64 / 180
魔女編
28:魔女なんていない(2)
しおりを挟む
「このような時間にお約束もせず伺い、お話に割って入る形となり、まことに申し訳ございません」
「許します。アルビナ様も、よろしいですか?」
「ええ。私も構いません」
アルビナが頷いたのを確認して、シュザンヌは侍女に目配せをした。侍女はそれを汲み取り、円卓に新たな椅子を運んできた。
「どうぞおかけになって」
促されて、メルセデスは席に着く。
「昨日は臥せっておられたと伺いましたわ。よほどのことがあったのでしょう。アルビナ様と伺いますわ」
メルセデスはやがてためらいがちに言葉を選びだした。
「どうしてもお尋ねしたいことがあり、訪問いたしました。ですが、これは私だけの問題で。このような無礼を働いてまでお聞きすることではなくて……」
「いいのよ。あなたが苦しんでいるのはわかるわ。すぐにでも役に立ちたいのよ」
刺すような悪意と憎悪を身に受けても、殺人者としてあからさまに怯えられても、メルセデスに取り乱す様子はなかった。そんな彼女が、ここまで憔悴しきっていることにアルビナは驚いているようだ。一方シュザンヌは、なんとなく彼女の聞きたいことの予想がついていた。
メルセデスはしばらく躊躇していたが、ようやく質問を絞り出す。
「魔女は……、私の祖国で魔女と呼ばれる者たちは……、この国では自由なのですか?」
縋るような、むしろ否定を望むような目で見つめてくるメルセデス。
この時が来たと、シュザンヌは憐れみと、かすかな安堵を感じていた。
メルセデスは、何の切っ掛けかは知らないが、気づき始めている。歓迎会より前に、彼女の生い立ちを聞いた時からわかっていた。彼女の、置かれた環境の過酷さにより歪んでしまった異常な倫理観を、誰も指摘してこなかった。王国では気づける環境になかったし、帝国でもまだひと月しか経っていないのだからやむを得ないことではあるが。
それでもシュザンヌが彼女を正そうとしなかったのは、相当な準備をしなければ、メルセデスの精神的負荷が大きすぎて、今のように逆に苦しめることになると想像していたからだ。いつかは教えてやりたいと思っていたが、ここまで急とは予想だにしなかった。
シュザンヌは、深く息をついて、ようやく答えた。
「そのとおりよ」
メルセデスはまるで残酷なことを告げられたように悲痛な表情で言い募る。
「魔女であっても、同じ人として、扱われるのですか?」
「そうよ。あなたの国で魔女と呼ばれている女性たちは、魔力を持っているだけの、同じ人間なの。だから、帝国では、同じ人間として、自由に振る舞っているわ」
「自由とは、どのようなものでしょうか。手枷で魔力を封じられるのでしょうか」
「いいえ。国にどのような魔力を持つかの記録はされるけれど、何の制限も受けないわ」
「私も――」
静観していたアルビナが口を開く。
「私も魔力を持っています」
メルセデスは息をのみ、アルビナを凝視する。
「アルビナ様は、人の心を見通す魔力をお持ちなのよ」
「おぼろげなので、せいぜい発する言葉を嘘か真か判別する程度ですが。……これは周知の事実です。歓迎会では、あなたに秘密で使いましたが」
アルビナがメルセデスの信じがたい言葉を嘘偽りないと受け入れたのは、このためだった。そしてアルビナが信じたことで、周りの愛妾にも、話に嘘がないという信用を与えたのだ。
「許します。アルビナ様も、よろしいですか?」
「ええ。私も構いません」
アルビナが頷いたのを確認して、シュザンヌは侍女に目配せをした。侍女はそれを汲み取り、円卓に新たな椅子を運んできた。
「どうぞおかけになって」
促されて、メルセデスは席に着く。
「昨日は臥せっておられたと伺いましたわ。よほどのことがあったのでしょう。アルビナ様と伺いますわ」
メルセデスはやがてためらいがちに言葉を選びだした。
「どうしてもお尋ねしたいことがあり、訪問いたしました。ですが、これは私だけの問題で。このような無礼を働いてまでお聞きすることではなくて……」
「いいのよ。あなたが苦しんでいるのはわかるわ。すぐにでも役に立ちたいのよ」
刺すような悪意と憎悪を身に受けても、殺人者としてあからさまに怯えられても、メルセデスに取り乱す様子はなかった。そんな彼女が、ここまで憔悴しきっていることにアルビナは驚いているようだ。一方シュザンヌは、なんとなく彼女の聞きたいことの予想がついていた。
メルセデスはしばらく躊躇していたが、ようやく質問を絞り出す。
「魔女は……、私の祖国で魔女と呼ばれる者たちは……、この国では自由なのですか?」
縋るような、むしろ否定を望むような目で見つめてくるメルセデス。
この時が来たと、シュザンヌは憐れみと、かすかな安堵を感じていた。
メルセデスは、何の切っ掛けかは知らないが、気づき始めている。歓迎会より前に、彼女の生い立ちを聞いた時からわかっていた。彼女の、置かれた環境の過酷さにより歪んでしまった異常な倫理観を、誰も指摘してこなかった。王国では気づける環境になかったし、帝国でもまだひと月しか経っていないのだからやむを得ないことではあるが。
それでもシュザンヌが彼女を正そうとしなかったのは、相当な準備をしなければ、メルセデスの精神的負荷が大きすぎて、今のように逆に苦しめることになると想像していたからだ。いつかは教えてやりたいと思っていたが、ここまで急とは予想だにしなかった。
シュザンヌは、深く息をついて、ようやく答えた。
「そのとおりよ」
メルセデスはまるで残酷なことを告げられたように悲痛な表情で言い募る。
「魔女であっても、同じ人として、扱われるのですか?」
「そうよ。あなたの国で魔女と呼ばれている女性たちは、魔力を持っているだけの、同じ人間なの。だから、帝国では、同じ人間として、自由に振る舞っているわ」
「自由とは、どのようなものでしょうか。手枷で魔力を封じられるのでしょうか」
「いいえ。国にどのような魔力を持つかの記録はされるけれど、何の制限も受けないわ」
「私も――」
静観していたアルビナが口を開く。
「私も魔力を持っています」
メルセデスは息をのみ、アルビナを凝視する。
「アルビナ様は、人の心を見通す魔力をお持ちなのよ」
「おぼろげなので、せいぜい発する言葉を嘘か真か判別する程度ですが。……これは周知の事実です。歓迎会では、あなたに秘密で使いましたが」
アルビナがメルセデスの信じがたい言葉を嘘偽りないと受け入れたのは、このためだった。そしてアルビナが信じたことで、周りの愛妾にも、話に嘘がないという信用を与えたのだ。
1
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる