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魔女編

24:イルダのお茶会(4)

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「レディ・メルセデス。他に何かお知りになりたいことはあるかしら?」

 散々無責任な噂話をし尽くした後だが、愛妾たちはまだ手持ちの噂話を披露したいようで、新顔のメルセデスに期待の面持ちだ。

「そうですね……。では皇帝陛下のお話は何かありますか」

 ほんのわずかに顔を合わせただけで、何も知らない後宮の主。会話を始めると外したが、なぜか目元に薄布を下げて隠す謎多き人物だ。

「そうね。では陛下と将軍閣下のお二人の話をしましょう。後宮では人気のお題よ」
「あの二人はとても仲がいいのよ」

 彼女たちのお気に召した話題のようで、代わる代わる口を開いていく愛妾たち。

「お二人は同い年で昔なじみなのよ」
「この帝国の皇太子は、即位するまで顔を晒さず、影武者を傍付きとして持つ慣習があるのよ。正体を知るのは血の繋がった両親だけ」
「陛下も即位なさるまで誰もお顔を知らなかったそうよ」
「将軍閣下がその傍付きをお務めになったの。子供の頃から常に二人で行動しているから、気安い間柄のようね」

 暗殺対策なのだろうが、影武者としては問題があるように思えたメルセデスは、首を傾げた。

「影武者、にしては、お二人は容姿があまり似ていませんね……」

 顔立ちどころか、髪、目の色、体格すべてがまるで違う。

「そもそも皇太子時代は誰も陛下のお顔を知らないのだから、ご両親のどちらともかけ離れていなければ、お二人が似ていなくても関係がないのよ」
「皇太子らしき人物が二人いるけれど、どちらかわからない、という状況には変わりないから」
「そういうものですか……」

 納得いくような、いかないような。

「傍付きを務める間は何も活躍できないけれど、役目を終えた後は褒美として様々な便宜を図ってもらえるのよ」
「将軍閣下は元からお強い方だけれど、志願した帝国軍で存分にお力を振るえるように、その時の褒美として出世を望める花形部隊へ配属を願い出たというわ」
「規格外の方だから、そうでなくても将軍になられたでしょうけどねぇ」
「傍付きが終わってからも、懸命に身を立て将軍にまでなられて陛下をお助けしようだなんて……。ご立派だわ」
「でも気の毒な方だわ。だってあの目では陛下に――」

 ぽつり、とティーカップの紅茶が跳ねる。
 雨粒が降ってきたのだ。

「あら、今日は曇り空だったものね」

 イルダが立ち上がって合図すると、侍女たちが撤収の準備を始めた。

「皆さま、本日は楽しんでいただけたかしら。まだ足りないかもしれないけれど、雨が降ってきたから、続きを話したい方は各自のお部屋でどうぞ」

 そうして話の途中で、お茶会はお開きになった。
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