上 下
77 / 180
人間編

33:調査報告(1)

しおりを挟む
「現在の容疑者は、根拠は弱いのですがロレンサ様だと思います」

 三日後、秘密の通路から訪ねてきたシヒスムンドに、メルセデスは最初の報告を始めた。

「なぜだ」
「はい。以前シュザンヌ様と私の二人でいた際に、気にかかる発言がありました」

 メルセデスは、シヒスムンドへ歓迎会の帰りに出くわしたロレンサのことを聞かせた。

『あまり図に乗るようでしたら、失踪騒ぎを起こして実家へ逃げ帰った、あなたの侍女のようになるわよ』
『陛下の大陸統一は目前……。私は必ず妃になるわ。あなたは無事に後宮から出ることに専念なさい!』

「もしかすると、ロレンサ様は、侍女が逃げ帰ったのではなく、殺害されたことを知っているのではないかと思ったのです」

 侍女のように逃げ出すことになる、ではなく、逃げ出した侍女のようになる、と言い放った。さらに、無事に後宮から出ることに専念しろとも。

「いなくなった侍女が、後宮の環境に嫌気がさして逃げ帰ったのではなく、実際には殺害されていることは伏せられているのですよね」

 侍女については、まず後宮内の限られた者だけで捜索したが、数日経っても見つかる様子がなかった。そこで、非常事態として男性を含めた兵士を後宮へ立ち入らせて捜索をしたところ、庭で隠された死体が発見された。その際、死体が見つかったことは伏せた。
 表向きには、侍女であっても頻繁には外へ出られない後宮での仕事に嫌気がさし、しかし物理的に勝手には出られないため隠れていたということにし、兵士たちに見つかって実家へ送り返されたことになっている。

「言い回しだけの問題のような気もするが、言葉の端にも注意を払うのは良い」

 シヒスムンドは満足げだ。メルセデスはひとまず期待には応えられていると安堵した。

「それから、後宮内で侍女殺害の件を知っているのは、お前ともう一人いる。シュザンヌだ」
「そうなのですか?」
「殺害されたのはシュザンヌの侍女だからな。他の女たちにも実家へ帰ったと納得させるためには、彼女にも口裏を合わせてもらう必要がある」

 たしかに、後宮に嫌気がさしたという体にしても、シュザンヌから、これまでそういった素振りはなかったという反論が出ては、話が浸透しづらくなる。

「まさかシュザンヌ様がご存じだったとは……。翌日にはもうお伝えしていたのですか」
「ああ。翌朝には仔細を説明した手紙を受け取っているはずだ」

 シュザンヌは全て知ったうえで、何事もなかったかのように振る舞うことにしたのだ。だから、自分の侍女が殺害されたとわかっていても、翌日のメルセデスの歓迎会を敢行し、ロレンサから侍女の話を持ち出されようと、全く動揺を見せなかった。

「しかしシュザンヌが口外することは考えづらい」
「はい。シュザンヌ様は、後宮の和を重んじておられます」

 従って、ロレンサが侍女殺害の件を、仮に誰かから教えられた可能性があるとすれば、犯人側だ。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

渡りの乙女は王弟の愛に囚われる

猫屋ちゃき
恋愛
現代日本から異世界へと転移した紗也。 その世界は別の世界からやってくる人や物を〝渡り〟と呼んで大切にする。渡りの人々は五年間、国の浄化などを手伝うことと引き換えに大切に扱われる。 十五歳のときに転移した紗也はその五年間を終え、二十歳になっていた。紗也をそばで支え続けた王弟であり魔術師のローレンツは彼女が元の世界に帰ることを望んでいたが、紗也は彼のそばにいたいと願っていた。 紗也ではなくサーヤとしてこの世界で生きたい、大好きなローレンツのそばにいたい——そう思っていたのに、それを伝えると彼はがっかりした様子で…… すれ違い年の差ラブストーリー

処理中です...