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人間編
44:欲求の解消(3)
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座って向かい合っていた姿勢から、メルセデスをやわらかい絨毯に押し倒した。
「あっ」
羽織っていただけのシヒスムンドのかけた上着がはだけ、裸身が眼前に晒される。
上から下までじっくり眺めれば、さすがに恥ずかしさを感じたのか、メルセデスは赤面して身じろぎした。
さらに、緊張で先端を尖らせた乳房を掴んだ。掴むといっても、覆うように手を置いただけだ。シヒスムンドは自分の手が緊張で震えないよう気をつけなければならなかった。
体が勝手に動く。けれど、今ならまだ少しのきっかけで、理性が支配権をもぎ取って戻ることができる。メルセデスが拒絶してくれさえすれば、すぐにこの熱は消える。シヒスムンドは拒絶する相手を無理に触れない。
「何も感じないのか。脅され攫われてきて、祖国を蹂躙した男に穢されようとしているのに」
「あの時は恐ろしかったです。でも、何度も申し上げたではありませんか。私はそれでも救われました。あなたに感謝しているのです」
「だからこうされても、我慢できると?」
「我慢……。人に見せることなど、ほとんどありませんので、肌を晒すのは恥ずかしいです……。それから、どうすればいいのか、わからないから少し、怖いです。けれど、閣下が望まれるなら、嫌ではありません。お慕いしている方に触れられるのは、帝国では穢れになるのですか?」
一瞬、心臓が止まったかと思い、シヒスムンドは息を詰めた。
濡れた瞳が、シヒスムンドを見上げている。
熱に浮かされたような目は、これまでの人生で一度も見たことがない。まだ魔力を発現する前の、幼い頃でさえも受けたことのない視線。
慕っていると、好意を伝えてくるその目。
見られているだけで、心臓を掴まれたように苦しくなる。
「それは……、お前の感じ方次第だ。俺は、お前のことは嫌ってはいない。だがそれだけだ。お前の好意と、同じものは俺にない」
「はい」
「お前の好意と献身を利用して、自分の欲求の解消のために、『使おうと』している。お前は、この卑劣を思い出して、いずれ後悔する日が来るかもしれない」
「それを卑劣というのなら、それをあなたに促す私も卑劣でしょうか」
手のひらから、メルセデスの早い鼓動を感じる。
脅しても、メルセデスはシヒスムンドを受け入れることを選んでいる。勢いではなく、そうすると理性的に自らの意思で決めている。シヒスムンドへの好意は、おそらく無くても意思決定に関係はなかったのだろう。
シヒスムンドは、メルセデスから手を離し、体を起こした。
「閣下……?」
メルセデスを裸のまま抱きかかえ、ベッドへ運ぶ。
「もう戻れんぞ」
上衣をシャツ以外脱ぎ捨てたシヒスムンドは、ベッドへ乗り上げ、横たわるメルセデスをついた両腕の下へ閉じ込めた。
「あっ」
羽織っていただけのシヒスムンドのかけた上着がはだけ、裸身が眼前に晒される。
上から下までじっくり眺めれば、さすがに恥ずかしさを感じたのか、メルセデスは赤面して身じろぎした。
さらに、緊張で先端を尖らせた乳房を掴んだ。掴むといっても、覆うように手を置いただけだ。シヒスムンドは自分の手が緊張で震えないよう気をつけなければならなかった。
体が勝手に動く。けれど、今ならまだ少しのきっかけで、理性が支配権をもぎ取って戻ることができる。メルセデスが拒絶してくれさえすれば、すぐにこの熱は消える。シヒスムンドは拒絶する相手を無理に触れない。
「何も感じないのか。脅され攫われてきて、祖国を蹂躙した男に穢されようとしているのに」
「あの時は恐ろしかったです。でも、何度も申し上げたではありませんか。私はそれでも救われました。あなたに感謝しているのです」
「だからこうされても、我慢できると?」
「我慢……。人に見せることなど、ほとんどありませんので、肌を晒すのは恥ずかしいです……。それから、どうすればいいのか、わからないから少し、怖いです。けれど、閣下が望まれるなら、嫌ではありません。お慕いしている方に触れられるのは、帝国では穢れになるのですか?」
一瞬、心臓が止まったかと思い、シヒスムンドは息を詰めた。
濡れた瞳が、シヒスムンドを見上げている。
熱に浮かされたような目は、これまでの人生で一度も見たことがない。まだ魔力を発現する前の、幼い頃でさえも受けたことのない視線。
慕っていると、好意を伝えてくるその目。
見られているだけで、心臓を掴まれたように苦しくなる。
「それは……、お前の感じ方次第だ。俺は、お前のことは嫌ってはいない。だがそれだけだ。お前の好意と、同じものは俺にない」
「はい」
「お前の好意と献身を利用して、自分の欲求の解消のために、『使おうと』している。お前は、この卑劣を思い出して、いずれ後悔する日が来るかもしれない」
「それを卑劣というのなら、それをあなたに促す私も卑劣でしょうか」
手のひらから、メルセデスの早い鼓動を感じる。
脅しても、メルセデスはシヒスムンドを受け入れることを選んでいる。勢いではなく、そうすると理性的に自らの意思で決めている。シヒスムンドへの好意は、おそらく無くても意思決定に関係はなかったのだろう。
シヒスムンドは、メルセデスから手を離し、体を起こした。
「閣下……?」
メルセデスを裸のまま抱きかかえ、ベッドへ運ぶ。
「もう戻れんぞ」
上衣をシャツ以外脱ぎ捨てたシヒスムンドは、ベッドへ乗り上げ、横たわるメルセデスをついた両腕の下へ閉じ込めた。
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