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人間編
33:調査報告(1)
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「現在の容疑者は、根拠は弱いのですがロレンサ様だと思います」
三日後、秘密の通路から訪ねてきたシヒスムンドに、メルセデスは最初の報告を始めた。
「なぜだ」
「はい。以前シュザンヌ様と私の二人でいた際に、気にかかる発言がありました」
メルセデスは、シヒスムンドへ歓迎会の帰りに出くわしたロレンサのことを聞かせた。
『あまり図に乗るようでしたら、失踪騒ぎを起こして実家へ逃げ帰った、あなたの侍女のようになるわよ』
『陛下の大陸統一は目前……。私は必ず妃になるわ。あなたは無事に後宮から出ることに専念なさい!』
「もしかすると、ロレンサ様は、侍女が逃げ帰ったのではなく、殺害されたことを知っているのではないかと思ったのです」
侍女のように逃げ出すことになる、ではなく、逃げ出した侍女のようになる、と言い放った。さらに、無事に後宮から出ることに専念しろとも。
「いなくなった侍女が、後宮の環境に嫌気がさして逃げ帰ったのではなく、実際には殺害されていることは伏せられているのですよね」
侍女については、まず後宮内の限られた者だけで捜索したが、数日経っても見つかる様子がなかった。そこで、非常事態として男性を含めた兵士を後宮へ立ち入らせて捜索をしたところ、庭で隠された死体が発見された。その際、死体が見つかったことは伏せた。
表向きには、侍女であっても頻繁には外へ出られない後宮での仕事に嫌気がさし、しかし物理的に勝手には出られないため隠れていたということにし、兵士たちに見つかって実家へ送り返されたことになっている。
「言い回しだけの問題のような気もするが、言葉の端にも注意を払うのは良い」
シヒスムンドは満足げだ。メルセデスはひとまず期待には応えられていると安堵した。
「それから、後宮内で侍女殺害の件を知っているのは、お前ともう一人いる。シュザンヌだ」
「そうなのですか?」
「殺害されたのはシュザンヌの侍女だからな。他の女たちにも実家へ帰ったと納得させるためには、彼女にも口裏を合わせてもらう必要がある」
たしかに、後宮に嫌気がさしたという体にしても、シュザンヌから、これまでそういった素振りはなかったという反論が出ては、話が浸透しづらくなる。
「まさかシュザンヌ様がご存じだったとは……。翌日にはもうお伝えしていたのですか」
「ああ。翌朝には仔細を説明した手紙を受け取っているはずだ」
シュザンヌは全て知ったうえで、何事もなかったかのように振る舞うことにしたのだ。だから、自分の侍女が殺害されたとわかっていても、翌日のメルセデスの歓迎会を敢行し、ロレンサから侍女の話を持ち出されようと、全く動揺を見せなかった。
「しかしシュザンヌが口外することは考えづらい」
「はい。シュザンヌ様は、後宮の和を重んじておられます」
従って、ロレンサが侍女殺害の件を、仮に誰かから教えられた可能性があるとすれば、犯人側だ。
三日後、秘密の通路から訪ねてきたシヒスムンドに、メルセデスは最初の報告を始めた。
「なぜだ」
「はい。以前シュザンヌ様と私の二人でいた際に、気にかかる発言がありました」
メルセデスは、シヒスムンドへ歓迎会の帰りに出くわしたロレンサのことを聞かせた。
『あまり図に乗るようでしたら、失踪騒ぎを起こして実家へ逃げ帰った、あなたの侍女のようになるわよ』
『陛下の大陸統一は目前……。私は必ず妃になるわ。あなたは無事に後宮から出ることに専念なさい!』
「もしかすると、ロレンサ様は、侍女が逃げ帰ったのではなく、殺害されたことを知っているのではないかと思ったのです」
侍女のように逃げ出すことになる、ではなく、逃げ出した侍女のようになる、と言い放った。さらに、無事に後宮から出ることに専念しろとも。
「いなくなった侍女が、後宮の環境に嫌気がさして逃げ帰ったのではなく、実際には殺害されていることは伏せられているのですよね」
侍女については、まず後宮内の限られた者だけで捜索したが、数日経っても見つかる様子がなかった。そこで、非常事態として男性を含めた兵士を後宮へ立ち入らせて捜索をしたところ、庭で隠された死体が発見された。その際、死体が見つかったことは伏せた。
表向きには、侍女であっても頻繁には外へ出られない後宮での仕事に嫌気がさし、しかし物理的に勝手には出られないため隠れていたということにし、兵士たちに見つかって実家へ送り返されたことになっている。
「言い回しだけの問題のような気もするが、言葉の端にも注意を払うのは良い」
シヒスムンドは満足げだ。メルセデスはひとまず期待には応えられていると安堵した。
「それから、後宮内で侍女殺害の件を知っているのは、お前ともう一人いる。シュザンヌだ」
「そうなのですか?」
「殺害されたのはシュザンヌの侍女だからな。他の女たちにも実家へ帰ったと納得させるためには、彼女にも口裏を合わせてもらう必要がある」
たしかに、後宮に嫌気がさしたという体にしても、シュザンヌから、これまでそういった素振りはなかったという反論が出ては、話が浸透しづらくなる。
「まさかシュザンヌ様がご存じだったとは……。翌日にはもうお伝えしていたのですか」
「ああ。翌朝には仔細を説明した手紙を受け取っているはずだ」
シュザンヌは全て知ったうえで、何事もなかったかのように振る舞うことにしたのだ。だから、自分の侍女が殺害されたとわかっていても、翌日のメルセデスの歓迎会を敢行し、ロレンサから侍女の話を持ち出されようと、全く動揺を見せなかった。
「しかしシュザンヌが口外することは考えづらい」
「はい。シュザンヌ様は、後宮の和を重んじておられます」
従って、ロレンサが侍女殺害の件を、仮に誰かから教えられた可能性があるとすれば、犯人側だ。
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