【R-18】【完結】魔女は将軍の手で人間になる

雲走もそそ

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魔女編

28:魔女なんていない(2)

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「このような時間にお約束もせず伺い、お話に割って入る形となり、まことに申し訳ございません」
「許します。アルビナ様も、よろしいですか?」
「ええ。私も構いません」

 アルビナが頷いたのを確認して、シュザンヌは侍女に目配せをした。侍女はそれを汲み取り、円卓に新たな椅子を運んできた。

「どうぞおかけになって」

 促されて、メルセデスは席に着く。

「昨日は臥せっておられたと伺いましたわ。よほどのことがあったのでしょう。アルビナ様と伺いますわ」

 メルセデスはやがてためらいがちに言葉を選びだした。

「どうしてもお尋ねしたいことがあり、訪問いたしました。ですが、これは私だけの問題で。このような無礼を働いてまでお聞きすることではなくて……」
「いいのよ。あなたが苦しんでいるのはわかるわ。すぐにでも役に立ちたいのよ」

 刺すような悪意と憎悪を身に受けても、殺人者としてあからさまに怯えられても、メルセデスに取り乱す様子はなかった。そんな彼女が、ここまで憔悴しきっていることにアルビナは驚いているようだ。一方シュザンヌは、なんとなく彼女の聞きたいことの予想がついていた。
 メルセデスはしばらく躊躇していたが、ようやく質問を絞り出す。

「魔女は……、私の祖国で魔女と呼ばれる者たちは……、この国では自由なのですか?」

 縋るような、むしろ否定を望むような目で見つめてくるメルセデス。
 この時が来たと、シュザンヌは憐れみと、かすかな安堵を感じていた。
 メルセデスは、何の切っ掛けかは知らないが、気づき始めている。歓迎会より前に、彼女の生い立ちを聞いた時からわかっていた。彼女の、置かれた環境の過酷さにより歪んでしまった異常な倫理観を、誰も指摘してこなかった。王国では気づける環境になかったし、帝国でもまだひと月しか経っていないのだからやむを得ないことではあるが。

 それでもシュザンヌが彼女を正そうとしなかったのは、相当な準備をしなければ、メルセデスの精神的負荷が大きすぎて、今のように逆に苦しめることになると想像していたからだ。いつかは教えてやりたいと思っていたが、ここまで急とは予想だにしなかった。
 シュザンヌは、深く息をついて、ようやく答えた。

「そのとおりよ」

 メルセデスはまるで残酷なことを告げられたように悲痛な表情で言い募る。

「魔女であっても、同じ人として、扱われるのですか?」
「そうよ。あなたの国で魔女と呼ばれている女性たちは、魔力を持っているだけの、同じ人間なの。だから、帝国では、同じ人間として、自由に振る舞っているわ」
「自由とは、どのようなものでしょうか。手枷で魔力を封じられるのでしょうか」
「いいえ。国にどのような魔力を持つかの記録はされるけれど、何の制限も受けないわ」
「私も――」

 静観していたアルビナが口を開く。

「私も魔力を持っています」

 メルセデスは息をのみ、アルビナを凝視する。

「アルビナ様は、人の心を見通す魔力をお持ちなのよ」
「おぼろげなので、せいぜい発する言葉を嘘か真か判別する程度ですが。……これは周知の事実です。歓迎会では、あなたに秘密で使いましたが」

 アルビナがメルセデスの信じがたい言葉を嘘偽りないと受け入れたのは、このためだった。そしてアルビナが信じたことで、周りの愛妾にも、話に嘘がないという信用を与えたのだ。
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