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人間編
39:好意の種類(2)
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「ありがとうございます。シュザンヌ様。上手くいくかわかりませんが、やってみます」
「ええ。応援しているわ」
優しげに微笑むシュザンヌから与えられた初仕事に、メルセデスは少し誇らしい気持ちになった。
まず部屋へ戻って、侍女たちに書き物をする道具がないか相談して、と、これからの流れを想像する。
「書き上げたら、どなたに見ていただけばよろしいでしょうか」
役に立つ情報かもわからないメルセデスの手記を、根気よく読み込んでくれる暇な人間などいるのだろうか。そもそもメルセデスがものを頼めるほど交友のある人間は限られている。
「そうね……」
シュザンヌは考え込んでしまった。
「わたくしは魔力がないから、読み手として力不足だわ。アルビナ様……は、お願いするのは心苦しいわね」
名前を口にしてしまってからシュザンヌは遠回しに避けたが、アルビナはメルセデスを理解してくれたとはいえ、彼女にとって仇であることに変わりはない。メルセデスの手記など読みたくないだろうし、メルセデス自身も読ませるのは心苦しく思う。
誰かいい人がいないか、シヒスムンドが次に訪ねてきたときに聞いてみようかと考えていると、シュザンヌが新たな候補を思いついた。
「将軍閣下にお願いしてはどうかしら?」
「え?」
思わぬ名前に、メルセデスは素っ頓狂な声を上げてしまった。心を読まれているのかと驚いたのだ。シュザンヌについては心が読めると思うほど聡いので、あながち間違ってもいないのかもしれないが。
「城の魔術師たちは軍属になっているの。閣下にお願いすれば適切な者を紹介してくださるわ」
「ああ、なるほど。そういうことですね……」
「……」
落ち着こうとお茶を一口飲んで、またシュザンヌへ目を向ければ、潤むように輝く美しい緑の瞳が、メルセデスをじっと見つめていた。
「シュザンヌ様?」
「メルセデスは将軍閣下のことがお好きなのかしら?」
「えっ」
動揺のあまりカップの中のお茶が波立ち、こぼさないように慌ててテーブルへ戻す。
「すっ、好き……ですか……?」
なぜか、メルセデスは恥ずかしいと感じていた。自分にしか価値がわからないはずの秘密の宝物を、大事にしまい込んでいたのに他人に見られてしまったような。そんな状況に遭遇したことはないのに、そんな気分だった。
シュザンヌは微笑んでいるが、そこにからかいや好奇の色はなく、ただただ、温かく柔らかな眼差しでメルセデスを見ている。
「先遣隊を――、閣下の部下を殺めた私が、好意を持つなんて、そんなこと……」
シヒスムンドには、メルセデスに悪意がなかったことは理解してもらえた。だが、彼の大事な部下を殺したため、憎まれているはずだ。今は事件の調査のこともあり理性的に抑えてくれているのだろうが、それまでの一連の敵意に満ちた態度からして、嫌われているのは明らかだ。
そんなメルセデスが好意を持っていると分かれば、不快に思うだろう。
「ただ、感謝、しているのです」
「火事の時、助けてくださったものね」
メルセデスはかぶりを振った。
「それだけではありません。愛妾として選び、ここへ連れてきてくださったこともです」
謁見の間で、メルセデスを愛妾に選んでくれたから、魔女としての処刑を免れた。そして、帝国へ連れ出してくれたから、メルセデスは人間になれた。
「そう……。望まず連れて来られたけれど、あなたにとっては救いなのね……」
珍しく、思わず、といった風につぶやいたシュザンヌはどこか遠い目をしていた。
「ええ。応援しているわ」
優しげに微笑むシュザンヌから与えられた初仕事に、メルセデスは少し誇らしい気持ちになった。
まず部屋へ戻って、侍女たちに書き物をする道具がないか相談して、と、これからの流れを想像する。
「書き上げたら、どなたに見ていただけばよろしいでしょうか」
役に立つ情報かもわからないメルセデスの手記を、根気よく読み込んでくれる暇な人間などいるのだろうか。そもそもメルセデスがものを頼めるほど交友のある人間は限られている。
「そうね……」
シュザンヌは考え込んでしまった。
「わたくしは魔力がないから、読み手として力不足だわ。アルビナ様……は、お願いするのは心苦しいわね」
名前を口にしてしまってからシュザンヌは遠回しに避けたが、アルビナはメルセデスを理解してくれたとはいえ、彼女にとって仇であることに変わりはない。メルセデスの手記など読みたくないだろうし、メルセデス自身も読ませるのは心苦しく思う。
誰かいい人がいないか、シヒスムンドが次に訪ねてきたときに聞いてみようかと考えていると、シュザンヌが新たな候補を思いついた。
「将軍閣下にお願いしてはどうかしら?」
「え?」
思わぬ名前に、メルセデスは素っ頓狂な声を上げてしまった。心を読まれているのかと驚いたのだ。シュザンヌについては心が読めると思うほど聡いので、あながち間違ってもいないのかもしれないが。
「城の魔術師たちは軍属になっているの。閣下にお願いすれば適切な者を紹介してくださるわ」
「ああ、なるほど。そういうことですね……」
「……」
落ち着こうとお茶を一口飲んで、またシュザンヌへ目を向ければ、潤むように輝く美しい緑の瞳が、メルセデスをじっと見つめていた。
「シュザンヌ様?」
「メルセデスは将軍閣下のことがお好きなのかしら?」
「えっ」
動揺のあまりカップの中のお茶が波立ち、こぼさないように慌ててテーブルへ戻す。
「すっ、好き……ですか……?」
なぜか、メルセデスは恥ずかしいと感じていた。自分にしか価値がわからないはずの秘密の宝物を、大事にしまい込んでいたのに他人に見られてしまったような。そんな状況に遭遇したことはないのに、そんな気分だった。
シュザンヌは微笑んでいるが、そこにからかいや好奇の色はなく、ただただ、温かく柔らかな眼差しでメルセデスを見ている。
「先遣隊を――、閣下の部下を殺めた私が、好意を持つなんて、そんなこと……」
シヒスムンドには、メルセデスに悪意がなかったことは理解してもらえた。だが、彼の大事な部下を殺したため、憎まれているはずだ。今は事件の調査のこともあり理性的に抑えてくれているのだろうが、それまでの一連の敵意に満ちた態度からして、嫌われているのは明らかだ。
そんなメルセデスが好意を持っていると分かれば、不快に思うだろう。
「ただ、感謝、しているのです」
「火事の時、助けてくださったものね」
メルセデスはかぶりを振った。
「それだけではありません。愛妾として選び、ここへ連れてきてくださったこともです」
謁見の間で、メルセデスを愛妾に選んでくれたから、魔女としての処刑を免れた。そして、帝国へ連れ出してくれたから、メルセデスは人間になれた。
「そう……。望まず連れて来られたけれど、あなたにとっては救いなのね……」
珍しく、思わず、といった風につぶやいたシュザンヌはどこか遠い目をしていた。
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