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人間編
39:好意の種類(3)
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「そう……。望まず連れて来られたけれど、あなたにとっては救いなのね……」
珍しく、思わず、といった風につぶやいたシュザンヌはどこか遠い目をしていた。
だがそれは一瞬のことで、すぐにいつもの微笑が戻る。
「きっと耳にしているでしょう? 当代の敗戦国出身の愛妾たちは、様々な条件と引きかえに望んで後宮へ入ったけれど、帝国貴族出身の愛妾たちは、家の都合で、自分では望んでいなかった娘が多いわ。だから、メルセデスは特異ね」
敗戦国出身だが望んでは来ておらず、一方で今ではこれでよかったと思っている。
「それより、閣下のことはいつからお好きなの?」
少女のように目をきらめかせるシュザンヌに、メルセデスはイルダのお茶会の愛妾たちを彷彿とさせた。
「いつからでしょう……。よく、わかりません。でも、怖くなくなったのは、シュザンヌ様とアルビナ様に、帝国に魔女はいないと教わった頃でしょうか」
その頃に、自身はシヒスムンドに、結果的に救われたのだと気づくことができた。
「好きになると、どうなるのでしょうか?」
「あら、そうね。ふとした時、例えば休むときや楽しいとき、気持ちが穏やかな時に、その人のことを考えるわ」
それはメルセデスにとってわかりやすい答えだった。
「でしたら、私は閣下のことも、やっぱり好きなのですね……。後宮へ来てから、皆のことをよく考えます」
「皆?」
「閣下と、シュザンヌ様と、私のお世話をしてくださっている侍女の皆さんと、母のことです」
胸に温かさを感じながら、率直にそう伝えると、なぜかシュザンヌは残念そうに眉尻を下げた。
「まだメルセデスには区別が難しいのかしら」
「なんのことですか?」
「うふふ。いつかお分かりになるわ。それより閣下とやり取りするのなら、お手紙かしら?」
シュザンヌは煙に巻きながら立ち上がり、文机の方へメルセデスを呼び寄せる。
「わたくしの数少ない趣味なのだけれど、封筒と便せんを集めるのが好きなの」
机の上には、交友関係の広いシュザンヌに宛てられた膨大な量の手紙の山と、それに返事を書くための便せんと封筒がずらりと並ぶ。
「いくつかお持ちになって。どれか気になるものはあるかしら?」
「あ、ありがとうございます」
黒、白、赤、青と色は勿論のこと、金糸銀糸を用いた豪奢な縁取りや、一見無地に見えて紙に特殊な押し加工をしており角度を変えれば図柄が現れる細工など、見覚えがあるものから珍しいものまで種類が豊富だ。
シュザンヌは手に取って色々と見せてくれるが、メルセデスにはどれがいいのかわからない。
正直に弱音を吐くとシュザンヌは、メルセデスの瞳と同じ青灰色の封筒と便せんを選んで渡してくれた。
実は三日おきに直接会っているため手紙は必要ないなどと、口が裂けても言えないので、後ろめたさを感じつつ大人しく貰って帰った。
珍しく、思わず、といった風につぶやいたシュザンヌはどこか遠い目をしていた。
だがそれは一瞬のことで、すぐにいつもの微笑が戻る。
「きっと耳にしているでしょう? 当代の敗戦国出身の愛妾たちは、様々な条件と引きかえに望んで後宮へ入ったけれど、帝国貴族出身の愛妾たちは、家の都合で、自分では望んでいなかった娘が多いわ。だから、メルセデスは特異ね」
敗戦国出身だが望んでは来ておらず、一方で今ではこれでよかったと思っている。
「それより、閣下のことはいつからお好きなの?」
少女のように目をきらめかせるシュザンヌに、メルセデスはイルダのお茶会の愛妾たちを彷彿とさせた。
「いつからでしょう……。よく、わかりません。でも、怖くなくなったのは、シュザンヌ様とアルビナ様に、帝国に魔女はいないと教わった頃でしょうか」
その頃に、自身はシヒスムンドに、結果的に救われたのだと気づくことができた。
「好きになると、どうなるのでしょうか?」
「あら、そうね。ふとした時、例えば休むときや楽しいとき、気持ちが穏やかな時に、その人のことを考えるわ」
それはメルセデスにとってわかりやすい答えだった。
「でしたら、私は閣下のことも、やっぱり好きなのですね……。後宮へ来てから、皆のことをよく考えます」
「皆?」
「閣下と、シュザンヌ様と、私のお世話をしてくださっている侍女の皆さんと、母のことです」
胸に温かさを感じながら、率直にそう伝えると、なぜかシュザンヌは残念そうに眉尻を下げた。
「まだメルセデスには区別が難しいのかしら」
「なんのことですか?」
「うふふ。いつかお分かりになるわ。それより閣下とやり取りするのなら、お手紙かしら?」
シュザンヌは煙に巻きながら立ち上がり、文机の方へメルセデスを呼び寄せる。
「わたくしの数少ない趣味なのだけれど、封筒と便せんを集めるのが好きなの」
机の上には、交友関係の広いシュザンヌに宛てられた膨大な量の手紙の山と、それに返事を書くための便せんと封筒がずらりと並ぶ。
「いくつかお持ちになって。どれか気になるものはあるかしら?」
「あ、ありがとうございます」
黒、白、赤、青と色は勿論のこと、金糸銀糸を用いた豪奢な縁取りや、一見無地に見えて紙に特殊な押し加工をしており角度を変えれば図柄が現れる細工など、見覚えがあるものから珍しいものまで種類が豊富だ。
シュザンヌは手に取って色々と見せてくれるが、メルセデスにはどれがいいのかわからない。
正直に弱音を吐くとシュザンヌは、メルセデスの瞳と同じ青灰色の封筒と便せんを選んで渡してくれた。
実は三日おきに直接会っているため手紙は必要ないなどと、口が裂けても言えないので、後ろめたさを感じつつ大人しく貰って帰った。
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