目としての喪中を続け、夜会など開催しないだろう。シュザンヌもそれを予想して、代わりに後宮の中だけの戦勝祝いを提案したのだ。

「名案と思います」
「ありがとう。日取りは次の愛妾を後宮へ迎えた次の日にしましょう。……そうだわ」

 最後にシュザンヌが何か思いついたようだ。

「次の陛下と愛妾の顔合わせには、将軍閣下もいらしてくださらないかしら」
「なぜですか?」
「普段は、顔合わせは新しい愛妾が後宮入りした翌日に行われて、いつもではないけれど、閣下も護衛としてよくお越しになるのよ。戦勝祝いには功労者である閣下がおられた方がいいでしょう? 参加はなさらないと思うから、回廊のある中庭園でお祝いをして、遠目に拝謁するだけになるでしょうけれど」
「それは……、良い考えですね」

 不謹慎ながら、それはメルセデスにとっても好ましいことだった。しばらくシヒスムンドとは会えなくなるし、帰国してすぐ訪ねてきてくれるとは限らない。先に遠目でも息災を確認したい。

 メルセデスは、前回の来訪から三日後である今夜、シヒスムンドが訪ねて来てくれたら、次の顔合わせで皇帝に随行してくれるよう頼んでみようと考えた。
 だがすぐに浮き立った気持ちが落ち込む。

 シヒスムンドは今夜来てくれないかもしれない。むしろ、その可能性の方が高いだろう。調査には進展がないし、前回の帰り際に、いつものように三日後の約束をしなかった。何より、彼による子供ができるかもしれない行為を拒絶したところ、酷く傷ついた様子だった。そのような顔をさせてしまい、思い出すたびに胸が痛む。

 しかし、あんなことをシヒスムンドにさせてはいけないのだから、拒絶せざるを得なかった。
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