【R-18】【完結】魔女は将軍の手で人間になる

雲走もそそ

文字の大きさ
上 下
91 / 180
人間編

39:好意の種類(2)

しおりを挟む
「ありがとうございます。シュザンヌ様。上手くいくかわかりませんが、やってみます」
「ええ。応援しているわ」

 優しげに微笑むシュザンヌから与えられた初仕事に、メルセデスは少し誇らしい気持ちになった。
 まず部屋へ戻って、侍女たちに書き物をする道具がないか相談して、と、これからの流れを想像する。

「書き上げたら、どなたに見ていただけばよろしいでしょうか」

 役に立つ情報かもわからないメルセデスの手記を、根気よく読み込んでくれる暇な人間などいるのだろうか。そもそもメルセデスがものを頼めるほど交友のある人間は限られている。

「そうね……」

 シュザンヌは考え込んでしまった。

「わたくしは魔力がないから、読み手として力不足だわ。アルビナ様……は、お願いするのは心苦しいわね」

 名前を口にしてしまってからシュザンヌは遠回しに避けたが、アルビナはメルセデスを理解してくれたとはいえ、彼女にとって仇であることに変わりはない。メルセデスの手記など読みたくないだろうし、メルセデス自身も読ませるのは心苦しく思う。

 誰かいい人がいないか、シヒスムンドが次に訪ねてきたときに聞いてみようかと考えていると、シュザンヌが新たな候補を思いついた。

「将軍閣下にお願いしてはどうかしら?」
「え?」

 思わぬ名前に、メルセデスは素っ頓狂な声を上げてしまった。心を読まれているのかと驚いたのだ。シュザンヌについては心が読めると思うほど聡いので、あながち間違ってもいないのかもしれないが。

「城の魔術師たちは軍属になっているの。閣下にお願いすれば適切な者を紹介してくださるわ」
「ああ、なるほど。そういうことですね……」
「……」

 落ち着こうとお茶を一口飲んで、またシュザンヌへ目を向ければ、潤むように輝く美しい緑の瞳が、メルセデスをじっと見つめていた。

「シュザンヌ様?」
「メルセデスは将軍閣下のことがお好きなのかしら?」
「えっ」

 動揺のあまりカップの中のお茶が波立ち、こぼさないように慌ててテーブルへ戻す。

「すっ、好き……ですか……?」

 なぜか、メルセデスは恥ずかしいと感じていた。自分にしか価値がわからないはずの秘密の宝物を、大事にしまい込んでいたのに他人に見られてしまったような。そんな状況に遭遇したことはないのに、そんな気分だった。

 シュザンヌは微笑んでいるが、そこにからかいや好奇の色はなく、ただただ、温かく柔らかな眼差しでメルセデスを見ている。

「先遣隊を――、閣下の部下を殺めた私が、好意を持つなんて、そんなこと……」

 シヒスムンドには、メルセデスに悪意がなかったことは理解してもらえた。だが、彼の大事な部下を殺したため、憎まれているはずだ。今は事件の調査のこともあり理性的に抑えてくれているのだろうが、それまでの一連の敵意に満ちた態度からして、嫌われているのは明らかだ。
 そんなメルセデスが好意を持っていると分かれば、不快に思うだろう。

「ただ、感謝、しているのです」
「火事の時、助けてくださったものね」

 メルセデスはかぶりを振った。

「それだけではありません。愛妾として選び、ここへ連れてきてくださったこともです」

 謁見の間で、メルセデスを愛妾に選んでくれたから、魔女としての処刑を免れた。そして、帝国へ連れ出してくれたから、メルセデスは人間になれた。

「そう……。望まず連れて来られたけれど、あなたにとっては救いなのね……」

 珍しく、思わず、といった風につぶやいたシュザンヌはどこか遠い目をしていた。
しおりを挟む
script?guid=on
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

一途なエリート騎士の指先はご多忙。もはや暴走は時間の問題か?

はなまる
恋愛
 シエルは20歳。父ルドルフはセルベーラ国の国王の弟だ。17歳の時に婚約するが誤解を受けて婚約破棄された。以来結婚になど目もくれず父の仕事を手伝って来た。 ところが2か月前国王が急死してしまう。国王の息子はまだ12歳でシエルの父が急きょ国王の代理をすることになる。ここ数年天候不順が続いてセルベーラ国の食糧事情は危うかった。 そこで隣国のオーランド国から作物を輸入する取り決めをする。だが、オーランド国の皇帝は無類の女好きで王族の女性を一人側妃に迎えたいと申し出た。 国王にも王女は3人ほどいたのだが、こちらもまだ一番上が14歳。とても側妃になど行かせられないとシエルに白羽の矢が立った。シエルは国のためならと思い腰を上げる。 そこに護衛兵として同行を申し出た騎士団に所属するボルク。彼は小さいころからの知り合いで仲のいい友達でもあった。互いに気心が知れた中でシエルは彼の事を好いていた。 彼には面白い癖があってイライラしたり怒ると親指と人差し指を擦り合わせる。うれしいと親指と中指を擦り合わせ、照れたり、言いにくい事があるときは親指と薬指を擦り合わせるのだ。だからボルクが怒っているとすぐにわかる。 そんな彼がシエルに同行したいと申し出た時彼は怒っていた。それはこんな話に怒っていたのだった。そして同行できる事になると喜んだ。シエルの心は一瞬にしてざわめく。 隣国の例え側妃といえども皇帝の妻となる身の自分がこんな気持ちになってはいけないと自分を叱咤するが道中色々なことが起こるうちにふたりは仲は急接近していく…  この話は全てフィクションです。

処理中です...