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人間編

44:欲求の解消(1)

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 シヒスムンドは悩んだ末、観念して深いため息をついた。

(問題ない。話したところで、俺が感情を制御しなくてはならない状況に変わりはない……)

「俺が服を脱げと言ったのは、お前に……。俺はお前に、触れたいと思っているが……、これは自制すべきものだ。そこへ何でもするとまで言われ、つい、あのような言葉が……」
「私を嫌っておられるから、罰を与えるために触れたいのですか?」

 もはや、婉曲した表現も許されない。シヒスムンドは自分の髪を片手でぐしゃりと掴んだ。

「違う。俺はお前に欲情している。自分の性的欲求を満たしたいがために、触れたいと思うのだ。少なくとも俺の方には、罰のつもりはない。口づけたのもそうだ。からかったというのは嘘だ。あれは俺が欲のために、したくてしたことだ。お前を嫌ってなどいない」

 半ばやけになりながら自白すれば、メルセデスはぽかんと呆けていた。

 自業自得だが、欲望を暴露させられたことに、かなりの羞恥を覚えた。次に来るのは嫌悪感だろうか。性的な目で見られているとわかれば、シヒスムンドと二人でこの部屋にいるのもおぞましいはずだ。 

「わかったなら、もう俺に――」

 視線を外して、調査のこと以外で構うなと釘を刺そうとしたが、メルセデスのつぶやきに言葉を失う。

「嫌われていなかったのですね、私……」

 メルセデスにとって最も重要な情報は、それだったらしい。ようやく安心したように、緩やかな息をついた。

 刺客について理論的に整理して、新たな可能性を示唆してみせた。本人に自覚はないが十分賢いとシヒスムンドは思っている。
 そのメルセデスなら、シヒスムンドに何か貢献をすることも、敵意を持った行動に恩を感じることも、必要などないという言葉を理解できるはずだ。だが彼女が理解してもこだわるのは、そこに感情が、メルセデスの望みが含まれているからだ。義務ではないそれは、彼女の言ったように義理なのだろうか。

 おそらくメルセデスは、彼女を人間にしたというシヒスムンドを、まるで親のように感じているのだろう。早くに親を亡くし、周りは全員魔女に対し害意のある敵しかおらず、悲しみと恐怖に傷つかないように心を眠らせるしかなかった。幼い頃に止まった時間が、今ようやく動き出している。彼女はまだ、生まれなおしたばかりの子供なのだ。
 子供が親に嫌われていないか、気にするのは当然のことだ。

(親と思われているなら、そう振舞うべきか……)

 シヒスムンドのほうは、その白い肌を眩しく感じているが、先ほどシヒスムンドがメルセデスをどう見ているか聞き逃したか理解できなかったというのなら、親子ごっこに付き合ってやったほうが今後の調査のためにもいいはずだ。警戒されては調査の話をするためであっても会いづらくなってしまう。

「そろそろ服を着ろ。結んでやるから」

 肩の結び目は、手枷のため自分では上手く結べないはずだ。親切心でそう声をかけた。
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