【R-18】【完結】魔女は将軍の手で人間になる

人間編

36:皇帝と将軍(1)

「そういえば、レディ・メルセデスには途中のままのお話がありましたわね」

　通算三度目のイルダのお茶会で、思いついたように切り出したのは、最初のお茶会で同じテーブルに着いた愛妾の一人だった。
　確かに初回は、途中で天気が崩れてお開きになった覚えはあるが、もはやメルセデスは何の話が中断されたか記憶にない。

　メルセデスはあまり人づきあいが得意ではないが、事件に関連しそうな情報を集めるため、イルダの誘いを欠かさず受けていた。メルセデスを気味悪く感じている愛妾には申し訳ないので、せめてもと終わればすぐに立ち去っている。
　最初のイルダのお茶会と同様に、メルセデスと組み合わせる人選に配慮がされているようで、彼女たちはメルセデスと気兼ねなく話してくれる。

「ほら、陛下と将軍閣下のお話ですわ」
「ああ、そうでした」

　確かにそのような話をしていた。

「丁度、このテーブルの皆さまは、お二人の噂が特にお好きだから、今日はその続きもして差し上げるわ」

　意味ありげに顔を見合わせる愛妾たち。

「レディ・メルセデスは、陛下が愛妾の元へ渡られない理由をご存知ですか？」
「陛下が、大陸統一を果たすまでは妻を迎えないと宣言なさったからと、聞き及んでおります」

　うふふ、と愛妾たちは笑みを深くする。
　手を付ければ宗教上の理由から妃としなければならないから、愛妾も抱かないという話だった。
　そんなに意味深な話だっただろうかと、メルセデスは首をかしげざるを得ない。

「では、将軍閣下も独身でおられる理由は？」

　それについては、考えたこともなかった。そもそも結婚している可能性も頭になかった。
　通常身分の高い男性ほど婚姻は早いはず。皇帝と将軍は同い年だと、以前聞いた。三十代半ばだから、どちらも間違いなく適齢期を過ぎていて、とっくに結婚していてもおかしくない。

「存じ上げません」

　答えれば、うふふ、と愛妾たちの意味ありげな笑みがますます深くなる。

「誰も直接伺ったことはないわ。閣下にそんな立ち入った話、怖くてできないもの」
「だから推測するのよ」
「閣下は恋人もおられないらしいけれど、あの体躯ですから、きっと精力的だわ」
「……性欲旺盛でいらっしゃるということよ」

　何が精力的なのかわからないメルセデスに、隣の愛妾がそっと耳打ちした。聞き間違いだろうかと耳打ちした愛妾を見返すが、彼女はすぐに口元を扇子で隠してしまった。

「とある筋からの情報によると、閣下は娼館で同じ傾向の女性に相手にさせるそうよ」
「容姿の話ではないわ」

　愛妾たちがずい、と顔を寄せて声を落とす。

「どうやら、女性に目隠しをさせて買うの」