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人間編
30:和解(1)
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メルセデスが任務を引き受けると承諾してくれたのはよかったが、当初は難色を示していた。前回は口論にまで発展したにもかかわらず、素直に引き受けたのは一体なぜなのか、シヒスムンドにはわからなかった。何か企んでいるのか。
「いくつか、お詫びすることがあります」
思惑を疑っている間に、メルセデスが口を開いた。
「以前、閣下に、命がどうでもよいと考えているのはそちらも同じと申し上げて、ご不快にさせました」
「ああ」
放火犯の面通しの時のことだ。シヒスムンドは前後の会話の細部までは記憶していないが、この言葉は相当腹に据えかねたので覚えていた。
大陸統一のために、和平ではなく侵略を選んでいる。いくら戦場で犠牲を少なくしようと努力しても、やはり死人は出る。その選択を、命を軽視してのことと言われたと思い、激高した。軽いとは思わない。このまま国として双方存在し続けるよりは、将来的な悲劇はなくせるはず。軽視ではなく覚悟しての選択だ。
「あれは、閣下個人ではなく、人間のことを指したのです。……実際は違ったのですが、私は魔女と人間は異なる生き物と認識しておりました。また、人間と魔女は天敵の関係にあるため、種として当然に殺し合うとも。なので、人間が魔女を殺すのに、どうして私が人間を殺すことを咎められるのかと、あのような物言いとなりました」
メルセデスはまた頭を下げた。
どうやら、魔女という生き物がいないことは、理解して受け入れるに至ったらしい。三日前の錯乱状態からよく納得できたものだ。
彼女が三日前まで、自分を魔女という生き物と思い込んでいたのは確かだ。後宮の内通者の報告書の中で、彼女の歓迎会についての記載があった。同様の発言がされていて、それを同席していたアルビナという愛妾が信じたのだ。
そのアルビナという愛妾は、その魔力の特性で、人の言葉の真偽を確かめることができる。敵対関係にあるはずの彼女が信じたというなら、メルセデスの言葉に偽りはない。
「先遣隊のことも、存じ上げませんでした。閣下の、失われる人命を減らすためのご配慮を……。何も知らず、いえ、知ろうともせずに、命じられるまま、殺しました。ですが、知っていたとしても、魔女として処刑されることを恐れて、やはり殺しました。あの時は、私は人ではなかったので、ためらわなかったでしょう」
知ったことではないと言い放ったのは、言葉通り知らなかったのだ。宣戦布告に際して王国へどのような通達がされたのか、王太子はメルセデスに教えなかった。
だが、もし知っていたとしても、他人のための魔力の使用は許されることで、メルセデスにとって人間は殺しても構わないものであったから、やはり殺したという。
なぜこれほどの怪物になってしまったのか。なぜ同じ人間であると、あそこまで受け入れがたかったのか。生まれ持ってのはずはないのだ。
「いくつか、お詫びすることがあります」
思惑を疑っている間に、メルセデスが口を開いた。
「以前、閣下に、命がどうでもよいと考えているのはそちらも同じと申し上げて、ご不快にさせました」
「ああ」
放火犯の面通しの時のことだ。シヒスムンドは前後の会話の細部までは記憶していないが、この言葉は相当腹に据えかねたので覚えていた。
大陸統一のために、和平ではなく侵略を選んでいる。いくら戦場で犠牲を少なくしようと努力しても、やはり死人は出る。その選択を、命を軽視してのことと言われたと思い、激高した。軽いとは思わない。このまま国として双方存在し続けるよりは、将来的な悲劇はなくせるはず。軽視ではなく覚悟しての選択だ。
「あれは、閣下個人ではなく、人間のことを指したのです。……実際は違ったのですが、私は魔女と人間は異なる生き物と認識しておりました。また、人間と魔女は天敵の関係にあるため、種として当然に殺し合うとも。なので、人間が魔女を殺すのに、どうして私が人間を殺すことを咎められるのかと、あのような物言いとなりました」
メルセデスはまた頭を下げた。
どうやら、魔女という生き物がいないことは、理解して受け入れるに至ったらしい。三日前の錯乱状態からよく納得できたものだ。
彼女が三日前まで、自分を魔女という生き物と思い込んでいたのは確かだ。後宮の内通者の報告書の中で、彼女の歓迎会についての記載があった。同様の発言がされていて、それを同席していたアルビナという愛妾が信じたのだ。
そのアルビナという愛妾は、その魔力の特性で、人の言葉の真偽を確かめることができる。敵対関係にあるはずの彼女が信じたというなら、メルセデスの言葉に偽りはない。
「先遣隊のことも、存じ上げませんでした。閣下の、失われる人命を減らすためのご配慮を……。何も知らず、いえ、知ろうともせずに、命じられるまま、殺しました。ですが、知っていたとしても、魔女として処刑されることを恐れて、やはり殺しました。あの時は、私は人ではなかったので、ためらわなかったでしょう」
知ったことではないと言い放ったのは、言葉通り知らなかったのだ。宣戦布告に際して王国へどのような通達がされたのか、王太子はメルセデスに教えなかった。
だが、もし知っていたとしても、他人のための魔力の使用は許されることで、メルセデスにとって人間は殺しても構わないものであったから、やはり殺したという。
なぜこれほどの怪物になってしまったのか。なぜ同じ人間であると、あそこまで受け入れがたかったのか。生まれ持ってのはずはないのだ。
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