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魔女編

24:イルダのお茶会(1)

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 メルセデスは、昨日歓迎会に参加していた、敗戦国出身の愛妾イルダの主催するお茶会へ招待を受けた。直接ではなく、シュザンヌを経由してである。

 場所は歓迎会のあった中庭園ではなく、最も広い大庭園だ。花や木々が周囲に配置された、真ん中が大きく開けた芝生の庭。メルセデスは初めて足を踏み入れる。
 あいにくの曇り空に庭園は冴えないが、観賞のためではなく、この広い場所を使うための庭なのだろう。庭園は後宮の中では外側に面していて、大庭園と城を繋ぐ立派な門が設置されている。皇帝などが利用する中庭園の回廊に面する扉と、この大庭園の門と、その他の人の通行や食料等の搬入をするための通用口が、後宮と外を繋ぐ限られた出入り口だ。

 出迎えたイルダは褐色の肌と彫りの深い顔立ちをしており、今日は先日着ていた帝国の一般的な構造のドレスではなく、壮麗な一枚布を体に巻き付けるような不思議な衣装をまとっていた。
 彼女の国の民族衣装だそうで、イルダは公式行事や他人のお茶会には帝国のドレスを着るが、自分が主催の場合や平時は自国の服を身に着けるらしい。

「ようこそ。シュザンヌ。そしてレディ・メルセデス。メルセデスと呼んでもよくって?」
「お好きなように。イルダ様」

 案内されて、メルセデスはシュザンヌとは別のテーブルについた。お茶会の参加者は二十名弱で、四人程度ずつ複数のテーブルに分かれて座っている。
 この規模なら中庭園で十分に思えた。大庭園は広すぎて、真ん中でぽつんとお茶会をしているような気になってしまう。

「大庭園で催しているのは不思議でしょう?」

 同じテーブルについたイルダが、メルセデスが周りを見渡すのに気づいたようだ。

「この大庭園は基本的に外部も交えるような行事の時に利用されるの。一昨日の芸術家たちとの交流会とかね」

 シヒスムンドが言っていた愛妾たちの役目のことだ。敗戦国から集められた愛妾には文化人が多く、その知識や教養を後宮から発信しているという。その発信のための場が、この大庭園で行われる交流会にあたるのだろう。

「私がわざわざ大庭園でお茶会をするのは、参加者以外に話が聞こえないからよ。私は根も葉もない噂話が大好きなの。私のお茶会はなんでもいいから噂話を披露して交換し合うことが目的。でも、中にはとても不敬な噂話もあるの。侍女は告げ口などしないけれど、真面目な女官や私のことが嫌いな愛妾はそうとは限らないわ。だから、誰も隠れて聞き耳を立てる場所のない、広い大庭園の真ん中で話すのよ」
「なるほど……」

 確かに、端の茂みに身を潜めたとしても、距離がありすぎてこちらの話は届かないだろう。中庭園には周りに隠れる場所や建物があるので、イルダの危惧することが起きる可能性もなくはない。

「さあ皆さま。今日は新しい話はあるかしら?」

 そうしてお茶会が開始した。
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