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人間編

43:罰(2)

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「本当に脱ぐ奴が――」

 止めようと振り向いた時には、メルセデスは一糸まとわぬ姿になっていた。
 俯き、震えている。ランプの明かりしかない薄暗い室内でよくは見えないが、手枷の鎖が絶えず音を立てているので、体が震えていることは見ずともわかる。

「いつか、私に罰をお与えになると思っていました……」

 メルセデスの覚悟を軽んじていた。本当に裸になる可能性は十分にあったはずなのだ。

 着てきた外套は汚れているため、シヒスムンドは自らの上着を脱ぎながらメルセデスのほうへ戻った。そしてそれを彼女の肩にかけてやる。

 もういい。俺が悪かった。
 そう言いかけて、異様なものに気づき目を止めた。

 メルセデスの両方の腿の前側に、蚯蚓腫れのように肉の盛り上がった傷が無数に横切っていた。まるで何度も切り付けられたような傷痕で、偶然つくようなものではない。おそらく数か月かけてここまで治ってきた傷で、元は相当深かったはずだ。

「なんだ、それは……」

 魔力で身体能力を強化すれば、このような傷も受けることはなく、受けたとしても治癒を早められる。
 十年間戦場に立ち続けてきたシヒスムンドからすれば、致命傷ではないため決して重い傷ではない。だが、ただの下働きとして暮らしてきたはずのメルセデスには、付けられるはずのない深い傷痕だ。

 かけられた上着に戸惑うような仕草を見せたメルセデスは、顔を上げた。

「鞭を使わないのですか……?」

 怯えた目とその言葉で、傷痕の謎が解けた。
 この切り傷のような痕は、鞭の裂傷だ。

「そんなことをするわけがない……! このような惨いことを……」
「そう、ですか……」

 安堵で力が抜けたのか、崩れ落ちそうになるメルセデスの肩を、掛けた服の上から支える。抱えてソファまで運ぶには、肌に直接触れなければならないので、そのままシヒスムンドと一緒に床へ座らせた。

「誰にやられた」

 何となく予想はついていたが、聞かずにはいられなかった。

 メルセデスは数か月前に自分に起きたことを語りだした。
 宣戦布告を受けた王国で、帝国から送り込まれた間諜を見つけてしまったとき。間諜に口封じに殺されかかるが、魔力を使って返り討ちにした。しかしそれを王太子の側近に見られ、王太子の元へ引き立てられる。

 そこで、言うことを聞かなければ魔女として公開処刑にすると脅されたことは、シヒスムンドもすでに聞いている。
 だが、どのようにして脅されたかまでは、メルセデスは話していなかった。
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