【R-18】【完結】魔女は将軍の手で人間になる

雲走もそそ

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魔女編

25:大陸統一の野望(1)

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 イルダのお茶会の翌日、前回の来訪から三日後の深夜、秘密の通路より約束通りシヒスムンドが訪ねてきた。
 侍女は普段からこの時間にはもう帰ってもらっている。

「それで?」

 前回同様、我が物顔でソファを陣取ったシヒスムンドは、メルセデスに開口一番そう聞いた。
 それで、引き受けるのか、引き受けないのか、という問いだ。

 侍女殺害の犯人の調査を、引き受けなければ知らない男に嫁がせてなぶり殺しにすると脅されている。一方で、引き受けたとして、メルセデス自身そこまで賢くも器用でもないと自覚しているので、後宮へ潜む犯人に調査を気取られ、侍女と同じく殺害される可能性がある。また、調査に失敗すればやはりこの将軍に始末されることだろう。
 どれを取っても命の危険がある。唯一生き延びられるのは、引き受けて、かつ犯人に察知されることもなく調査を成功させること。

「……お引き受けする前に、まだお聞きしたいことがあるのです」

 メルセデスの返事にシヒスムンドは眉間にしわを寄せた。

「無駄な時間稼ぎを……。まぁいい」

 シヒスムンドは、長い足を組み替え、手をぞんざいに振りメルセデスに続きを促した。質問を受け入れるということのようだ。

「報酬として、新天地を与えてくださると仰いました。その報酬を反故になさらない確証はいただけますか?」

 これはシヒスムンドの約束を疑うということに他ならないので、予想通りメルセデスは睨まれた。

「確かに、少しは考えているようだな……」

 シヒスムンドは急に秘密の通路の出入り口を指さした。

「この部屋に俺の痕跡を残せない以上、証文などは渡せんが、秘密を担保にしろ。約束を果たさなければ、あの通路の存在や、俺がここへ来たことを明かせ」

 通路は部屋の側からでは開けられなくても、壁を破壊すれば関係がない。人の往来した形跡のある秘密の通路が見つかれば、皇帝かその命を受けたものがこの部屋に来たことは推察される。
 大陸統一まで愛妾に手を付けないと宣言し、帝国貴族たちもしぶしぶそれを受け入れている。その状況で皇帝が密かにメルセデスの元へ通ったのではないかと知られれば、彼らの目指す平穏な後宮ではいられない大騒ぎになるだろう。

「言っておくが、俺は危険を冒してここにきている。後宮は男子禁制。お前が声を上げて人を呼べば、俺とてただでは済まん。愛妾の居室にいるのを誰かに見られた時点で、俺は不法侵入の罪が確定し、そしてほぼ間違いなく愛妾への……、危害を加えようとした罪も加わる。死罪か、良くて無期懲役だ」

 何か言葉を選んだシヒスムンドに、メルセデスは首を傾げた。

「部屋にいただけで危害を加えようとした疑いがかかるのですか?」
「当たり前だ。理由なく男が愛妾の部屋に侵入するか? 任務の話をしていたなどと誰が信じる」

 男子禁制であることは認識していたが、そこまで重い罪になるとは思ってもみなかった。逆に言えば、それほどの危険を冒してでも、メルセデスに引き受けさせ、秘密裏に事件を解決したいということになる。

「皇帝陛下は、閣下をそこまでの危険にさらしてまで、なぜ後宮を平穏に見せたいのですか? 後宮をどうされたいとお考えなのか、教えてください」

 皇帝は、大陸統一を果たすまで妃を迎えず、後宮の愛妾たちに手を付けないことで願掛けをしているという。
 それで放置しているかと思えば、シヒスムンドによれば、後宮は皇帝にとって愛妾を置いておくだけの場所ではなく、他に重要な目的があるそうだ。
 その目的のためには、後宮の安全に対する信頼を脅かす事件が起きていることを、完璧に隠さなければならないと考えている。だから、後宮を再び安全な場所に戻すため、侍女を殺した犯人を秘密裏に探させたい。
 根幹にある理由を知っておきたかった。

「俺は全く必要性を感じていないが、陛下がお前に十分な説明をしろと仰せだからな……」

 シヒスムンドは心底煩わしそうだが、観念したように口を開いた。
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